案内人が必要です?
翌日、エルフの国へ向かう準備をしていると、リオンが早足で歩み寄ってきた。
「どうしたんですかリオン兄さん」
「ロイド、エルフの国へ行くようだな」
「よくご存じで」
「長命種であるエルフはアセンブラでも重要研究対象だが、彼らは非常に警戒心が強く中々協力してくれない。にも拘らずあっさり協力者を見つけるとは大したものだ。しばらく見ないうちに神童ぶりに更に磨きがかかっているな。それでこそロイドだ」
何やらブツブツ言いながら近づいてくるリオンだが、準備の音でよく聞こえない。
リオンは俺の目の前に立ちはだかると、ビシッと指差してきた。
「しかし皆を案じているのは僕も同じだ。僕も同行させて貰うぞ!」
「え? いやー、それは無理ですね……」
「何故だぁっ!?」
ショックを受けるリオンだが、ついて来られたら俺が好き勝手出来ないじゃないか。
それは困るのでバロンに目配せをし断って貰うことにする。
「私が認めたのはロイド様のみ。如何にご兄弟と言えど、あなたを案内するわけにはいきません。ご了承ください」
「ロイドはよくて僕はダメ、だとぉ……?」
リオンがカチンときた顔をする。
あ、それは地雷だぞ。しかしバビロンは俺にウインクをして、言葉を続ける。
「そうではありません。あなたにはあなたの役目があると言っているのです。ロイド様が持ち帰った情報を即座に分析し、知識を精査し広める――それは医学知識の豊富なあなたにしか出来ないことでしょう?」
「僕にしか……出来ないこと……」
心配していたが見事に言いくるめてしまった。
一瞬ヒヤッとしたが……うーむ、素晴らしい口車だ。一度わざと下げておきながら上げるか。やるなバビロン。
俺ではこうはいかない。リオンは口を噤み、考え込む。
「……なるほど。今まで人を拒み続けてきたエルフの国としては、大人数を迎え入れたくないのは理解できる。しかし子供一人ならなんとか、というところか」
「流石はロイド様の兄上。とてもお聡いことで」
「――つまりは僕に自分で協力者を探せと言っているのだな」
「へ?」
リオンの言葉に思わず間の抜けた声が漏れる。いや、なんでそうなる?
しかしリオンは得意げに鼻を鳴らすのみだ。
「ふふん、構わんさ。ロイドに出来て僕に出来ないわけがないからな! どちらが先にエルフの国へ行けるか勝負だぞロイド!」
そう言って前髪をかき上げ、去っていくリオン。
……ま、いっか。エルフの案内者なんかそう簡単に見つかりはしないだろうし、そのうち諦めるだろう。
◇
そして出立の日が訪れた。
ついてくるのは護衛役兼世話係のシルファにレン、そしてバビロン(バロン)を加えたものだ。
コニーは留守番だ。中にいるベアルが暴れたらエルフたちとバトルになりかねないからな。
「ふん、エルフ如き雑魚に興味はない。それより我もしばしここを離れようと思っているのだ」
「そうなのか?」
「あぁ、一度魔界に戻ろうと思っている。長い間留守にしてしまったし、一度くらいは帰った方がいいだろう。やらねばならぬこともあるしな」
「なんだそれ、面白そうだな。俺も行こうかなぁ……」
「って何でロイド様がついて行こうとしてるんですかいっ!?」
グリモがツッコミを入れてくるが、惹かれるものは仕方ないだろう。
だがチャールズ他色々に言って回っている以上、今回は無理だ。残念無念。
「今度絶対行くからな! 歓迎するんだぞ」
「よかろう。万全の出迎えを期待するがいい」
「約束だからな。……あ、でもコニーも魔界に連れて行くつもりなのか?」
「いいや。そろそろ我の魔力体も安定してきたことだ。行くのは我だけで十分だろう。ただ分離に時間がかかるから、お前たちについて行かせるのは無理だろうがな」
一体化しているコニーとベアルだが、以前俺が切り離したことで繋がりが弱まっている。
数日かければ完全に分離するのも可能になったのだ。里帰りもそれが可能となったからだろう。
「私はお留守番しとくから平気。気をつけてね二人とも」
「うむ、しばし達者でな」
「あぁ、そっちも気をつけろよ」
別れを告げてサルーム城を出ようとした、その時である。
「待て待て待て、待てーーーっ!」
後方からの叫び声が聞こえてくる。振り向くと馬車と兵を用意したリオンが息を切らせていた。
「はぁ、はぁ……ふん、偶然だな。丁度僕たちも出るところだったのだ」
「リオン兄さん、出るところ、というのはその――」
「無論、森を案内するエルフを見つけたのさ」
不敵に笑うリオンが目配せをすると、白いフードを被った少女が一歩進み出る。
背丈はシルファより少し低いくらいだろうか。美しい金髪はフードの中に蓄えられており、長い耳がちょこんと揺れていた。
何より体内を流れる魔力の波長、人間とは絶対に違う。まごうことなきエルフである。
「我々は彼女に森を案内して貰う予定だ。さ、自己紹介をするがいい」
「……フィオナ、です」
彼女が頭を下げると、腰まで伸びた長い緑髪がふわりと揺れる。
「ほう、フィオナたんと言いましたか。今までになかったタイプの美少女ですね。何を考えているのかわからないミステリアスな瞳、口数少ない貞淑さ、そして何よりもあの豊満という言葉ですら生温い程の圧倒的巨乳……ッ! 素晴らしい。あれだけのモノはそうお目にかかれるものではありませんよ……!」
「テメェの頭はそれだけかっ!」
不気味に笑うジリエルの後ろ頭をグリモが思いっきり殴り倒す。
ふむ、バロンのような紛い物ではない本物のエルフか。一体どこで見つけてきたのだろうか。
不思議がっているとシルファとレンが耳元で囁いてくる。
「リオン様は先日、城下に御触れを出していたのですよ。迷いの森を案内してくれる者には望みの報酬を用意する、という旨のものを」
「冒険者ギルドにまでお触れを出してて、城下は大騒ぎだったらしいよ」
「へぇ、それでも本当に来たってのはすごいな」
先述の通りエルフは案外人里に降りてきているが、非常に警戒心が強く決してその正体を明かすことはない。
ましてや人間を自国にまで案内するなど……ありえるのだろうか? 何かよからぬことを考えているのやも……
訝しんでいるとフィオナがゆっくり近づいてくる。
「あなたが……ロイド……さま?」
「? あぁ、そうだが……」
無表情、しかしその目は見開かれ、俺から目を逸らそうとしない。
更に一歩、フィオナが近づいたかと思うと――いきなり抱きついてきた。
むぎゅ、と柔らかいものに包まれたことに気づいた、次の瞬間。
凄まじい殺気が辺りに走る。気づけば俺は解放され、両手を宙に放り出した姿でフィオナが宙吊りにされていた。
襟首を掴んでいるのは恐ろしく冷たい目をしたシルファである。
「……殺します」
「ちょ、シルファさんっ!? 落ち着いて! 首絞まってますからっ!」
「締めているんですよ。ふふっ……私はロイド様の専属メイド。突然近づいてくる危険な輩を排除するのは当然の責務です。特にいきなり抱きつくような女は特一級殺戮対象ですから。ふふふふふ」
薄い笑みを浮かべるシルファ。殺すな殺すな。
基本は優秀なメイドなんだが、俺のこととなるとすぐブチ切れちゃうんだよな。




