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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます  作者: 謙虚なサークル


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神とバトルします。後編

 とぷん――と視界が真っ暗闇になる。

 泥が全身に絡みつき、全く身動きが取れない。ふむ、これが奴の言ってた真の力とやらか。

 空間に囚われた者は上下左右も分からぬ中、全身を蝕まれ取り込まれてしまうというわけだ。

 効果範囲の広さに加え、この強力な魔力密度。並の相手なら対処は不可能である。

 ――無論、俺は別だがな。


「空間系統魔術『虚空』」


 周囲に無数の空間孔を開け、一気に泥を吸い出していく。

 ごぉぉぉぉぉ! とうるさい程の音が響き渡る。

 おーおー、すごい勢いだな。空間孔は泥を吸い込み続け、やがて潮が引いていくように闇が晴れていく。


「へっ、ロイド様をあんな泥で倒そうなんて百年はえぇぜ」

「しかし……さっきまでとは随分様子が変わりましたよ」


 ぐるりと辺りを見渡すと、空は真っ赤に染まり、泥が吸い込み切れなかったのか黒い霧が辺りに浮いていた。

 足元は黒く染まりタールのようにべったりとへばりついている。


「まるで地獄の窯が開いたようでございますね……」

「あ、聖王が落ちてやすぜ」


 泥だらけの聖王が向こうの方に転がっている。

 そういえばいたんだっけ。あの泥に飲まれても大丈夫なのは流石というべきか。


「おーい、生きてるかー?」

「う……」


 呻き声を漏らして半身を起こす聖王。

 かなりぐったりしているが、どうやら息はあるようだ。


「それにしても神の奴、どうなっちまったんでしょうかね?」

「『虚空』に呑まれて消えたのでは? 魔力体といえど異空間に放り込まれればどうにもなりません」


 それにしては妙だ。さっきまで感じられていた奴の気配がまだ残っている。

 最初は床などに残った泥かと思ったがそちらは徐々に薄れており、他の箇所に気配が集まっているように感じる。

 その向かう先は俺の傍で座り込んでいる――


「ッ!?」


 聖王の口の中から飛び出したのは漆黒の槍。

 がんっっ! と重い衝撃が走り、それは俺の額を貫く。


「ロイド様ぁっ!?」


 吹き飛ばされた俺は空中で身体を反転させ、勢いよく地面を足で突き立てた。

 踏みしめた地面は大きく砕け、めり込んだ足がブレーキの役割を果たすが、それでも数十メートルは吹っ飛ばされてしまう。


「大丈夫でございますかっ!?」

「……あぁ、ちょっと痛かったけどな」


 ヒリヒリする額を抑えながら答える。

 聖王(?)はゆらりと身体を起こしながら、口元を歪める。

 目も口の中もあの泥のように真っ黒だ。

 その笑みは、雰囲気は、先刻まで対峙していた相手――神と酷似していた。


「ほう、あの一撃を受けて平気な顔をしているとはな。老人の身体では勝てんわけだ」

「……なるほど。それがお前の正体ってわけか。ようやく理解したよ神――いや、暴食の魔王グラトニーと呼ぶべきか?」


 様々な神らしくない行動、所々から感じられる魔王の気配、そして極め付けは他者の身体と交わるその力……ここまで来れば鈍感な俺でも気づく。

 ――暴食の魔王グラトニー。魔界に弱者として生まれながらその周到さと臆病な性格で魔王にまで成り上がるも、神に目を付けられ天界に攻め入るも敗北。天からはグラトニーが吸収した大量の魔人、魔族が降り注いだとされている。

 だがそうではなかったのだ。グラトニーは神を倒し、自分は死んだことにしてカモフラージュの為に自らの吸収した者たちをバラまいた。そして神に成り代わって、ここにいる。


「ふん、やはりそうであったか。あの泥からは強烈なまでの魔王の気配が感じられた。先刻の泥もロイドを狙ったものではなく、聖王を吸収しようとしたのだな。その為に奴を呼び寄せたと」


