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魔王とバトルします、前編

 ◆


「――くくっ、ふははははは!」


 突如、大笑いし始めるベアル。

 一体どうしたのだろうか。別段変なことを言ったつもりはなかったのだが。

 戸惑う俺をじっと睨みつけると、ベアルは口角を釣り上げる。


「なるほどなるほど、ただの魔術好きか。……ふむ、よかろうロイドとやら。どうあれ貴様が余の一撃を耐えたのはまぎれもない事実。余と相対することを許すぞ。さぁ存分にその力、見せるが良い」


 ベアルの両手に先刻を超える密度の魔力が集まる。渦巻く魔力は大気を巻き込み、天すらも哭いているようだ。


「まずは小手調べだ。先刻のがまぐれでないことを示してみよ」


 渦巻く魔力の槍――というか塔を逆さにしたような巨大かつ鋭い魔力撃が真っ直ぐに落ちてくる。

 さっきの数倍はあるな。だが単純に魔力を注ぎ込んだだけの攻撃などつまらないぞ。


「空間系統魔術――『虚空』」


 俺が指を鳴らすと、前方に数十メートルに渡る空間孔が生まれる。

 この大穴は異空間に繋がっており、触れたあらゆるものを消し飛ばす。

 どれだけ威力がある攻撃だろうが関係ない。ベアルの魔力撃もあっさり飲み込み、消滅させてしまった。


「更に『虚空・蝕』」


 ぐぉん、と鈍い音と共に空間孔が形を変え、触手のようにベアルへ伸びる。

 こいつは『虚空』を俺なりに術式を弄ったもので、従来のものと違い空間孔の形を変異可能だ。

 これにより当てにくい『虚空』の欠点をカバーしたのである。

 高速で迫る数本の空間孔、それを見てベアルは不敵に笑った。

 そして――ぱりん! と乾いた音が響き空間孔が砕け散る。


「ふむ、制御困難な空間系統魔術を高速変形させるとは大したものだが、術式が不安定だな」


 そうは言っても発動さえしてしまえば効果自体は問題ないはず。……もしや術式に直接接触されたのか。

 術式に介入し根本を破壊すれば、直ぐに効果も立ち消える。

 だが不安定な術式とはいえ、あんな一瞬で見破れるものなのか?


