天馬を捕まえます
「ここは……天界の果てのようですね。無茶な転移でしたが、辿り着きはしたようです」
「ふーん、そうなのか。とりあえず案内は頼むぞ、ジリエル」
「この辺りは辺境過ぎてシティーボーイである私にもよくわかりませんが……」
以前来た場所と大差ないように思えるのだが……雲がふわふわ浮いてるだけにしか思えないけど天使的には色々あるのかもしれない。
「あぁいえ、問題ありませんとも。以下に田舎であろうとこのジリエル、見事ロイド様を神の元へと案内してご覧に入れますとも」
「うん、頼むぞ」
ジリエルは恭しく頭を下げると、近くにあった雲の塊に手を突っ込んだ。
ゴソゴソと何かをし探しているようだが……?
「神が住まうのは天界中央にある大宮殿。天界では目印になるものも少ない為、馬車を使って移動するのです。目印であるニオイを覚えさせて行き来するのですよ。その馬を呼ぶ方法が……おお、ありましたありました」
取り出したのはニンジンだ。えぇ……あんなもの一体どこから出したんだ?
「これは雲ニンジンというものでして、雲畑によく埋まっているのですよ」
「そこ、畑だったのか……」
「田舎ですから。ある意味幸運だったかもしれません。これを掲げればすぐにでも……お、早速来ましたよ」
ジリエルが指差す方を見れば雲の向こうから馬が近づいてくるのが見える。
……ただの馬ではなく翼が生えている。あれは天馬というやつか。
「ヒヒィーーーン!」
「さぁどうぞお乗りくださいませ」
天馬は俺たちの前に停まると、ジリエルからニンジンを奪い取りムシャムシャ食べ始める。
「へぇ、天馬で移動たぁ天界って場所も中々気が利いてるじゃねぇかよ」
「ブヒヒィィィン!」
「おわっ!? アブねぇ!」
グリモがぺしぺしと天馬の尻を撫でていると、怒ったのか鼻息を荒くしている。
おいおい、馬の後ろに立ってたら蹴られるんだぞ。
「どうどう」
「ブルル……」
俺が宥めると、天馬は気持ちよさそうに首を擦り付けてくる。
「流石はロイド様、馬の扱いも手慣れたものですな」
「王族の嗜みだと色々教えて貰ったからなぁ」
以前アルベルトに教わったからな。王族たるもの馬の一つも乗れないようではダメだと。こんなところで役立つとは思わなかったが。
「これこのように……光武で作った手綱を引っ掛けてやれば天馬が魔力を感知し、思い通りに操ることが出来るというわけです。これこのように」
ジリエルが光武にて手綱を掛けると、天馬は大人しくなる。
ふむふむ、どうやら口の辺りに魔力感知機関があるみたいだな。それを利用しているってことか。
実際の馬も顔面付近は感覚が鋭く(というか他の箇所は分厚い肉で覆われているので伝わりづらいので)、細かい指示を出すには手綱を口に噛ませる必要があるのだ。
「よし、俺もやってみよう」
早速光武で手綱を作り、天馬の首にかけようしたその時である。
「ヒヒヒィィィン!?」
天馬が一際高い声で嘶くと、俺から逃げ出してしまう。
それでもニンジンは惜しいのか、離れた場所で様子を伺っている。
「……あれ?」
「どうやらロイド様の魔力にビビっちまったようですね」
「今のロイド様の魔力は凄まじいですから。消し炭にされると思ったのやも」
えぇー……折角天界の魔獣に乗れると思ったのになぁ。
ていうか消し炭って、人を焼却炉か何かみたいに言うんじゃない。
これでもかなり魔力を抑えているつもりなんだが、まだ足りないか。全く以て扱いづらい身体である。
「……ん? ならば治癒の魔術を同時に発動させればいいんじゃないか」
例えるなら俺は近づけば火傷する炎、ならば同時に冷気をかけてやればダメージは受けないはずだ。ちょっとやってみるか。
「ほいっとな」
「ヒヒィンッ!?」
逃げようとする天馬に手綱を引っかけると同時に、治癒魔術を発動させる。
「ブヒヒヒヒィィィィーーーン!?」
と、いきなり後ろ脚で直立し、前脚で空を掻く天馬。
混乱しているのか目をまん丸にして暴れ出した。
んんー? 間違ったかな? どうも加減がわからん。
しばらく様子を見ていると、落ち着いた様子で俺の前で首を垂れた。
「おいおいおいおい、さっきまで逃げようとしてた馬がいきなりロイド様に頭を下げてきやしたぜ!?」
「傷つけ癒すのは拷問の基本、それを同時に繰り出すことで天馬の身体に直接上下関係を叩き込んだのだ。流石はロイド様、恐ろしい方……」
グリモとジリエルが何やらブツブツ言っているが、俺としては平和的な手段を選んだつもりなんだけどな。
ともあれ、天馬に跨った俺は天界の空を駆けるのだった。




