お礼をもらいました
「おいおいおいおい、ロイドお前ってやつは……こんなにたくさんの魔物の核をどうやって手に入れたんだよ!」
大量の核を前に、ディアンは驚き目を丸くしている。
「シロたちが手に入れてきてくれたんですよ」
「オンッ!」
「すごいじゃないか! ありがとうな!」
ディアンは誇らしげに頷くシロの頭に手を載せようとする。
「ヴヴヴ……!」
だがシロはそれを唸り声を上げて拒否する。
一瞬怯んだディアンだが、すぐに俺を見てニヤッと笑う。
「おおっと、主以外にはけして懐かない、か? やれやれ、気位の高い犬っころだぜ」
「すみません、ディアン兄さん」
「構いやしないさ。それよりこれで魔剣の量産に踏み切れそうだな」
「えぇ、魔剣部隊、とてもいい響きです。やってみましょう」
シロたちが魔物の核を手に入れてきたおかげで、魔剣の量産は問題なく出来そうだ。
材料は十分、やるだけやってみるとするか。
それからしばらく、俺はディアンの元で魔剣製作に尽力した。
何十本も失敗することで、付与に対する考え方も変わってきた。
まず武器ってのは付与をした時点でそこらの武器とは比べ物にならない強さになる。
だが付与は案外剥がれやすい。
戦闘による劣化はもちろん、鞘から出し入れする際の摩耗も結構無視はできないものだ。
早いものは十日もせずに剥がれてしまっているようだ。
故に攻撃力や剣の強度を上げるよりも、術式を維持する方が圧倒的に大事なのである。
特に魔剣は術式の一部が欠けただけでも魔術が発動しなくなり、ただの剣になってしまうからな。
「とにかく正確に、強く、術式を刻み込んでいく……!」
一文字一文字丁寧に、丹念に、編むのではなく、刻む感覚で。
念のため維持の術式も二重でかけておけば、一年くらいは持つだろうか。
持って欲しいところだ。なにせ一本作るごとに眩暈がする程の手間と金がかかっているからなぁ。
「ワンッ!」
工房に魔物の核を咥えたミニシロたち入ってくる。
「おう、お前ら今日も来たのか。ありがとな!」
「ワンワン!」
「よーしよし、餌だぞー」
ミニシロたちは魔物の核をその辺に置き、ディアンの出した餌へと群がる。
それにしてもどこから拾ってくるのやら……多分そこらの魔物を倒してくるんだろうが。
結構な量を持ってくるので、日に魔剣を一本、付与した剣を二本くらいは作れていた。
そして――
「アル兄ぃ、とりあえず魔剣三十本、完成だぜ」
「おお! これだけの魔剣を……素晴らしい!」
ずらっと並んだ剣を見て、アルベルトは目を輝かせる。
「これなら部隊として運用しても十分機能するだろう。ディアン、ロイド、二人共よくやってくれたな!」
「へへっ、俺は好きな事をやっただけだぜ」
「はい、俺も勉強になりました」
おかげで術式の固定、物質への付与、色々とノウハウを得られたな。
そのうち何かに転用してみるか。
「何か礼をしたいところだが……」
「おう、そうだなアル兄ぃ。ロディ坊に何かご褒美やらないとな!」
「うむ、何が欲しいんだ? 望みを言ってみるといい」
アルベルトの問いに、少し考えて答える。
「そうですね……ではディアン兄さんに魔剣を一振り作って貰いたいです。自分用のを」
俺の言葉に二人は顔を見合わせ、笑った。
「確かにロイドは自分の魔剣をまだ持ってなかったな」
「ははは! あれだけ作らされたら、そりゃ自分の分も欲しくもなるわな! 悪い悪い。だがそういう事なら任せておきな。俺が最高の魔剣を叩いてやるぜ!」
「僕も素材集めなどで協力しよう。最高の素材を集める事を約束する」
「おおっ! だったらアル兄ぃ、せっかくだから採算度外視でめちゃすげぇ武器を作ってやろうぜ! 玉鋼とか手に入ったりするかい!?」
「ふむ、魔剣を作る上で最も良しとされる魔力鋼だね。よし、僕の人脈を駆使し最高品質のものを用意しようじゃないか」
