突撃、禁じられたダンジョン
「というわけでノアたちとダンジョンに潜ることになったんだけど……」
チラッと目配せをすると、俺の横にいた長剣を腰に差した銀髪のメイド、シルファとその隣にいたショートの紫髪メイド、レンが頷く。
「ロイド様が危険な場所に赴かれるなら私も当然付いていきます」
「ダンジョン攻略ならボクもきっと役に立つよ!」
二人とも高い戦闘力を誇る俺のお付きのメイドだ。
「あの魔術の祖、ウィリアムの作ったダンジョンとか面白そうやん。とんでもない値打ちモンもよーさん眠っとるんやろなぁ。というわけでウチもついて行かせて貰うわ」
「ふぅ、皆が行くなら僕も引率として行かざるを得ないだろう。すまないが同行させて貰うとしよう」
見事なまでに美しい金髪をさらりと流し、それとは不釣り合いな邪な笑みを浮かべているのはお金大好きサルーム第二王女ビルギット、その後ろで呆れ顔をしているイケメンが第二王子アルベルトだ。
「禁じられた魔道具、すごく気になる! ……でも私なんかがついて行ってもいいの?」
ふわふわの栗毛を揺らし、メガネの下で目をキラキラさせているのがコニー。本名コーネリア。
魔力を持たない特異体質だが、代わりに非常に手先が器用で術式の知識もある。魔道具作りに秀でた優秀なクラスメイトだ。
「えぇんよえぇんよ。メガネっ子に悪い子はおらん。遠慮せんとついてきーや」
「何故ビルギット姉上が仕切っているんですか……別に構いませんけれども」
ビルギットがコニーの頭を乱暴に撫でるのを見て、アルベルトがため息を吐いている。
――事の次第はこうだ。内緒でダンジョンへ行くことにした俺は一度寮に戻り、準備の最中うっかりレンにそれを漏らしてしまった。
それをどこで聞いていたのかシルファがついてきて、ビルギットは金のニオイがすると言い出しそれに同行。更にそれを知ったアルベルトが無茶をやらかさないよう監視役を買って出たのである。
そこから更に、別件で来ていたコニーがビルギットに捕まったのだ。
どうやらメガネ同士、感じるものがあるのだろうか。自分は変装用の伊達メガネのくせに。
「まー戦闘力に関しては気にせんといてや。皆めちゃ強いからなー。あ、ウチは見ての通りか弱い乙女やけどな。スポンサーみたいなもんや」
よく見れば皆の衣服にはどれもこれも術式を編み込まれている。
こいつはとんでもない金がかかっているぞ。こんなものあっさり揃えるなんて、流石ビルギットである。
「……なんかゴメンな。ノア、ガゼル」
「気にしないで下さい。ロイド君たちには世話になっていますから」
「勿論ロイドのことはちゃんと秘密にしとくから、安心しとけ」
ジリエルの機転で俺は天の御使いと言うことになっており、俺の実力は皆には秘密にして貰っているのだ。
何から何まで色々悪いな。本当に。
「助かるよ。ありがとう」
「へっ、任せとけって」
「えぇ、では案内しましょうか」
グッと親指を立てるノアとガゼル。
二人に連れられ向かったのは『飛翔』にて小一時間ほど飛んだ所にある岩山だった。
降り立ったノアが岩壁の前に立ち、何やら呪文を唱える。
――と、ゴゴゴと地響きがして岩壁が崩れ、穴が空いた。その奥には階段が続いている。
「ここが我らが祖先ウィリアムの封じたダンジョンです。かなり危険ですので、我々から離れすぎないようかお願い致しますね」
「危険な魔物や罠が大量に設置されているから、血族以外が入り込んだらひとたまりもねぇ。絶対に俺らから離れるんじゃねーぞ」
なんと、そんな面白そうなものがあるのか!
