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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます  作者: 謙虚なサークル


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始祖の術式を観察します

 二人の掌に集めた魔力、それは純白の輝きを放ちながら光の弓へ変容していく。

 何だあれは。見たことがない術式である。


「おっらぁぁぁぁっ!」


 指を弾くと同時に巻き起こる大爆発。それを目くらましにしてガゼルが弓を構え、放つ。

 ひょう! と風切り音と共に飛来する光の矢を避けるケロベルス。

 その背後から今度はノアが氷結魔術で視界を塞ぎ、光の矢で狙い撃つ。


「くっ! こ、こいつら……!?」


 ケロベルスは魔力障壁で弾きながら、二人と距離を取る。

 そこから反撃を繰り出すも距離があり、しかも片手間の攻撃だ。そんな気の抜けた攻撃にノアとガゼルが当たるはずもなく、軽々と躱している。

 どうやらケロベルスはあの光の矢を随分警戒しているようだな。


「それにしてもあの光の矢、どことなく光武に似てるな」

「えぇ、しかし似ているのは見た目のみですね。彼らの術式には天界へのパスが繋がれているようには感じませんし、神聖魔術が持つ退魔効果も薄いように感じられます」


 俺もジリエルと同意見だ。

 神聖魔術というよりはむしろ、空間系統魔術の方が近い気がする。


「……ところでロイド様、地味に戦うのをやめてしまっていますが、大丈夫なのでしょうか?」

「じゃないと集中して二人の魔術をじっくり見れないじゃないか」


 なお俺はノアたちから付かず離れず、戦っているフリをしながら観察している。

 いや、もちろん危なそうなら手を出すとも。しかし二人の方が押しているようだし大丈夫だろう。

 ケロベルスはあの光の矢をかなり恐れているようで、かなり余裕を持って躱したり魔力障壁で防いでいる。あれでは碌は反撃など出来はしまい。


「しかしあの魔力障壁、どうやら魔術の効果を減退させているようだな。イメージでそんなことまで出来るとは……ふふふ、魔族ってのはズルいなぁ」


 だが俺好みではないかな。イメージで何でもできる方が楽なのだろうが、やはり魔術というのは術式という説得力、理屈の重さ、そこへ魔力を注ぐことによって生まれる反応、等々等々……それらの美しい工程があるからこそだと思う。

 火や水が『なんとなく』で出せるのは手軽だが面白味がないし、魔術師としては二人の使う術式の方が断然そそられる。


「というわけで早速『鑑定』」


 光の矢を魔術の目で見てみる――が、何かしらの魔術防壁プロテクトが付与されているようで、『鑑定』があっさり弾かれてしまった。

 再度、更に魔力を強めてみるもダメだ。何度やっても弾かれてしまう。

 うーん、血統魔術である以上ある程度の防壁は覚悟していたが、ここまで硬いのは初めてだな。

 流石は始祖の術式、解き甲斐があるじゃないか。


「だったらこいつを使うとするか」


 放たれた光の矢をケロベルスが避けたのを確認した後、空間系統魔術から取り出した剣を瞬間転移させた。

 虚空に舞う剣が光の矢に衝突、吸収した後に落ちてくるのをキャッチする。


「それは……吸魔の剣ですか」

「あぁ、魔術を刀身で受けることで吸収する魔剣だよ」


 吸魔の剣は以前、俺用に作り出した魔剣だ。

 その効果は触れた魔術を吸収、記録するというもの。見知らぬ術式も吸収した後じっくり観察できる優れものである。

 こんなこともあろうかとあらかじめ用意しておいたのだ。

 さーて、お楽しみの時間だぞ。吸収した光の矢を分解し、術式を解析していく。


「ふむふむ、『鑑定』が弾かれたのは対分析系統魔術特化した術式を組んでいるからか。なんとも周到だ。そこまでして隠したいんだろう。ノアとガゼルもここに来るまで全く使わなかったし、使う際も簡単に『鑑定』できないよう色んな魔術に混ぜて使っている。バレる危険を最大限排除したということか。魔術の祖がそうまでして隠したかった術式――面白い」