「へへっ、とんでもない魔剣が生まれそうだな。ワクワクしてきたぜ!」
二人は俺の事はほったらかしで盛り上がっている。
まぁいい魔剣が作れるなら何でもいいけどね。
翌日、材料集めが終わったとの連絡があったので工房へと向かう。
「おうロイド、よく来たな」
「要望通り、最高の材料を揃えておいたぞ」
「ありがとうございます。さっそく作りましょう」
というわけで俺の魔剣製作開始である。
ディアンが叩いた剣に魔髄液と共に術式を刻み込んでいく。
「そういやぁどんな魔術を込めるつもりなんですかい? やはりいずれかの最上位魔術とか?」
「それは見てのお楽しみさ」
グリモの問いに応えぬまま作業に集中することしばし――ようやく俺の魔剣が完成した。
俺の背丈にあった少し短めの剣。ほど良い重さで、丁度俺の手に馴染むようだ。
手にして角度を変えて眺めると、そのたびに白銀の刀身に光が反射し輝きを放つ。
「さてロイド、そろそろ何の魔術を込めたのか、教えてくれてもいいだろう?」
「そうだぜロイド、あまりもったいつけんなっつーの」
そういえば二人にも秘密にしていたんだっけ。
グリモも耳を澄ましているようだ。
何となく秘密にしたがそこまで隠すもんでもないし……逆に恥ずかしくなってきたな。
「そう改まって言う程のものではないのですが……そうですね。では外へ出て試してみましょう」
外へ出た俺が剣を握ると、刀身が白く光り始める。
少し離れた場所で立つアルベルトに手を振る。
「ではアルベルト兄さん、何か魔術を撃ってもらえますか?」
「わかった」
アルベルトはそう言うと『火球』を撃ってきた。
俺目掛け飛んでくる火の玉に向け、剣をかざす。
すると火の玉は消滅し、剣がほんのり赤く染まった。
「よし、成功だ」
ガッツポーズをする俺を見て、ディアンは不思議そうな顔をしている。
「驚いた。火の玉が消えちまったぞ。どんな手品を使ったんだ?」
「……なるほど、『吸魔』か」
アルベルトの言葉に、頷いて返す。
『吸魔』とは、魔術を受け止め自身の魔力に変換するという魔術。
対魔術師用魔術の一つで、一見強そうに見えるが相手の魔術を見てから発動する必要があり、常に術式を構えていなければならない。
故にこちらからの攻撃が出来ず、受け止めることに集中する必要があるので他の動きもとりにくい。
便利に見えて意外と使いにくい魔術なのだ。
「ふっ、考えたなロイド。確かに魔術としての『吸魔』は使いにくいが、魔剣にしてしまえばわざわざ術式を構える必要もなくなる。剣を振るうだけで相手の魔術を無効化、加えて魔力吸収出来るとなれば対魔術師戦においてとてつもないアドバンテージとなるだろう。これからの戦い、魔術師同士の戦いがメインになるに違いない。既にそこまで見据えているとは、我が弟ながら何という先見性……! 素晴らしいぞロイド……!」
「『吸魔』か……くくく、考えたじゃねぇか。こいつはあまり知られてないが、防御だけでなく攻撃にも使える魔術だ。一度受け止めた魔術は吸収して魔力にするだけでなく、そのまま無詠唱で撃ち返すこともできるんだ。その際に自前の魔術と合わせれば、二重魔術として発動できる。更に二重に足せば三重にもなる……! へへ、当然そこまで計算しての事だろうな。大した奴だぜぇ……!」
「ディアルド、いやロディベルト? もしくはアルディルド……? うむぅ、どの名も捨てがたいな……」
三人が何やらブツブツ言っている。
ちなみに何故『吸魔』にしたかというと、見知らぬ魔術を撃たれた時にこれで捕えればじっくり調べれるからだ。
俺が見た事ない魔術はたくさんあるだろうしな。
この剣はその為に術式を拡大し、許容魔力量の増加と術式の保持に性能の多くを割いている。
これでどんな魔術でも捕縛できるぜ。
我ながらいいアイデアだな。吸魔の剣とでも名付けておくか。




