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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます  作者: 謙虚なサークル


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188/232

第二王女と魔軍四天王

 ベッドに乗ったまま、寝ぼけ眼で辺りを見渡すビルギット。

 数秒してようやく、目の前のゼノに気づくと訝しむような視線を向ける。


「……んあ? なんやのんアンタこんな夜更けにそんな格好して。生徒のイタズラってワケでもなさそうやけど」


 ゼノは動揺をおくびにも出さず、身を屈めた。


「こんばんは美しいお嬢さん。とても残念だが貴女と関わっている暇はなくてね。失礼させて貰おう」


 そして、姿を消す。先刻と違い本気を出したゼノの速度は音速をも超える。

 当然ビルギットが視界に捉えられる速さではなく、一瞬にして見失う。

 が、その直後――ばちん! と音がしてまたもゼノは弾き飛ばされた。


「ぐっ……!?」


 苦悶の声を上げるゼノの前にはビルギットがいた。

 動いたつもりのゼノだったが、その場から全く動けていなかったのである。


「一体何が起こった? つー顔をしとるな。ウチの周囲に浮いとるこの結晶核はかつて存在した古代文明、サンドロの遺跡から発掘された遺物アーティファクトを改修したモンや。見ての通り結界を生み出す力を持っとる」


 ――サンドロ、その単語にゼノは聞き覚えがあった。

 一万年前に栄えた超文明都市サンドロ、彼らは独自の技術により作られた兵器を用いて魔族相手にも互角に戦える程の戦闘力を有していた。

 ビルギットの周囲に浮遊する結晶核もまた彼らが用いた兵器の一つ。所有者の意思、敵の動きに反応し超強力な結界を展開するというものである。

 かつてゼノもその使い手と戦ったことがあるが、その結界の強度には苦い思い出しかない。


「あの遺物、確かそれ同士で三角形トリプル四角形スクエアと図形を空中で描くことで、その範囲内に結界を展開するというものだ。今俺の周囲を五つの遺物アーティファクトが囲み、三角錐を形作っている。即ち全方位に三角結界が展開し、逃亡を阻止しているというわけだ。……全く、これだけの遺物を所持している輩と戦うことになるとはな」


 ゼノは手にした大槍を、感触を確かめるように握り締める。

 以前はその結界を破れず閉じ込められたが、運良く助けにきてくれたシェラハと二人掛かりで何とかそれを破り撤退した。


「あの時よりも俺は強く、そして速くなっている。恐らく持てる力を振り絞れば破壊は可能。あの遺物が破壊した時点で効力を失うのは確認済みだからな。しかしそうしたとして次にどうする? 未だ器の少女は見つけていないし、発見された以上のんびり探しているような暇はないだろう。ここで逃げても守りが硬くなり、接触は更に難しくなる……」

「なーにをブツブツ言うとるのか知らんけど、ここに来た理由をさっさと白状しぃや。事と次第によっては軽くボコるくらいで勘弁したるさかい」


 独り言を並べるゼノに業を煮やしたビルギットが、人差し指をビシッと指し示す。

 ゼノは少し考え、諦めたようにため息を吐いた。


「……やはり考えるのは苦手だ。俺は一陣の風。ただただ押し通るのみ」


 ゼノの呼吸が変わった。大きく息を吸い込み続ける。

 それによりゼノの身体は大きく膨れ上がっていく。


「嵐身旋体――」


 一気に息を吐き出すと、ゼノは大槍を前方に突き出す。

 と同時に、無軌道に渦巻いてきた風が一定方向へと纏まり始めた。


「んなっ! いきなり風が吹いてきよったやて……?」


 魔力体である魔族は、ある程度自らの身体を作り替えることが可能。

 魔軍四天王ともなれば体内構造すらも大きく改造し、強靭な血管、筋肉、それらを限りなくゼロに近い重量で生成することでより高い運動性能を得られるのだ。

 嵐身旋体はそこからが本番、強靭な肺活量により作り出された旋風はゼノの背を強く押す。


「はああああっ!」


 咆哮を上げ、超高速で突進するゼノ。大槍の先端が結界と接触し、火花が飛び散る。


「うわおっ! 無理やり来よったか! しかしこの結界はそう簡単には破れへんで」

「……一度ならば、な」


 呼吸と共にゼノが高速で後退する。そしてすぐに、前進。

 風に舞う程の軽量化、そして自ら気流を巻き起こすことで尋常ならざる動きを可能にする。


「これぞ嵐身旋体・渦巻」


 ガン! ガガン! ガガガガガガガガガ……

 螺旋の如く打ち込まれる刺突の連打。

 その音はどんどん速くなり、結界からはぴし、ぴしと乾いた音が鳴り亀裂が生まれていた。


「む、結界が……?」

「うおおおおおおおっ!」


 ヒビは徐々に大きくなる。亀裂が生まれ、破片は飛び散り、そして――完全に砕け散った。


「嘘やろ!?」


 ビルギットは驚愕に目を見開く。

 結界が破られた衝撃で結晶核はボトボトと地面に落ち、もうもうと煙を上げていた。


「ア、アホな……ありえん……ありえへん……」


 弱々しく膝から崩れ落ちるビルギット。その表情は絶望に染まっている。


「結晶核はあれ一個で小さい街一つは買える額なんやで……? それをあんなあっさり……」

「ふっ、街一つか。確かにあの遺物なら、それくらいの価値はあるだろう。それを複数個所持しているだけでも信じられないが――これで終わりよ! 我が槍の鯖となるがいい!」