「何をボサッとしておる。まだ終わりではなかろう?」

「――ッ!」


 ががん! と背後から凄まじい一撃が叩きつけられる。

 俺の後方から魔力撃を飛ばしてきたのだ。魔力障壁・強を五重展開し、それでもこの衝撃。

 空中に放り出された俺は、くるくると宙を舞う。

 ようやく姿勢を立て直したものの、周囲には既に無数の魔力撃が待機している。


「そらそら、次々いくぞ」


 どがががかが! と衝撃音が連続して響く。

 俺が展開しているのは魔力障壁・極。

 名前の通り魔力障壁・強の強化版で、どこまで硬く出来るか、というテーマに沿って作ったものだ。

 大量の魔力を圧縮、最適化させることで『強』を遥かに超える硬度を持つ――のだが。

 びし、びしとひび割れていく魔力障壁・極。

 おいおい、とんでもない威力だな。

 こいつは俺の最上位魔術でも傷一つ付かない硬度なのだが。


「おいおいどうした魔術好き、亀のように丸まっていては戦いとは言えぬのではないか?」


 言葉と共に叩き込まれる、魔力を乗せた蹴り。

 その一撃で魔力障壁・極は砕け散る。俺は遥か後方まで吹き飛ばされ、聳え立つ岩山へと叩きつけられる。

 おーいてて。魔力障壁越しでも響くような威力だ。


「……はっ! 俺死んだ!? いや生きてんのか……ってか天使、魔王が復活とかどうとかとか言ってなかったか!?」

「落ち着け魔人、これは夢だ。魔王復活などあるはずがないだろう。はっはっは。はっはっはっはっは」


 今の衝撃でさっきまで気を失っていたグリモとジリエルが目を覚ましたようだ。

 しかし二人とも気絶したり現実逃避したり、随分慌てているな。そんなに騒がないで欲しいのだが。


「そもそも今、その魔王と戦っている最中なんだぞ」

「ぎゃーーーーーーっ!」


 絶叫を上げて白目を剥く二人。

 どうやらまたも気を失ったようだ。うーむ、困ったものである。


「とはいえ、二人がそうなるのも分からなくはないか」


 こいつの魔力量、そして威圧感は今まで出会ってきた者の中でも別格だ。

 単純な戦闘力に興味はない俺だが、ここまで圧倒的だと流石に目を見張らざるを得ない。

 なるほど、魔王と名乗るほどはあるな。


「というワケだ。グリモ、ジリエル。悪いが気絶している暇はないぞ」

「ぎゃーーーーーーっ!?」


 再度、絶叫を上げ目を覚ます二人。

 両手に魔力を流して強制覚醒させたのだ。

 流石に俺一人でこんな滅茶苦茶な奴を相手にするのはキツそうだしな。


「うぐぐ……夢じゃねぇんすね……目の前にいるのがあの伝説の魔王とは……現実とは思いたくねーっすが、マジなんすね」

「ですが魔王復活となれば世界の危機も同じ、数多の美女たちを救う為ならばこの身、捧げましょう」


 声を震わせながらも二人は俺の両手に宿る。

 よし、覚悟は決まったようだな。


「――これで本気を出せる」


 俺の呟きが聞こえたのか、ベアルはぴくりと眉を動かす。


「あぁ――なんだその、聞き間違いか? 今お前は「本気を出す」と言ったように聞こえたが」

「そうだけど?」


 首を傾げる俺を見て、ベアルはくぐもった笑いを漏らす。


「……くくっ、強がりもそこまで来ると大したものだ。よかろう、存分に本気とやらを出すのだなぁ!」

「そうさせてもらうとも」


 口上を述べるベアルの背後に回り込み、耳元で言う。


「ぬぅっ!?」


 振り向こうとするベアル、そのどてっ腹に拳を叩き込む。


「がはぁぁぁっ!?」


 どががががっ! と数十発の拳を一瞬で叩き込まれ、ベアルは悶絶しながら吹き飛んだ。

 その先にあるのは学園塔、ぶつかる前に魔力障壁を展開し上方へと弾く。

 高速回転しながら雲を突っ込んだベアル、その数瞬後。


「かぁっ!」


 咆哮と共に空を覆っていた雲が消し飛ぶ。

 俺を見下ろすベアルの口元には血が滲んでいた。


「き、貴様なんだ、その姿は……!?」


 変容した俺の姿を見て、ベアルは目を見開く。

 と言っても基本的な見た目は大きく変わっていないつもりだ。

 尤もグリモとジリエル、二人を宿した両腕だけはその限りではないが。

 その右手は黒く染まり、山羊のような角が生えている。

 その左手は白く染まり、鳥のような翼が浮き出ている。


「うおおおっ! な、何だこいつはよ。異常なまでに力が溢れてきやがるぜ! これなら魔王の相手だって出来そうだ!」

「えぇ、本来の身体よりずっと効率的に魔力が生み出せるようになっている! 素晴らしいですロイド様!」


 それに宿ったグリモとジリエルが声を上げる。

 これは二人の能力をフルに発揮できるよう俺が用意した腕型の形代だ。

 内部を走る潤沢な魔力線により、俺の魔力もロスなく全身を巡っている。詠唱用の『口』も良好、二人のテンションも高いときた。うん、いい感じだな。


 ――はっきり言って、俺の身体は戦闘向けではない。

 子供だから身体も小さく強敵相手に肉弾戦を挑むのは不利だし、体内の魔力線だって発達しきってはいないので大規模魔術や多重詠唱など強力な魔術を使う際には色々と工夫も必要である。

