獣が大量に獲れました
「アルベルト様、獲物を獲って参りました!」
「私もです!」
「私たちは鹿を!」
しばらくすると続々と近衛たちが獲物を捕えて帰って来た。
兎に蛇、鳥に魚、鹿や猪までである。
その大漁ぶりにアルベルトは驚いている。
「こりゃあまた随分捕まえたもんだ。大して時間も経っていないのにどうしたんだ?」
「いえいえアルベルト様、この森とんでもなく沢山の動物がいるんです! しかもどれもこれも警戒心が薄い。獲り放題ですよ! あとで狩りなどしてはいかがでしょう?」
近衛たちは興奮した様子で語っている。
まぁあれだけ獲れれば楽しいだろうな。
アルベルトは並べられた獲物を見て、ふむと考えこむ。
「……ふむ、だが獣は村の貴重な資源。いくら簡単に獲れるからと言って、やりすぎるのはよくないだろう。僕たちは今日中の食事が出来れば十分。これ以上の狩りは不要だ。他の者たちにもよく言っておくように」
「は、はっ!」
アルベルトに注意され、近衛たちは慌てて敬礼をした。
ともあれ食事の用意が始まる。
獣を捌き、血を抜き、下処理をした肉がシルファの前に運ばれていく。
シルファはそれを切って、煮て、焼いて、テーブルの上に並べていく。
その手際の良さに近衛たちは感嘆の声を上げていた。
「皆さま、お待たせいたしました。どうぞお召し上がりくださいませ」
調理が終わり、豪勢な食事がテーブルの上に並んだ。
肉汁滴るステーキや野兎のスープ、鳥の串焼きに山菜のサラダ、どれも美味そうだ。
近衛たちが幸せそうに食べているのを見ると、こっちまでお腹がすいてきた。
「お二方もどうぞ」
「あぁ、ありがとうシルファ」
「いただきます」
手を合わせ、綺麗に盛り付けられた料理に手をつけていく。
まずはお肉を……もぐもぐ。おおっ、これは美味い。
野生の獣の肉というのはこんなに美味いものなのか。
「美味しいよシルファ!」
「あぁ、さっき獲ったばかりの獣の肉なのに血生臭さを殆ど感じない。見事な腕だ」
アルベルトも舌鼓を打っている。
「お口に合って良かったです。肉の中でも特に血の匂いが薄い部位を使いましたので。それに薬味も沢山生えていましたので、匂い消しにと」
「へぇ、詳しいんだね。やっぱりシルファはすごいな」
「メイドの嗜みですので」
恭しく頭を下げるシルファ。
俺は思う存分、食事を楽しむのだった。
「ふぅ、満腹満腹」
食後のお茶が終わり、俺たちはゆっくりしていた。
既に日は落ちかけているので、魔獣狩りは明日の朝からの予定である。
デザートの甘い果実を食べていると、アルベルトが難しい顔をしているのに気づく。
「どうしたんですか? アルベルト兄さん」
「いや、妙だと思ってね。やけに沢山の獣が獲れすぎている。兎も鹿も猪も、活動時期が微妙にズレているんだ。にも関わらずこんなにあっさり獲れるのは、やはり何かおかしい」
アルベルトは顎に手を当て、考え込んでいる。
あまり獣の生態はわからないが、言われてみればこの森には入った時から何か違和感を感じていた。
何かあるのだろうか。
「ウオオオオオーーーン!!」
突如、獣の咆哮が響く。
音の方を向くと、森の中から巨大な狼が出てくるのが見えた。
「ま、魔獣だ!」
ゆっくり休んでいた近衛たちは慌てながらも武器を手に立ち上がり、魔獣を取り囲む。
針金のような分厚く黒い毛に、真紅の瞳。大きな口からは鋭い牙が覗いている。
そして、狼というにはあまりにも巨大な身体。
あれは確かベアウルフ。魔力により肥大化した身体は熊と見紛うほどだ。
「やるぞ! ロイドも来い!」
「はいっ!」
言われるまでもなく、俺は立ち上がりアルベルトに続く。
「ガオオオオオーーー!」
咆哮を上げながら突っ込んでくるベアウルフ。
近衛たちは剣を構え迎え撃つ――が、駄目。
ベアウルフは斬撃を物ともせず、近衛たちを吹き飛ばした。
その勢いのまま、こちらへと向かってくる。
「お二人とも、お下がりくださいっ!」
シルファがスカートを翻し、俺たちの前に立つ。
チラリと見えたスカートの裏側からは、無数の投げナイフが見えた。
それを、目にも留まらぬ速さで抜き放ちベアウルフに投擲する。
一本は額、二本は片目、もう一本は大きく開けた口の中へと命中した。
「ウゴォォォォォ!?」
「『炎烈火球』」
苦しみ暴れるベアウルフに、アルベルトが巨大な炎の塊を放つ。
ずずん! と炎がベアウルフに命中し、体毛を焼き尽くしていく。
しばらく暴れまわっていたが魔術の炎は消えず、そのうち力尽きてしまった。
「ガ……ア……!」
ベアウルフは呻き声を上げ、倒れ臥した。
動かなくなったベアウルフを見て、近衛たちが歓声を上げる。
「うおおおおお! 流石はアルベルト様だ!」
「素晴らしい魔術でございました!」
あっという間にアルベルトは近衛たちに取り囲まれてしまう。
胴上げでもしそうな勢いだ。
「ケッ、あれはロイド様の魔剣のおかげですぜ。奴自身の力じゃねぇ。どいつもこいつも見る目がねぇっすな」
グリモがそれを見て毒づいている。
何だか苛立っている様子だ。
「何を怒ってるんだ?」
「そりゃ怒りやすぜ! 評価されるべきはロイド様なのに、なんであいつが……」
「……?」
言いかけて、グリモは口を噤む。
「な、何を言ってんだ俺様は……? こいつが皆に評価されたら後で利用しにくくなるじゃねぇか。むしろ好都合のはずなのに……くそっ、わけがわからねぇ……だがなんだ、この苛立ちは……?」
そしてまた、いつものようにブツブツ言い始めた。
相変わらずよくわからん奴だ。
「ロイドーっ!」
近衛たちの中から、アルベルトが声を張り上げた。
「お前が付与してくれた魔剣のおかげだぞーっ!」
そう言って、ぶんぶんと手を振ってくる。
俺は愛想笑いをしながら、同じようにして返した。
とりあえず付与した魔剣は上手く作用しているようだな。うんうん。




