神とバトルします。中編
◇
眩い光が眼前で爆ぜる。
「かあっ!」
気合と共に飛び込んでくる神。
手にはいつの間に取りだしていた錫杖が握られていた。
目眩しからの隠し武器か。神を名乗ってる割に中々ダーティな戦い方だ。
その一撃を片腕を上げてガードすると、ずずん! と衝撃波が響き空気が震える。
「――ほう、神罰の杖を使った余の一撃を軽々受け止めるとは、俄かには信じられんな」
驚く神だが、それはこちらも同じだ。
なんという一撃、魔力体である俺が弾き飛ばせないとは、なるほど神を名乗るだけはある。
ギリギリと火花散る押し合いをしていたその最中、
「この腐れジジイ! 死ぬがよい!」
俺の尻尾からベアルが勢いよく飛び出した
拳が神の顔面を捉え、そのまま連打に移行する。
「ふはーーーっはっはっはぁ! 死ね! 死ね! 死ねぇぇぇっ!」
「ぬっ! ぐぅっ!?」
杖でガードする神だが、連打に次ぐ連打にたまらずその場に縫い付けられている。
魔力体同士の殴り合いか。折角だしこの身体がどれほどの強度か試してみるいい機会かもしれない。
融合を解除したら二度とこの身体は使えないわけだし、どこまで本気を出せるのか知ることで魔術への知見にもなるからな。
ってなわけで、いくぞ。
「すぅ、はぁぁ……」
呼吸により体内の『気』を練り上げていく。
魔力体であるこの身体にも、気の道る道を無理矢理作れば、気を操ることは可能。
制御系統魔術、模倣タオ。体内を巡る気の流れを一転に集め、放つ。
「百華拳――山茶花」
ずがぁん! と突き出した拳が杖をへし折る。
半分に割れた杖は粉々に砕け、微細な粒子となって辺りに散らばっていく。
あ、折れちゃった。
一点に打撃を集中させ内部から破壊する百華拳の基本技の一つだが、この身体で撃つと中々の威力だな。
「ば、馬鹿な……! この神罰の杖は天界最高の鍛冶師にて64神の一人でもある鍛冶神ヘーパイストスが作り上げた至高の一品! たかが拳の一撃で砕けるようなものではないはずだぞ!?」
「いや、俺としても簡単に壊れたのは残念なんだけど……」
もう少しその杖の分析をしたかったんだが……ま、別にいっか。大体わかったし。
先刻触れていた間、この杖に『鑑定』をかけていたのだ。
その構造は大体解析しており、そのまま再現することも可能である。こんな風に――
魔力を集め凝縮させていくと、神の持っていた杖と同じものが俺の手に生まれる。
「っと、こんな具合か」
「な……神罰の杖を作り出しただと……!?」
杖を持つ俺を、神は信じられないと言った顔で見てくる。
自前で魔力体を生み出すのは以前からやっていたし、その延長で武器を作るくらいは問題ない。
流石にじっくり観察する必要はあるし、完全に同じとはいかないけどな。
「いやいや、魔力体はある意味適当でも作れやすが、複雑な構造の物体を作るのは尋常じゃねぇ解析力が必要ですぜ!」
「それこそロイド様の本領でしょう。とはいえ天界64神の作り出した武器すらも模倣するとは、ただ事ではありませんが……」
「気づかぬか二人共、この杖にはロイドなりのアレンジを加えられており、オリジナルより遥かに頑強! ふっ、流石はロイド、我が宿命のライバルよ」
グリモたちが何やらブツブツ言ってるが、俺はそれよりこの神罰の杖の使用法に思案を巡らせていた。
「ふむ……杖ねぇ……杖かぁ……」
――杖というのは術式そのものを増幅させる武器だ。
しかし基本的には棒に術式を刻んだだけの魔剣の劣化版でしかなく、基本的には初心者用だ。俺が本来の用途で使ったら一瞬で壊れてしまうだろう。
だがこの杖は神が使っていただけはあり、相当強度の術式が込められている。俺でも扱えそうだ。となればやるしかあるまい。
俺は早速術式を展開、生み出さした魔力を杖に込めていく。
「でええええ!? なんすかその魔力量は!? ヤバすぎですぜロイド様ぁぁぁっ!?」
「増幅されすぎておぞましいまでの魔力になっておりますよぉぉぉ!?」
グリモとジリエルが驚いているが、まだ増幅は終わってはないぞ。
どうせなら実験するなら杖の機能をいっぱいまで使ってみたいからな。
それにしても流石は神が使うような杖だ。俺がこれだけ魔力を注いでるのに壊れないとは驚きである。
「ロイドよ。調子に乗るのはいいが、杖の柄にひびが入っておるぞ。そろそろ限界なのではないか?」
「おっとそうだな。夢中になり過ぎた」
ベアルの言う通り、杖が割れ始めている。
どうせだから全力まで溜めて撃とうとしたが、どうやらこの辺りが許容量の限度のようだ。
俺は手にした杖を神へと向け、放つ。
「『火球』」
杖の先端から生み出される炎は一瞬にして巨大な火の玉に成長する。
それは質量を増しながら、空間を歪めながら神へと向かっていく。
「――ッ!? か、火球だと!? こんな……こんなものが下級魔術であっていいはずが……ッ!」
神は魔力を両腕に集中させて炎を防ごうとするが、その両腕は一瞬にして燃え上がり全身を炎に包まれる。
魔術によるダメージを大幅に軽減する魔力体といえど、それ以上の攻撃ならば当然ダメージを受ける。
つまりは杖によりそれだけの出力が生まれたのだ。全くとんでもないな。
「神が持ってるような杖をへし折るような魔力を注げちまうのがそもそも異常なんですぜ……」
「下級魔術ですら杖の方が先に限界を迎えていましたからね……ロイド様が本気で全力を注げばどうなっていたか……」
「そんなことをすればこの空間……いや、天界ごと崩壊していたやも知れんな……くく、流石は我が終生のライバルよ」
グリモたちが好き勝手言っているが、こっちは火球の制御でそれどころではない。
元々この魔力体で魔術を使うのは魔力制御的に難しいとは思っていたが、杖まで使ったから制御が困難だ。やはりこの身体、少々手に余る。
一応殺さないよう威力を絞っていくが――
「ぬ、ぬおぉぉぉぉぉっ!」
苦悶の声は火の玉に飲み込まれていく。
そして、ずずんと地面に落ちた火球は天まで届くような火柱を上げ、空間が大きく歪んだ。
……うーむ、やっぱり俺は杖を使わない方がいいのかもしれない。消火消火っと。