 そう、俺が今まで得てきた知識を十全に発揮するには器が小さすぎるのだ。

 そこで此奴の出番だ。魔力をロスなく流せるよう外付けの魔力線を大量に生成、圧縮、それを結束して両腕に纏わせたのである。

 先刻シュナイゼルの身体をコピーしたが、あれはこの前段階だったというわけだ。

 模すのではなく一から作り上げるのは中々骨が折れたが、魔軍四天王との戦いが役に立った。

 ともあれ、そうして出来上がったのがこの腕――そうだな、名づけるなら術装魔力腕とでも言ったところか。


「ロイド様、俺の方に『黒羊』とか付け加えるのはどうですかね?」

「でしたら私の方にも『白鳥』と名を冠する許可を頂けないでしょうか?」

「別にかまわないぞ」


 名前なんてどうでもいいしな。二人がその方がいいならそれで構わない。

 というわけで術装魔力腕改め『黒羊』『白鳥』――実験開始だ。


「ふっ!」


 短く吐いた息を残し、空を蹴る。

 ベアルが目で追いかけるが身体まではついてこれないようだ。

 ――裏ラングリス流、武神術。身体を限界まで酷使することで大幅な身体能力を発揮する技も、この状態ならノーリスクで使用可能だ。

 高速で空を駆けながらベアルの死角に回り込みつつ、体内の気を練り上げていく。

 そして、膨れ上がった気の塊を無防備な背中に叩き込む。


「――百華拳奥義、火々気功竜掌カカキコウリュウショウ


 火花が踊り雷光が弾ける。気功による打撃は魔族相手にもそこそこ効果はあるが、本命はこちらだ。


「ゆくぞ、魔人!」

「オッケェ天使!」


 グリモとジリエルの詠唱に合わせるように術式を紡ぐ。


「――灰魔神牙」


 俺の掌が眩く輝き、一気に爆ぜた。

 どぉぉぉぉん! と爆音が轟き、反動で俺の身体も吹っ飛んだ。

 おわっと、すごい衝撃だ。思った以上に詠唱が早く終わったから、逃げ遅れてしまったぞ。

 詠唱は二人に任せているから、その分早めに発動するのを考慮した方がいいな。

 空中で姿勢を整え、立ち昇る煙をパタパタと払う。


「ちょいちょい! 危なすぎますぜロイド様! あんな近距離で灰魔神牙なんか使っちゃあよ! 結界を張らなければこっちまで危なかったですぜ!?」

「そうですとも。……いや、しかし凄まじい連撃でした。あれではさしもの魔王といえど、タダでは済みますまい。流石はロイド様で――」


 言葉が止まる。

 二人を宿した『白鳥』と『黒羊』はぐちゃぐちゃに歪み、所々千切れかかっていたからだ。


「な、何だぁ!? 俺たちいつの間に反撃を喰らっちまったんだよ!?」

「全く気づきませんでした……ぐぐ、ロイド様より賜った形代が……!」


 俺が攻撃する瞬間、ベアルは『黒羊』と『白鳥』を掴み、力任せに握り締めたのだ。

 二人への痛覚は遮断しておいてよかったな。

 これだけのダメージをモロに受けたら、二人ともまた気を失っていただろう。


「くく、くははは……」


 爆煙の中から聞こえるのはベアルの笑い声。

 晴れていく煙の中から、口元の血を拭うベアルが姿を現す。

 当てた部分の衣類こそ破れているものの、殆どダメージはない。

 その上僅かに付いた傷すらも既に塞がりつつあった。


「あれだけ叩き込んで無傷だと……? しかも魔軍四天王を一撃で倒した灰魔神牙ですら、すぐ治っちまうのかよ……!」

「信じられません。あれが魔王……! まさに異次元の強さです……!」


 グリモとジリエルは驚愕に目を見開く。

 ふーむ、ほぼノーダメージとは驚くしかないな。

 それだけでなくベアルは更に魔力を漲らせていく。

 まだまだ本気はここからってとこかな。


「くくく、残念だったな。今の攻撃悪くはなかったが、余を倒すには到底至らぬぞ? 貴様の本気とやら、少しは期待したのだが期待はずれだったかなぁ? ふはははははっ! はははは――」


 高笑いが止まる。

 今しがた破壊したはずの『黒羊』『白鳥』が復活していたからだ。

 ま、自己修復機能このくらいくらいは付けているよな。常識的に考えて。

 当然、他にも機能は盛り沢山。

 そして多種多様な機能を取り付けても、実際に使ってみなければわからないことは多々ある。

 実験と言ったのはそういう意味なのだ。


「悪いな。まだ自分でも使いこなせてないもんでね。だがすぐに満足させられると思うよ?」

「……面白い」


 笑みを浮かべるベアルだが、その表情は僅かに引き攣って見えた。

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