 裂帛の気合を込め、ビルギットへと突撃するゼノ。

 ――このまま貫き、勢いのまま街を更地にする。

 そうすれば器の少女とて隠れてはおれまいし、瓦礫の中ではあの少年(ロイド)が駆けつけるにも時間がかかるだろう。

 即座に接触して消えればいいだけの話。

 勝った――ゼノがそう確信した瞬間である。

 ぎぃん! と音がしてゼノの動きが止まった。

 結界だ。四個の新たな結晶核がビルギットの前方に浮かび、結界を展開していた。


「ば、バカな……結界だと……!?」


 勝利を確信していたゼノは一転、驚愕に顔を歪める。


「遺物は、あれだけではなかったのか……!」


 言うまでもなくビルギットが新たに取り出した結晶核である。

 正面に展開された四角結界はゼノの槍による攻撃を阻んでいた。


「ハァ……そらこの結晶核はめっちゃ値が張るモンやしな。そうポンポン使えはせんやろ。ハァ……街五つ分がパーやで。ハハ、ハハハ……ハァ……」


 ビルギットは先刻と変わらぬ落ち込んだ顔のままで、乾いた声で笑う。

 その異様さにゼノが半歩引くのと同時に、ビルギットの懐からさらに新たな結晶核が四つ飛び出した。


「しまっ――!」


 気づいた時にはもう遅い。

 ゼノの上下四方は結晶核に囲まれ、結界を展開されていた。

 三角形トリプル結界ですら全力を尽くさねばならない硬度だというのに、今度は四角形スクエア結界だ。先刻の攻撃で魔力を消費しすぎたゼノには突破は不可能であった。


「ぐ……っ! い、一体幾つの結晶核を……!」

「十九……いや。さっき五つ壊されたから十四かな。ハハハハハ……」


 ビルギットは視線を落としたまま、もう一度乾いた声で笑う。

 だがゼノはその言葉に硬直さえしていた。


「じゅ……!? ……信じられん。当時ですら国宝級の稀少品だったのだぞ!? それが今の世に十四も……一体どこでどうやって集めたのだ!?」

「ハァ……んなもん金に決まっとるやろ。これでもまーそこそこ金は持っとるからな。多分これらの遺物は今、ぜーんぶウチが所持しとると思うで?」


 こともなげに言い放つビルギットだが、ゼノはその異様さに息を呑む。

 これらの遺物は現存した当時ですら国に数個しかない程に稀少。それらを巡って大きな争いが起こるのも珍しくはなかった。


「それでも全てを集めた者はいなかったはず。当時の王侯貴族のだれもがなし得なかったことを、たった一人の小娘が成し遂げただと? 言葉通り金だけであるはずがない。高い政治力、情報収集能力、コネクション……あらゆる情報を駆使したからこそ可能な芸当だろう!?」

「それらも全て金あればこそや。金持ちにはあらゆる情報がガンガン入ってくるねん」


 金を持つ者にはそれを買って貰おうと、様々な情報が入ってくるものだ。それはゼノも知っている。

 しかしそれは高く買ってくれる可能性あればこそ。つまりこの女(ビルギット)はあらゆる遺物を買ってくれそうな程の金持ちということになる。


「……貴様、一体どれほどの金を持っているというのだ!?」

「人の財布事情を聞くとは、ヤラシイなぁ。まぁアンタは商売敵って感じでもあらへんし、別にエエか。――ウチの年収は大陸貨幣にして百二十億五千万G$《グランドル》、総資産は約二百兆G$や」


 ビルギットの語った総資産額はゼノの知るかつての大国と比較して、その約十倍近いものであった。

 もはや想像の遥か外、とても一個人が所有するレベルを超えている。


「ありえん……」

「金っちゅーのはある所にはあるモンや。それがない者には想像つかへんくらいな。……はぁーあ。しかし大損こいてもーたな。あぁでもコイツ、恐らくロイドらが言ってた魔族やろ。だとしたら色々と金になるんちゃうか? だとしたら研究所に引き渡すなり、競売にかけるなり、そこそこ回収する手段はある、か……にへへ、エエやんエエやん?」


 ビルギットは大きなため息を吐いていたかと思うと、突然不気味な笑みを浮かべながらブツブツ言い始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 5つで三角錐? 三角錐の角に核があるとしても4つ 想像してるのと違う??
[一言] >我が槍の鯖となるがいい! 錆じゃなくて鯖!? ヤッパリ味噌煮かな?
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