血族以外、ということは血に刻まれた術式に反応するよう作り上げた魔道具、ないしは人工生物なのだろうが、まだ動くとは驚きだ。
「普通術式は複雑に編めば編むほど経年劣化による解れが生じやすい。にも関わらず何百年も経っているのにまだ術式が生きているとは、信じられない頑丈さだな。面白そうだ」
一体どんな術式を組んでいるのだろうか。
是非手に取って見てみたいが……あぁでも流石に皆がいるからなぁ。
やはり無理にでも撒いてくるべきだったか。
本題の禁術、禁具の回収が終わってから、後で二人に中を案内して貰おう。
そうと決まればダンジョン攻略に集中するか。
◇
二人を先導に俺たちはダンジョンを奥へ奥へと進んでいく。
道中何度か魔物と遭遇して皆が驚いていたが、大して強くもなさそうだったので皆に任せた。
俺は設置されている罠を分析するのが忙しいからな。
「はぁ、はぁ……な、何故こんな強ぇ魔物がウジャウジャいやがるんだ? 俺らがいれば、魔物には襲われねぇんじゃなかったのかよ!」
「恐らく長い年月が経つにつれ、ダンジョンが魔物を生み出したのでしょう。誰も入れず放置された結果、ここまでの魔物が蔓延るようになった。結果的にはサルームの方々について来て頂けてよかったですね」
ノアの言葉にシルファらが頷く。
シルファのラングリス流剣術にレンの魔力毒、アルベルトの魔術、コニーの魔道具、それらがビルギットの潤沢な資金により強化され放たれるのだ。
ついでに言うと、
「ロイド様! そちらに魔物が!」
「ひゃああっ!?」
驚き蹲るコニーの頭上へ飛んできた魔物を結界で弾き返した。
それをシルファがみじん切りにして処理する。
「あ、ありがとロイド君……」
「気にしないでいいよ」
礼を言うコニーに手を振って返す。
と、このように時折こちらに流れてくる攻撃も、俺が結界で完全に防いでいるので安心だ。
もちろん加減はしてある。俺がまともに結界を張ったら消滅させてしまうからな。
だが普通の魔術好きならこんなものだろうか。
「いやいや、ここらの魔物は魔界級の化け物揃いなんで」
「普通の魔術好きでは結界ごと砕かれてぐしゃり、でしょう」
グリモとジリエルが呆れているが、別にそんなことはないだろう。
だって皆、驚いてないしな。……多分。
ともあれノアとガゼル、シルファたちまでいるのだから俺が手を下すまでもない。
「ふむ、ここがダンジョンの最奥のようですね」
魔物の群れを斬り伏せたシルファが、剣に着いた血を拭いながら目の前の扉を見上げる。
まさしくダンジョン最奥のボス部屋であった。
「ここには勿論ボスがいますがご安心を。我らが先祖が既に調伏しておりますので、攻撃してくることはありません」
「つーわけで開けるぜ」
ガゼルが門を押すと、巨大な扉がゆっくり開いていく。
開いた門の奥には大量の宝箱が眠っていた。その中には見たこともないような魔術書が沢山転がっている。
「おお、あれがウィリアムの遺産か!」
俺は真っ先に飛び出すと、宝物を開けた。
中には沢山の魔術書があり、まるで光り輝いているようだ。
「ロイド様、突っ走り過ぎですぜ。ノアたちと離れたらやべーんじゃなかったんですかい?」
「そうです! ここを守るボスとやらが目を覚ましてしまいますよ!」
そういえばそんなこと言ってた気がする。レアな魔術書を見てテンション上がり過ぎたな。
言われた通りよく見れば、宝を守るように巨大な金色の竜が横たわっていた。視界に入ってなかったな。
「こいつは神竜ですぜ。竜種を統べる存在で特に知性が高く、とんでもねぇ戦闘力を誇る奴だ」
「言わば竜の神、かのウィリアム=ボルドーはこんなものまで使い魔にしていたのですね……」
神竜といえばかつて存在したと言われる伝説の竜じゃないか。へぇ、初めて見たぞ。
俺の視線に気づいたのか、金色に輝く竜はゆっくりと首を持ち上げるとゆっくり目を開く――
「!!!!!」
驚愕に目を見開いた後、すぐ閉じて首を横にした。
……二度寝か? しかし寝息が不自然な気がするが、一体どうしたのだろうか。
「こ、こいつ寝たフリしてるぜ! 侵入者に気づいた癖にロイド様にビビって気づかなかったことにしようとしてやがる!」
「一瞬で力の差を理解したのでしょう。ある意味賢いとは言えますが……」
グリモとジリエルの声を聞きながらも神竜は冷や汗をダラダラ流している。
よくわからんが戦うつもりはなさそうだな。神竜とやらがどれだけ頑丈かを知るいい機会だったが……ま、無理に起こすのも可哀想か。それに皆もいるしな。
ここには何度か来るつもりだし、それは目が覚めていた時の楽しみにしておくか。