 やる気にさせてくれるじゃないか。俺はぺろりと上唇を舐めると、戦いそっちのけで術式の解析を始める。


「ほうほう、こんな昔の術式でも組み方次第で強固になるのか。それにしても魔術式の構築、魔力線の配置、どれもこれも無駄がない。流石だなぁすごいなぁ。……へぇ、ふーん、ほぉー」

「ロ、ロイド様……術式に見惚れているのはいいですが、あまり二人から目を離すのは……」

「問題ないよ」


 俺の言葉とほぼ同時、光の矢がケロベルスの左肩を掠る。

 掠ったその箇所がまるで風景と溶け込むように滲んでぼやけた。


「な……あ、あれは一体……?」

「おお、術式を解析してみてどんな効果があるのかと思っていたが、なるほど。あぁなるんだな」


 術式を解析していろいろ分かったがあの光の矢に刻まれた名は『封魔弓』。

 最初の印象では空間系統に似ていたが、それともまた違う。

 その真の力は光の矢で攻撃した際に起こる次元の混濁。

 具体的に言うと矢の触れた箇所の空間が歪み、対象と溶け合い再接合させられ、攻撃対象は空間の中に封じ込められるというわけだ。


「封印魔術、か。……そういえばウィリアムのことを書いた本にそんな噂話が記されていたっけな」


 あまりにも情報がなさ過ぎたから、ただの作者の妄想だと思い記憶から消去していたぞ。

 恐らく空間に溶け込む裏側の概念を参考に作られたものだろう。空間ごと封じれば魔術の効かない魔人魔族と言えど関係ない。


「くっ、これが封印魔術……動けぬ……っ!」


 ケロベルスはどうにか身体を動かそうとするが、風景と滲み混じった部分は空間と完全に一体化しているようだ。


「足を止めたぜクソ兄貴、一気に畳みかけるぞ!」

「仕切るな愚弟。お前こそ後れを取るなよ!」


 ガゼルとノア、二人が光の弓を構える。

 狙う先は心臓、しかし当のケロベルスは取り乱すどころか、逆に落ち着き払ったように息を吐く。


「……ふぅ、なるほど始祖の魔術師の末裔ですか。我が主が警戒するのもわかりますな。ケロ=ス」

「えぇ、ですがギリギリで間に合ったようですな。ベル=ス」


 ケロベルスがそう言った直後。周囲の空間がぐにゃりと歪んだ。

 歪みはどんどん大きくなり、周囲の風景はぐちゃぐちゃのキャンパスのようになっていく。


「な、なんだぁ!?」

「空間が歪んでいく!?」


 どうやらケロベルスの放つ巨大な魔力の波が、この空間を揺さぶっているようだ。

 術式の解析に夢中で気づかなかったが、ケロベルスは戦闘中に空間操作を行っていたようだな。結界の内部が崩壊――いや、作り替えられていく。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ノア! ガゼル!」


 見れば二人の足元がずぶずぶと沈んでいる。

 まるで沼のようで、助けようとするもそれは二人をあっという間に飲み込んでしまった。

 気づけば歪みは収まっており、元の庭園に戻っていた。


「ロ、ロイド様……二人が消えてしまいました!」

「……一応、生きてはいるみたいだ」


 近くなような遠くなような、ともあれこの空間内にはまだ二人の魔力反応を感じる。

 恐らくこの空間を区切っただけなのだろう。


「しかし何故そんなことを……」

「あの二人を確実に始末する為ですよ。ねぇケロ=ス」


 腕から血を滴らせながらケロベルスが言う。

 風景化した箇所を切り落としたのか。掠らせた程度じゃ決め手にはならないらしい。


「えぇ、ベル=ス。何せあなた方三人の相手は私一人では少々荷が勝ちすぎる」

「故にこうして二手に分けさせて頂きました。特に君」


 ケロベルスは指先をゆっくりと持ち上げ、俺を差す。


「見た目こそ普通の少年ですが、その潜在能力はあの二人を遥かに越えている……気付かれぬよう二人の補助をしていましたな? 身体能力を上げたり、私の攻撃を打ち消したり、大した魔術師だ」

