魔王と友達になってます
俺はサルーム王国第七王子、ロイド=ディ=サルーム。魔術が大好きな十歳だ。
前世はしがない貧乏魔術師だったが貴族に目を付けられ決闘という名の私刑を受けたが、初めて見る上級魔術に見惚れてしまい、防御を忘れて直撃を食らい命を落とした。
しかし気づけばこの身体に転生していた。素晴らしい才能を手に入れ、更には王位継承権とは無関係の第七王子という事で好きに生きろと言われた俺は、自由気ままな魔術ライフを送っているのである。
「はあっはァ! くたばるがいいぞロイド! 魔王滅殺黒撃破ぁ!」
「なんの! 三重詠唱大規模魔術、輝天牙!」
ずどおぉぉぉん! と衝撃波が巻き起こり、その影響で周囲の空間が大きく歪む。
岩壁は崩れ、大地はめくれ上がり、天井からは岩石が落ちてくる。
――ここは北の果てにある、名もなきダンジョン。
ここはかつて俺が色々やらかした末に生まれた超巨大ダンジョンで、人の住まない最果ての地に存在している。
極寒に加えて強力な魔物が溢れている為、現在は誰も近づかないので俺の実験場となっているのだ。
とはいえサルームからは遠いので時々魔物が溢れないよう掃除に来ていたくらいだったが、最近は頻繁に訪れている。
理由は俺の目の前にいる人物だ。
「くくくっ、やるなぁロイド。まだまだ引き出しがあるようで、実に嬉しいぞ」
理由は目の前の人物、くぐもった笑いを漏らすのはメイド姿をした少女……その中にいる魔王ベアルだ。
メイドの少女――コニーは以前通っていたウィリアム学園で知り合った、魔道具作りが好きな女の子。
彼女は魔力を持たない魔宿体質だが、代わりに手先がべらぼうに器用なのだ。
その能力は魔道具作りに遺憾なく発揮され、俺をも唸らせる凄まじい技術を持っている。
ちなみにベアルの出現時には黒い外套を羽織り、縦に半分割れた仮面を付けた姿となるのだ。
コニーが住んでいた村では、人々は強い大地の魔力の影響で生まれつき魔力障害を持つことが多かった。
それを何とか出来るような魔道具を作り出すべく学園を訪れたコニーだが、彼女の身体には魔王ベアルの核が眠っていた。
覚醒したベアルは魔王というだけあって相当強く、苦戦の末に何とか倒せたのである。
しかしコニーはベアルの知識をもったいないと言い出し、自ら魔王を受け入れ一つとなった。
そうして半分魔王となったコニーを放置するわけにもいかず、俺のメイドとしたのだ。
……まぁ俺もベアルの知識は欲しかったしな。これぞ三者三徳。皆が幸せになったというわけである。
そんなわけで現在コニーの身体には本人とベアル、二つの意思が宿っている。
普段はコニー本人が使っているが、時折ベアルが出てきてはこうして俺と勝負を挑んでくるのだ。
前に俺に負けたのを未だに納得していないらしい。
ベアルはかつて強者を求め、わざわざ海を越えた魔界からこの大陸へ来たという根っからの戦闘馬鹿だからなぁ。
とはいえ俺としても魔術を思いきり使える相手がいると実験が出来てありがたいし、ここは持ちつ持たれつってところかな。
もちろんベアルの戦闘力はすさまじいので俺も割と全力で相手しなければならず、それにふさわしい場所が必要となる。
そこでこのダンジョンだ。ここは俺の魔力を元に作られている為、非常に広くて頑丈なので、どっかんばっきんやるのには打ってつけなのである。
「どうでもいいがそんなに荒っぽくして本体のコニーは大丈夫なのか?」
攻撃を弾きながら言うと、ベアルは口角を歪めながら突進してくる。
「無用な心配よ! 我が魔力にてコニーの身体は常に保護されておるからな! 我が死ぬ程のダメージでもなければ死にはせぬ。むしろこやつの普段の生活の方がよほど危ないぞ。食生活は乱れているわ夜更かしはするわ、肌のケアもろくにせぬわ……早死にするぞ全く」
ブツブツ文句を言いながらも魔力弾を連発してくるベアル。