 つまりはそれが奴の言っていた真の力だったのだ。

 他者を吸収し力を得る、暴食の魔王の本領発揮というわけだろう。


「ふっふっふ、くはははは! その通りだ。余は暴食の魔王グラトニー、よく言い当てたと言いたいところだが、後代がいてそのザマでは叱咤すべきなのかもしれんな」


 神、改めグラトニーは挑発するように笑みを浮かべている。


「馬鹿な……神が……魔王だったですと……? 信じられません……!」

「だがそうだとしたら全て辻褄は合いやすぜ。よくバレずにいたもんだがよ」

「くくく、冥途の土産に教えてやろう。天界に攻め入った余は天使どもをなぎ倒しながら神の元へと向かった。しかし神は想像以上に難敵でな。融合を解除する力を持っており、中々苦戦を強いられたが奴め、予想以上に甘い男でな……くくっ、念の為捕らえておいた天使どもを『盾』にしたら途端に抵抗するのを止めて大人しくなったよ。そして余は天使どもの命を救うのを条件に神を殺したのだ」

「……意外だな。お前みたいな奴は天使たちもついでに皆殺しにしそうなものだが」

「ふふ、何も分かっておらんな。殺すことなどいつでもできる。それよりも神に成り代わって配下に加えた方が有用だろう?」


 グラトニーはくぐもった笑みを漏らしながら、言葉を続ける。


「――あぁ、ちなみに現在の天界64神は全員が余の配下である高位魔族だ。一応半数は本物が残っていたのだが、どいつもこいつも存外優秀でな。気づきおるからすぐ消さねばならず参ったぞ。何も知らずにいれば飼ってやろうと思ったのに、わざわざ死にに来るのだ愚かなことだ。くっくっ」

「なんということだ……我々はずっとグラトニーに従っていたというのか……!」


 歯噛みをするジリエル。そりゃまさか天界がまるごと魔王たちに支配されていたとなればショックを受けるのも無理はない。


「こうして神の座を得た余は人間どもを利用すべく聖王制度を作った。人の中でより余の魔力体と相性が良い者を予め選び、使徒とすることでいつでも融合可能な予備としたのだよ」


 魔力体である魔族は人の身体に入り込み、我が物とすることが可能。聖王はその器ということか。


「強い人間である程乗っ取った後の能力は高ぇですが、馴染むにも長い年月が必要。そこで聖王を使うってことかよ。考えてやがるぜ」

「聖王は指令を通して奴の魔力を受け入れることで、より馴染み易いというわけですか……!」


 グリモとジリエルが息を呑む。

 確かに、先刻とは比較にもならない程の魔力の昂ぶりだ。

 圧倒的なまでの力の奔流に、ただ立っているだけなのに吹き飛ばされそうだ。


「くくく……力が溢れてきおるわ。この者は歴代聖王で最も強い力を持っていたが、下らん平和主義者で持って生まれた力を十分に使えぬ腰抜けだったからな。しかしそれもここまで、余がその力存分に振るってくれようではないか!」


