魔族とバトルします。中編
「何やってんすかロイド様ぁぁぁっ!」
いきなり、グリモが声を上げる。
うおっ、大きな声を出すなよな。びっくりするだろ。
「い、一体どうしたんだよ……?」
「どうしたもこうしたもねぇですよ! さっきの攻撃、避けようと思えば避けれたでしょう! 野郎の攻撃をわざと受けるなんてどうかしてやすぜ!? 何かあったらどうするんですかい!」
あ、バレてた。
実際は際どかったが、好奇心で迷いが生じてついつい受けてしまったのである。
「……まぁそうは言っても、一度くらいは試しに受けてみないとわからないからなぁ」
術式を使わない魔力による物理現象。
魔術とはどう違うのか、どんな風に作用するのか、実際に受けてみないとわからないものである。
思ったよりはフツーだったけど、それも受けなきゃわからなかった事だ。
俺の返答にグリモは閉口している。
「あんたの命は一つしかねぇんだ! 自分の身を大事にしてくれねぇと困りやすぜ! くれぐれも無茶はしないでくだせぇよ!」
「何だよ、心配してくれてるのか?」
「そ、そういうわけじゃないですが……ぐっ、いつか俺のモンになる身体なんだ。こんなところで死なれちゃ困るんだよ……!」
ブツブツ言い始めるグリモ。
まぁ確かに、前世でも知らない魔術を見ようとしてモロに喰らって死んじゃったしな。
少しは慎重になった方がいいか。うん。
「試しに受けてみた……だとぉ……ハハハ、笑わせてくれるじゃあないか……!」
ごう、とギザルムの身体に周囲から集まった魔力が満ちていく。
ギザルムが両手を挙げ、そこに巨大な魔力球が生まれた。
目を凝らさずともわかる魔力濃度、パチパチと火花が爆ぜている。
おお、かなりの出力だな。
ここまでの魔力量は中々お目にかかれるものではないぞ。
「ここら一体の全魔力を集めた……この城は破壊したくはなかったんだけどね。キミが悪いのだよ? 僕を挑発するような事を言った、キミがねぇ……!」
怒りに引きつったような笑みを浮かべるジェイド。
面白そうな攻撃……だがこのままでは後ろにいるレンたちが巻き添えを喰らいそうだ。
「レン、皆を連れてここから離れろ」
魔力を一点に集めた結果、魔力圧により動けなくなっていたガリレアたちも起き上がっている。
兵士たちも戸惑っているし、今なら逃げられるだろう。
「う、うん……でもロイドはどうするの?」
「俺は大丈夫だ。いいから行け」
「……わかった。気を付けて!」
レンは名残惜しそうに何度も振り返りながら、皆を連れて走り始める。
よし、行ったか。レンたちがいたら邪魔だからな。
これで心置きなくいろいろ試しながら戦える。
「逃がすか!」
走り去るレンたちに向け、ギザルムが魔力球から数本の槍を放った。
だが俺が展開した魔力障壁がそれを弾き飛ばす。
ぎぃん! と鈍い音と共に弾かれた魔力槍が兵士を貫いた。
「おいおい、折角溜めた魔力を無駄使いするなよ。全魔力をぶつけてこないと面白くないじゃないか」
「……く、くくくく……そうか。そこまで死にたいならば思い通りにしてあげよう。僕の全魔力を乗せた『黒死玉』、こいつは全てを亜空間に飲み込む僕の最強の技だ。これを前にしてまだそんな減らず口が叩けるか、見ものだねぇ!」
ギザルムは集めた魔力球を一気に凝縮させていく。
みし、みしと空間の歪む音が辺りに響く。
あの黒い渦、見覚えがあるぞ。
ってことはあれを使えば……思考を巡らせているとグリモが声を上げる。
「ちょ、ロイド様一体どうするつもりなんですかい!? ヤバすぎる魔力圧ですぜ!?」
「問題ない、受け止める」
「今、無茶はするなって言ったばかりじゃないっすかあああああ!」
ギザルムは凶相を浮かべながら、掲げていた両手を振り下ろす。
「アハッ! 受け止められると思うならやってみるがいい! 全てを飲み込め!『黒死玉』!」
ごおう! と高速で放たれた魔力球は、瓦礫を消し飛ばし、兵士を貫き、土埃を吸い込み、あらゆる障害物を飲み込みながらもこちらへ向かって来た。
俺は『火球』にて炎を生み出し、魔力球へと放ってみる。
じゅう、と一筋の煙を残し、炎は消滅してしまった。
「アハハハハ! 無駄無駄ぁ! 僕の『黒死玉』は魔力障壁だろうがなんだろうが、全てを飲み込み擦り潰すんだよ! 防御は不可能! さぁ擦り潰されるがいいっ!」
高笑いするギザルム。
迫り来る魔力球にグリモが声を上げる。
「だあああっ! やっぱり無茶ですぜーーーっ!」
「大丈夫、無茶じゃないさ」
しかし俺はぽつりと呟いて返す。
先刻、自身で受けてみてギザルムの能力は大体わかった。
魔力に命令を乗せて飛ばすわけだが、その効果は単純なものに限られる。
そして魔力槍を『震撃岩牙』で相殺したように、似たような効果の魔術なら対抗も出来る。
ギザルムは魔術は魔族の使うこの力から生まれたと言っていた。
つまりその違いは術式を介すかそうでないか、ではなかろうか。
そしてあの魔力球と同じような現象を起こす魔術に俺は覚えがある。
――空間系統魔術『虚空』。
亜空間へ通じる穴を生み出し、そこに触れたあらゆる物体を消滅させるという魔術だ。
魔力障壁だろうがなんだろうが、何でもである。
一度『虚空』がどれくらいの質量を飲み込むのかを試した事があるが、山一つ丸呑みにしてしまった。
その時ふと思ったのだ。
この魔術同士をぶつけたらどうなるのだろう、と。
試した結果は、実際に見てのお楽しみである。
「――というわけで、ほいっとな」
俺が『虚空』を発動させると、目の前に黒い渦が生まれた。
直後、それと魔力球が激突する。
ぎゅううううううう! と唸るような音と共に混じり合い、弾き合い、溶け合い――そして最後には両方とも消滅してしまった。
「な、何ぃ!?」
驚愕の表情を浮かべるギザルム。そう、空間に空いた異空間への穴がぶつかり合うと、互いに喰らい合い何も起きずに対消滅してしまうのだ。
どんなとんでもない事が起こるのだろうとワクワクしながら『虚空』を並べて撃った俺の胸のときめきを返して欲しい。
せっかく真夜中に城を抜け出して、誰もいない海の上で試し撃ちしたのに……おほん、まぁそれはともかくだ。
「今のが最強の技、だったのか? ギザルム」
「ぐ、ぐぐぅ……!」
俺の言葉に歯ぎしりをするギザルム。
ふむ、この様子では先刻の言葉は本当だったようだな。
ならもうこいつに用はない。終わらせるだけ、である。
「じゃあ今度はこちらから行かせてもらうぞ」
俺が一歩踏み出すと、ギザルムは後ずさった。