ギルドカードの仕組みが知りたかっただけなんですけど
というわけでギルドカードの仕組みが気になった俺は、それを聞くべく冒険者ギルドを訪れた。
中に入ると受付嬢がダルそうに書類を眺めていた。
「こんにちはー」
「あー、はいはい一体何の用で……ってロイドさんじゃないですかっ!?」
俺を見た途端、受付嬢のいきなり目つきが変わる。
書類を投げ出し俺の前に駆け寄ってきた。
「やーーーっと来てくれましたね! もう、ダメですよ達成報告くらいは自分でしていただかないとっ! 言っておきますが今回の依頼だけでDランクに上がったのは特別中の特別なんですからね! 本来ならば最低でも3、4回は依頼をこなさないといけない所をタオさんの報告と私のごり押……信頼でちょっと強引にランクアップさせたんですから! これもロイドさんに期待しての事……本当の本当にここだけの話なのですからね。ふふん」
かと思うとすごい勢いで話し始めた。
ここだけの話の割に声がでかいぞ。
言われてカードを見てみればランクがEからDになっている。全く気づかなかったな。
まぁランクを上げるつもりもないし、別にどうでもいいんだが。
「ロイドさんは冒険者としての才能があります! 是非依頼をこなしてランクを上げてください!」
鼻息を荒くして俺を見つめる受付嬢。
「それより受付さん、ギルドカードについて聞きたいんだけど」
「使い方ですか? 何でも教えてあげますよ! 基本は身分証に加えて自身のステータスを見るものですが、他にも色んな使い方があるんです。例えばお金をチャージして飲食店などで貨幣代わりに使ったり、ランクに応じて冒険に必要な品のレンタルなんかも出来るんですよ。他にも色々特典があって、そういう観点から見てもランクを上げるのはおすすめなんです!」
得意げに語る受付嬢だが聞きたいのはそういう話ではない。
「いや、どうやって作ってるのか知りたいんだ」
「まさかの製造工程っ!? ……そんなの知ってどうするんですか!?」
「面白そうだからさ。……ダメ?」
「い、いえ……ダメではありませんが……」
そう言って受付嬢は考え込む。
考え込んだ後、俺に自分の方へ来るよう手招きし、小声で囁いた。
「……わかりました。ロイドさんにだけ特別ですよ。ちょっとこっちに来てください」
受付嬢はカウンターから出ると、俺をギルドの二階へと案内した。
扉を開けるとそこには印刷機や自動書記機などの様々な魔道具が置かれていた。
「ここでギルドカードを作っているんです。魔力伝導率の高い特製の金属板に魔力付与をしたインクで文字を刻むんですよ」
「へぇ、この金属板がカードの基礎となっているんだね。……特殊な加工をしているみたいだ。何かの薬品を塗布しているんだろうか。凄く薄くて透明な膜で覆われているように見えるけど……」
「そうなんですか? これ自体は冒険者ギルドの本部で作られているので、流石にわからないですね」
なるほど、本部から送られてくるものをこちらで情報を打ち込んで作っているのだろうか。
後でカードを分解してみよう。
なーになくしたとか言えばへーきへーき。
「……ロイドさん、まさかとは思いますが分解しようなんて考えてないでしょうね。再発行の際は金貨1枚がかかる上にランクも最初から上げ直しなので、決してそんな事はなさらないように」
「わかってるよ」
なるほど、そうなのか。そのくらいなら問題はなさそうだ。
後でカードを分解してみよう。
「ん、これは……」
ふと、部屋の隅に置かれていた紙束に目が止まる。
人相書きと共に書かれているのは、賞金額だ。
所謂手配書という奴だろうか。
だが何故こんなところにあるのだろうか。
「おっとそこに目を付けるつけるとは流石ロイドさんお目が高い。……何故手配書を人のいるフロアに貼らず、こんなところに置いているか、でしょう?」
「今から貼り出すところって感じでもないね。結構古ぼけているし」
「えぇ、これらは以前、下のフロアに貼られていた物なのですよ。一度は仕舞っていたのですが、近々張り直そうとしてここに置いていたんです。理由を知りたいですか? 知りたいですね?」
「え、別に」
一瞬の沈黙の後、
「――実はこの手配書の人物たちは皆、巷を騒がしていた暗殺者たちなのですよ」
受付嬢は語り始める。
いや、別に聞きたいとは言ってないのだが。
「『毒蛾のレン』、『百傷のタリア』、『糸蜘蛛のガリレア』、『巨鼠のバビロン』、『闇烏のクロウ』……いずれも金貨100枚を超える大物賞金首ばかりでした。ですが彼らの名は数年前、手配書から姿を消します。理由はとある男の出現でした。―『影狼のジェイド』。彼が名だたる犯罪者たちをまとめ上げ、暗殺者ギルドを作り上げたのですよ」
受付嬢の語り口には熱がこもり始めてきた。
余程語りたかったのだろうか。早く終わって欲しいのだが。
「ジェイドは暗殺者たちをまとめ上げたシャドウは冒険者ギルドに取引を持ちかけました。冒険者たちがやりたがらない汚れ仕事を自分たちに任せてくれ、その代わり我々へ懸けられた賞金を外して欲しい、と。もちろん最初は断りました。確かに誰もやりたがらない汚れ仕事はいくらでもあります。領民がまともに暮らしていけないような圧政を強いる悪徳貴族とか、誰も引き受けない依頼を受ける代わりに追加料金と称して食料やらなんやらを強奪していくようなゴロツキみたいな冒険者を何とかしてくれとか、そんな面倒な依頼書はずっと埃をかぶっていましたから。それらをこなしてくれれば非常に助かるのは間違いありませんが相手もまた指名手配犯、はいそうですかと言えません。冒険者ギルドは治安維持も兼ねていますからね。当然門前払いですよ。……しかし後日、彼らはそれらの依頼を全てやり遂げてしまいまいした。一度だけではありません。何度も何度も、暗殺者ならではのやり方で、です。特に彼らが狙ったのはこれから戦争を起こそうという人物。誉められたやり方ではないかもしれませんが、彼らの行動でかなりの命が救われたはずです。そう言った人物には我々も手出しできませんからね。民は感謝し、そのうち彼らに対する考え方も変わってきました。卑怯卑劣な暗殺者と毛嫌いしていたが、彼らも我ら冒険者とそう変わらぬ存在であろう。わざわざ争う必要もないのではないか、これは必要悪ともいえるのではないか、協力して仕事をするのもやぶさかではないのでは……そんな声が出始めて、彼らへの懸賞金は一旦取り下げられたのですよ」
受付嬢はすごい早口で語っている。
饒舌だ。ノリノリである。
「しかしある日、ジェイドは姿を消してしまいました。誰にも言わず、忽然と……それからというもの暗殺者ギルドの者たちは制御を失い、また好き勝手やり始めたのです。強盗に破壊活動、殺しこそ行いませんが結局は元の木阿弥、また賞金を懸けられるようになった……そういう話なのですよ」
「へーそうなんだ」
としか言いようがない。
受付嬢はドヤ顔だが、はっきり言って俺にとってはどうでもいい話である。
俺はただギルドカードの作り方を聞きたかっただけなんだけどなぁ。