 かっ、と目を見開くグラトニー。

 瞬間、俺の視界が黒く染まる。

 どぉん! と爆発音が遅れて聞こえてくる。


「おい、大丈夫かロイドよ!」

「いてて……あぁ、ちょっと腕がヒリヒリしたくらいだ」


 しかし俺の魔力障壁を貫き、ダメージを負わせるとはな。術式も使わないただの魔力撃がなんて威力だ。

 速度、威力、そして広範囲に繰り出される黒の閃光。

 グラトニーはその手に黒い十字架を生み出し、俺に迫る。


「ふはは! まだまだ出力は上がっていくぞ!」


 振り下ろされた十字架を、俺は両掌で受け止める。

 ずずん! と踏ん張った拍子に地面が大きく砕けた。


「どこまで耐えられるものか、見せて貰おうか!」


 地面に縫い付けられた俺に繰り出される追撃、追撃、追撃。

 どどどどど、と豪雨の如き連打が降り注ぐ。


「一撃一撃がなんつー重さ! これが真の力を発揮したグラトニーかよ!」

「先刻とは桁が違う……ベアルよりも遥かに強いですよ! 最強の魔王と謡われるだけはある!」


 だったらこっちも思う存分力を振るえそうだな。

 俺はひょいっと連打から抜け出し、反撃を仕掛ける。


「神聖魔術『極聖光』」


 指先から放たれる閃光が炸裂する――が、グラトニーは微塵も気にする様子はなく突っ込んできた。

 ふむ、俺の神聖魔術が全く効果がないか。

 グラトニー自体の魔力も十分強力なのだが、聖王の身体を使っているので神聖魔術の効果が薄れているのだろう。

 天界に神として君臨することで天敵と対峙することをなくし、人と融合することで自らの弱点を消す。この用意周到さがグラトニーの強さなのかもな。


「……なるほど、こいつは弱点がない」

「その通り! 神の力を得た魔王、余こそこの世界で無敵の存在よ!」


 気づけば手にした十字架が巨大化していた。

 黒々とした魔力を纏ったそれを、俺目掛けて振り下ろす。


「くたばるがいいッ!」


 どぉん! と大地が十字に砕け、そこから爆煙が巻き起こった。

 深い亀裂の底はもはや見えず、もうもうと立ち昇る煙をグラトニーは一瞥する。


「……ちなみにベラベラと喋った理由は貴様を確実に殺すべく、自身を追い込む為よ。覚悟と誓約による魔力の増強、最強の力押しというやつだ。余は周到だからな。確実に滅するべく最初から全力で行かせて貰った。これだけの攻撃を喰らえば如何に貴様とて生きてはおるまい」