「あら、バレてた?」


 頷くケロベルス。実は二人の術式をしっかり見れるよう、色々やっていたのである。ちなみに後半は解析に集中していたので、オートでやってた。

 術式を張り巡らせることによる、自動制御による魔術の発動。

 こういうのはイメージによる魔力操作では難しい。自分の意識を介入させなければならないからな。

 自分なりに色々弄れる術式の方に軍配が上がるだろう。


「そんな複雑な術式を、しかも魔族すら手足も出せないような魔力と共に組み上げるなんて規格外にも程がありますが……」


 ジリエルは驚いているが、ケロベルスはそうでもなさそうだ。


「くくっ、指先一つ動かさずに私の行動を封じるとは、全くプライドがズタズタですよ。しかし君には封印魔術を使えないのでしょう。使えるなら解析などする必要はありませんからな。ケロ=ス」

「えぇ、そんなあなたを今、確実に葬り去るにはこうしてあの兄弟と分断するのが最も有効というわけだ。如何に強大な魔力を持とうと封印魔術が使えない君は脅威にはなりませんからな。ベル=ス」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべながら語り始めるケロベルス。


「そしてもう一つ、君に絶望的な情報を教えて差し上げよう。あの二人が送られた先は我が主の元。君の助けなしに生き延びるのは不可能です」

「我が主――魔軍四天王、緋のヴィルフレイ様の魔力量は我々の十倍以上! 以下に封印魔術を持とうがあの二人では手も足もでないでしょう!」

「くくっ、ですが安心なさい。君の命もすぐに終わらせてあげますから。ねぇケロ=ス」

「えぇ、封印魔術さえなければ、多少隙を見せても構いませんからな。ベル=ス」


 ぼこん、とケロベルスの全身が大きく膨れ上がった。

 めきめきと肉が軋むような音と共に膨れ上がっていくケロベルス。

 そのシルエットは人型から徐々に変貌していく――


「ぐるるるる……」


 唸り声を上げるその姿は、巨大な双頭の狼だった。

 ケロベルスは舌なめずりをしながら深紅の目で俺を見下ろしている。


「この姿になったのは百年ぶりでしょうか。」

「無謀にも魔界に突貫してきたどこぞの国の魔術師団を食い散らした時でしたな」


 百年前……帝国魔術師団の精鋭が魔界を探索に行くという記事を古い新聞で見た記憶がある。

 結局帰ってこなかったのだが、こいつが原因だったのか。

 魔界まで辿り着いた魔術師団だ。きっと素晴らしい魔術師が沢山いたのだろう。

 ……悲しいものだ。失われた知識は二度と帰ってこない。


「やはりここで二人を失うわけにはいかないな。早く助けに行かないと」

「どうやって!? 君は私にここで殺されるのですよ!」


 咆哮と共に突撃してくるケロベルス。

 俺は軽く息を吸って、吐く。そして――紡いだ術式を発動させた。


「ぬっ!?」


 注いだ魔力により光が爆ぜる。

 その間も術式は連鎖発動を起こし、新たな光を生み出し続けていた。

 光の奔流は徐々にはっきりした形を成していき、俺の右手に収まる。

 ――それは弓。俺の身の丈よりも大きく、純白に輝きを放ち、そして若干禍々しい形をした弓だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] コミカライズがおもしろい! [気になる点] 小説版では台詞以外で考えも説明されてるので、涼しい顔で軽く超人的なことをやらかす印象が崩れてる
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