お肌や生活スタイルを心配しながらやることじゃないぞ。
「も、もうベアル! やめてってば恥ずかしい」
「事実だろうが。もっと自分を大事にしろ馬鹿者め」
黒い魔力体に覆われた隙間から、コニーが恥ずかしそうに声を上げている。
あまりに魔王っぽくないセリフだが、健康管理は大事だぞ。
ちなみに俺はメイドのシルファやレンが面倒見てくれているので問題ない。ふっ。
「つーかロイド様! やべぇですって!」
ひょこっと俺の掌にいた魔人グリモが声を上げる。
「あんまり長く戦ってたらダンジョンの方がもたねぇですよ。自動修復するとは言っても限度がありますぜ」
「そうです。壁や天井が二人の戦いに耐えられず、今にも崩れそうになっていますよ。今回はこれくらいにしては如何でしょう」
もう片方の掌から天使ジリエルが声を上げる。
二人は俺の使い魔で、今は術装魔力腕――白と黒の手袋として俺の両手に宿している。
魔力の完全物質化――上位魔族の得意とする技で、組み上げるのに時間はかかるがこれにグリモとジリエルを宿すことで戦闘能力を飛躍的に向上させることが可能なのだ。
流石にベアルを相手にするには、この状態でなければ厳しいからな。
とはいえ出力が上がり過ぎてしまう為、周りの影響を考えなければいけないのは欠点の一つだが。
「確かにそろそろ限界みたいだな。……おーいベアル、そろそろ終わりにしよう」
声をかけるとベアルは臨戦態勢を解く。
「ふん、人界のダンジョンは脆すぎるな。まぁいい、今日のところはこれくらいにしてやるか」
つまらなそうに降りてくるベアル。
ダンジョンは自力で修復機能があるとはいえ、限度があるからな。
魔術に夢中で周りが見えなくなるのは我ながら相変わらずだ。
「ありがとうな。二人が教えてくれなかったら危なかったぞ」
戦いが終わるとグリモとジリエルは術装魔力腕を解き、子ヤギと小鳥の姿になる。
「まぁ仮にダンジョンが崩れても、ロイド様なら余裕で抜け出しちまいそうですがねぇ……」
「ベアルもまた同じでしょう……本当に恐ろしい二人です。そろそろ世界も掌握出来るのでは?」
おいおい、俺がそんなことをするはずがないだろう。
大体世界征服なんて面倒なことをしてたら、俺の大好きな魔術の研究が出来なくなってしまうじゃないか。
「でもベアルは過去にそうしようとしてたんだよな」
「む……あぁ。そうだな」
――魔軍進撃、かつてベアルは魔界から軍勢を引き連れ、大陸で暴れ回ったらしい。
だが魔術の祖、ウィリアム=ボルドー率いる人類軍との戦いとなり、その地に眠りについた――だっけか。
「そういえばまだ詳しい話を聞いてなかったっけ。今回はその時の話を教えてくれよ」
実は俺がベアルの勝負を受ける条件として、その知識を一つ教えて貰っているのだ。
「あ、私も聞きたい。よろしくベアル」
「よかろう……というかよ~~~うやくその話か」
やれやれとため息を吐くベアル。ようやくってどういう意味だろうか。
「我としてもいつその話を聞いてくるかと身構えておったのだが、貴様らはいつもいつもどうでもいいことばかり聞いてくるからな。ヤキモキしていたぞ」
「どうでもないことは全然聞いてないつもりなんだけどなぁ……」
ベアルの持つ特有の黒い魔力とか、人の身体を乗っ取るってどういう感覚なのかとか、魔界における魔術の立ち位置とか、聞きたいことが多すぎてベアル自身についてはあまり尋ねる機会がなかっただけだ。
「というか自分のことを聞いて欲しいって……なんか可愛いよねベアルって」
「んなっ! ふ、ふざけるなよコニー! 言うに事欠いて可愛いなど、我は魔王だぞ!」
「ふふっ、はいはい聞くから。貴方のことを教えて頂戴」
「~~~ッ!」
コニーにからかわれ、悶えるベアル。
なんだか姉弟みたいである。
アニメ二期決定しました。
あと原作8巻も発売中です。
共によろしくお願いします。