 くるりと背を向けるグラトニーに、俺はその頭上から声をかける。


「なるほど、覚悟や誓約などの強い意志により己を追い詰めて魔力の底上げか。魔力体とは特に相性が良さそうだな」


 愛や勇気、嫉妬、憎悪などなど様々な感情強さを使って魔術の効果を増す方法はそれなり存在する。

 とはいえ感情というのは制御するのが難しく、しかも術式制御中は冷静さも求められる為、魔術においては必ずしも有用とは言えない。

 最後の一撃を振り絞るとかならまだしも、常用するのは難しいのだ。

 しかし魔力体ならダイレクトに感情を肉体に込められるし、殴り合いをすることでテンションも上がりやすい。相性は抜群である。


「な――ッ!?」


 だがそれ故に、熱くなりすぎると周りが見えなくなるという欠点もある。

 驚愕するグラトニーの足元に転がっているのは俺の抜け殻だ。

 魔力体のガワだけ残して空間転移で移動したのだ。冷静であれば気づいただろうがな。


「普通はガワだけ残しても、手ごたえがなくなるから気づくと思いますが……」

「ガワだけであれだけの猛攻に耐えるとか、どんだけ硬ぇんすかロイド様はよ」


 何を言ってるんだ二人共。このくらいはまだ序の口以下なんだぞ。

 俺が人差し指をくいっと持ち上げると、グラトニーが宙に浮き上がる、


「うおおっ!?」

「感情を乗せてぶん殴るのも悪くはないが、その程度の出力なら平静なままで普通に出せるだろ。――こんな風に」


 指先を弾くと同時に――ばちぃぃん! と弾くような音がしてグラトニーが吹き飛ぶ。

 そのまま地面に叩きつけられ、衝撃で巨大な地割れが生まれた。


「先刻のグラトニーの一撃に勝るとも劣らぬ攻撃……しかも魔術を使っておらんな? 一体何をしたのだロイドよ!?」

「ただの物理現象だよ」


 指先に絡めているのは透明な糸――魔力体を薄く伸ばし、束ねたものだ。

 それを弓のように弾き絞り、グラトニーに当てたのである。

 張力ってやつだな。より少ない力で大きな力を生み出す術はわざわざ感情に頼らずとも、幾らでもある。

 例えば他にも……ひょいっと糸を引いて大穴からグラトニーを吊り上げると、ぐるぐると回し始める。

 遠心力により高速回転させながら、もう片方の手で生み出した光武・大槌を叩きつけた。幾ら神聖魔術に耐性があろうと、無理やりぶつければダメージはある。

 ――ぐしゃり、とひしゃげたような音がしてグラトニーの動きが止まった。


「まだまだ行くぞ。気功牙・旋」


 放たれた気の牙が螺旋を描きながらグラトニーを貫いた。

 魔力体であることを利用し本来の十倍以上の密度に練り込んだ気功牙・旋は、当たった後も勢いを失わずそのままグラトニーを運んでいき――遥か彼方で爆ぜた。


「がぁぁぁぁぁぁっ!?」

「――とまぁ、こんな具合にな。感情に任せた戦い方は短期的には悪くないが、思考の幅が狭まりやすいんだよ。だから思わぬところで足を掬われ、いいようにやられてしまうんだよなー」


 それに冷静さを失えば分析もできなくなる。喋りながらも俺は右手を持ち上げたまま魔力体を生成していく。

 作り上げたのは、杖だ。即ち魔術増幅装置である。それを五つ束ねる。

 さっきは一発撃っただけで壊れちゃったからな。これだけ重ねれば上級魔術くらいなら撃てるだろう。


 火系統上位魔術――『焦熱炎牙』。

 発動と同時に俺の視界が赤く染まる。杖が全て砕け散り、炎が、全てを飲み込んだ。


「あちっ、あちちっ、ちょ、火を弱めてくだせぇロイド様! こっちまで焼けちまいやすぜ!」

「効果範囲が広すぎます! 辺り一面が火の海ですよ!」

「おっとと、やりすぎたか」


 うーむ、特に工夫をしたわけでもないのに半端じゃない威力である。

 やはり杖はダメだな。威力があり過ぎて使いづらい。水系統魔術で豪雨を降らせ、炎を鎮めていく。

 黒煙が晴れ行く中、蠢く影が見える。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 息を切らせながら立ち上がるグラトニー。

 身体のあちこちが黒焦げになって見えるが、その魔力体は殆ど傷ついてないようだ。

 精神的には結構ショックみたいだが。


「調子に……乗ってくれたな……しかしこちらもまだまだ余力は残されている。戦いはこれからだ。大した攻撃ではあったが、貴様とてあれだけの魔術を使えば随分消耗しただろう――」


 言いかけてグラトニーが驚愕に目を見開く。

 待機術式を用いて生み出した大量の魔術、杖により強化したそれらを周囲に浮かべた俺を見上げ、絶句したのだ。


「安心しろ。今のはほんの小手調べ。まだまだ余力はあるぞ。……あぁ、次はお前の番か。よしよし、今度こそちゃんとした本気で来いよ」

「馬……鹿な……! 今のが全力ではなかっただと……?」


 一体何を驚いているのか知らないが、そりゃあそうに決まっているだろう。

 だって俺はまだ基本の魔術しか使ってないのだから。


「ありえない……ありえない……!」

「? 何言ってんだ。さあ早く、真の力による本気の攻撃を見せてくれよ。感情を乗せた攻撃なんてショボいものじゃなくて、もっと趣向を凝らしたものをさぁ!」


 俺の言葉にベアルが沈痛な声で答える。


「……ロイドよ、間違いなくあれが奴の全力だぞ。貴様は我との融合により強くなりすぎているのを忘れるな」

「えぇ……そうなのか?」


 俺の問いにグラトニーは顔を顰めて返す。

 うーむ、どうやら正真正銘あれが全力だったようだ。

 だとしたら――俺は冷めた目で見降ろしながら、ため息を吐く。


「はぁ、やれやれ……どうやらお前と戦うより、聖王と話してた方がまだ得られるものがありそうだ。なぁ、今から変われないか?」

「……ッ! き、貴様ァ……ッ!」


 グラトニーは怒りに顔を歪め、歯噛みをするのだった。


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― 新着の感想 ―
さ、さすがロイドさま!俺たちにできないことを平然とやり遂げる!!!そこに痺れる、あこがれるぅ~!!!
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