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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます  作者: 謙虚なサークル


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接触希望です


闇の中、一人の男が起き上がる。

狼の如く鋭い目で自らが収まっていた棺桶を見下ろし、呟く。


「……ここは?」

「どこだっていいじゃあないか。君には関係ない。どうでもいい。そのはずだ」


一人ごちる男に答えたのは、彼より少し若い声。


「驚いているのは僕もそうさ。まさか君が応じるとは思わなかった。……だがそんなことはお互いどうでもいいだろ? 重要なのは君が今、黄泉返ったということなのだから」

「……貴様は?」

「なんだっていいさ。あ、でも僕が君を生き返らせた本人だよ。お礼を言うならどうぞどうぞ」

「ふっ、くくくくく……」


男が吐き捨てた、その直後。

青年の頭を狙い、凄まじい衝撃波が吹き荒れた。

抜き手、ただしとてつもない魔力が込められたその一撃により、壁には大きな穴が開いている。


「下郎……誰が頼んだ。その無礼、貴様の命を持って贖うがいい」


冷たく言い放つ。だが――


「びっくりしたなぁ。いきなり殺しにくるとか、ビビっちゃったぜ。でも、それでこそって感じだよねー」


返ってきた言葉に男は目を丸くする。

土煙が晴れて現れたのは無傷の青年だった。不可解なのは壁に空いた穴が青年から大きくズレていることである。

確実に狙ったはず……疑念は男を黙らせるには十分であった。


「君には目的があったはずだ。でなければ僕の力でも黄泉返らせることはできなかったからね」

「……」


確かに、男には目的があった。だが志半ばでその命を落としたのだ。

少しずつ記憶が蘇ってくる。己のやるべきこと、そして忌々しいガキのことを。


「つまらないプライドにこだわって、その機会を逃していいのかな? まー僕はどっちでもいいんだけどさ。断るならもう一度虚空に返すだけなんだけどねぇ?」

「っ!」


言葉と共に、サラサラと男の身体が崩れていく。

どうやらこの命、自由なものではないらしい。男はそれをしばし見つめながら逡巡し、


「気に入らん……が、いいだろう。不愉快ではあるが貴様の企みに乗ってやる」

「そう来なくっちゃ! いやーよかったよかった。断られたらどうしようかと思ったぜ。何せ僕ってば非力だしさぁ」


馴れ馴れしく肩をバシバシと叩いてくる青年。

その言葉は恐ろしく軽いが、それでも身体の崩壊は気づけばピタリと止まっている。

彼の力は本物だ。そう信じざるを得なかった。


「ククッ、だが俺が貴様の言うことを大人しく聞くと思わんことだな。隙を見せれば即座に殺す! そのことをゆめゆめ忘れるなよ」

「おーこわっ。僕は平和主義者なんで、お手柔らかに頼むよ」


二人はどこか楽しげに笑いながら、同じ方へと歩き出すのだった。



 十分な練習を終え、ついに聖王歓迎祭が開かれることとなった。

 会場は城のすぐそばにあるサルームが誇るシンフォニー・ホール。

 教会と国の共同建築物で、収容人数は一万人、音響を考えて作られており普段はイベントや演奏会などで使われている。


「それでは時間になったらお呼び致します」

「よろしくサルファ」


 シルファが待合室の扉を閉めると、早速二人は集中し始める。

 物音一つしない空間、時計の針を刻む音だけがカチカチと鳴り響く。


「ふーっ、この張りつめた空気がたまらねぇぜ。二人とも完全に自分の世界に入ってやすね」

「サリアたんとイーシャたんの声をこんな近くで、何度も聞けるなんて……色々ありましたがロイド様についてきて本当によかった……!」


 ジリエルが感涙している。どうでもいいけど歌ってる時に泣くんじゃないぞ。


「さて、時間まで暇だし、俺は散歩でもしてくるかな」

「いいんですかいロイド様? こんな時にフラフラしてて」

「あぁ、どうせ制御魔術でコピーした状態で演奏するからな。それに聖王は無理でも護衛の一人くらいならフラっと出歩いててもおかしくないだろ?」


 さっきチラッと見たが、聖王一団の持つ雰囲気はかなりのものだった。

 聖王本人は無理にしても、誰か一人くらいは出歩くかもしれない。そこを狙う。


「いやぁ、それはどうっすかねぇ……」

「護衛している者がフラっと出歩くとは思えませんが……」

「ほら、シルファが呼びに来る前に行くぞ」


 俺はこっそりと控え室を抜け出すと、廊下を歩き会場へ向かう。

 会場へ出た俺は客席をぐるっと見渡す……と、見つけた。

 白い衣に身を包んだ集団。彼らが聖王とその護衛たちである。


「ふーむ、まぁ人間にしちゃあ大した魔力だが、特筆すべきとも思えやせんな」

「えぇ、聖王は中央に座っている者でしょうか。ここから顔は見えませんが」


 集団の真ん中にいる白いフードからは、他よりも一段圧力を感じる。

 奴が聖王……? だがベアルが言う程の厄介さとまでは思えないけどな。

 それになんだろう。聖王というにはやけに黒いというか……禍々しい魔力を放っている気がする。


「ウィリアムの子孫だって長く続いた平和で随分弱くなっちまったし、聖王もそんな感じで弱っちまったんじゃねーっすかい?」

「そもそも神に仕えし聖王に力など不用。人々に平和を説くことこそが最たる使命です。ロイド様が気にすることもないでしょう」

「やれやれ、分かってないな二人共」


 俺は別に強い相手と戦いたいわけではない。

 面白い力、特に魔術に関連付きそうなモノを持っているかどうかが重要なのだ。

 二人の言う通り彼らからはそこまで強い魔力は感じないが、神聖魔術は未だサンプルが少ないしな。

 聖王とかいうくらいならもっと違う力を持っている可能性もあるし。


「とはいえ流石に直接会いに行くわけにはいかないな。目立って仕方ないし。というわけで……向こうに動いて貰うとするか」


 そう言って指先をパチンと弾く。しばらく待っていると、護衛の一人が慌てた様子で席を外した。


「おおおっ! 護衛が動きやしたぜ!」

「一体何をしたのですかロイド様?」

「ちょっと尿意を催させたのさ」


 制御魔術の応用である。

 無意識状態を狙えば、これくらいはな。

 本当は聖王を狙ったんだが弾かれて隣の奴に当たったのだ。

 距離があったとはいえ俺の魔術を防ぐとは……ふふっ、楽しませくれるじゃないか。

 ま、楽しみは後に取っておこう。今回は時間もないことだし、席を立ったあいつでいいかな。


「相変わらずひでぇですな……」

「完全に流れ弾でございますね……」


 無防備なのが悪い。シルファなら気配に気づいて躱していただろう。護衛としての自覚が足りないな。

 ともあれ俺はあの場所から一番近いトイレに向かうのだった。


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