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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます  作者: 謙虚なサークル


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裏側へ行こう

 ◆


「しかしジリエル、本当にこの学園の中に魔族が潜んでいるのか?」


 学園最上部、塔の最先端に立ちながら俺は呟く。

 どんなに意識を集中させても、魔族の気配は感じない。


 ここは魔術師や怪しげな魔道具の多い学園だが、それでも魔族の気配というのは濃厚だ。

 超高濃度、かつ大量の魔力……いくら隠れていたとしても俺が気づかないはずがない。


「はい。しかし今この状況でロイド様が感知できないのも致し方ないことかと。奴はこの世界の裏側とでも言うべき場所にいるのですから」

「裏側?」


 初めて聞く単語に思わず胸が高鳴る。


「現在我々がいる世界の裏でございます。以前ロイド様は私の住む天界へ来たことがあったでしょう。あのようなものだと思えばよろしいかと」

「懐かしいなぁ」


 ジリエルと初めて会った時、俺は何処かからの視線を感じ、それを目印に空間転移した。

 そして通常よりはるかに長い空間転移の果てにジリエルの住む天界へと辿り着いたのである。


「じゃあまた空間転移で飛べばいいのか?」

「いいえ、そう簡単にはいきません。その道中は次元の壁で閉ざされています」


 そういえばあの時空間転移した際に、凄まじい衝撃を感じたっけ。


「しかし俺は簡単に破ったぞ」

「本来は簡単に破れるものではないのですが……今回の問題は強度よりも認識が出来ないことです。現実空間を変質、融合させることで成立する次元の壁は何者も認識できない不可視の壁。例えるなら水中にて氷塊を見つけるとでもいいましょうか。確実に認識した状態でなければ突破は不可能です」

「なるほど、水の中で氷は見えず、触れようとしても何処かへ移動してしまう、か」


 頷くジリエルは難しい顔をしたままだ。


「私はグリモのすぐ後を追ったから辿り着けましたが、何の手がかりもない今、次元の壁を見つけるのは如何にロイド様とて不可能。せめてグリモにこちらとコンタクトを取ろうという意思があれば話は別なのですが……」


 あの時はジリエルの視線があったからそれを辿っていけたんだよな。

 グリモの気配でも感じ取ればそれを道しるべに移動できるのだろうが……残念ながら今は何も感じない。


「……グリモは本格的にロイド様と手を切るつもりなのでしょう。現在奴が魔族に従っているのなら仕方ないことですが、ともあれこれでは裏側へ行くのは叶いません。一体どうすればよいのでしょうか……」

「ん? つまりその次元の壁とやらを突破すればいいんだろう?」


 見えない壁を把握する。なんとも面白そうじゃないか。


「い、如何にロイド様と言えど、次元の壁を認識するのは流石に……」

「まぁ色々試してみるさ」


 以前次元の壁に触れた感触、あれは魔力起源によるものだ。

 ならば目に魔力を集中すれば見えるだろう。

 確かに水中の氷は見難いが、十分に視力を上げれば見えないはずはない。

 普通の出力では無理ならいつもの十倍ならどうだろうか。

 俺は短く息を吐くと、全身の魔力を練り上げ、それを目に集中させていく。

 世界の精度が徐々に上がっていき、赤、青、黄……極彩色の光の渦が俺の目を貫いた。


「……うわっ!?」


 思わず解除し目を閉じる。

 いきなり色々な光が飛び込んできたからびっくりしたぞ。

 そういえば一部の生物は人間には見えない光を感知して生きているというのを生物図鑑で見たことがある。今の光の渦、まさしくあんな見え方をしているのだろうか。

 あまりの情報量、だが沢山の光の奥に何かが見えた気がした。


「さっきは目が眩んだけど、見える光の量を調節すれば……」


 再度、俺は練り込んだ魔力を目に集中させていく。

 同時に無関係そうな光は全てカット。無駄な線が排除され視界が広がった分、目に集める魔力を増やし精度を上げていく。

 様々な色や線が消えていき、黒に染まった視界の中、空に浮かぶ一本の線が見えた。

 目を凝らせば学園の丁度真上に巨大な半透明の球体が浮かんでいる。


「あれが裏側ってやつか」

「え、えぇ……」


 目を丸くしながら頷くジリエル。

 ふむ、見たことない構造の結界だな。術式を用いるというよりは、魔力を性質変化させ現実空間と混ぜて一体化させたような感じだ。

 一枚の絵に似たような絵を上書きして作り出した虚像というべきか。これは相当注視しないと気づかないだろう。


「し、信じられません……ロイド様の目に集まる凄まじい魔力、あの密度の魔力を以てすればあらゆる隠蔽をも通用しないでしょう。次元の壁すらも見通すとは、流石はロイド様でございます」

「ブツブツ言ってないでさっさと行くぞ」


 見つけてしまえば話は早い。『浮遊』で空中に浮かび上がった俺は次元の壁に触れてみる。

 しかし触れられない。触ろうとすると遠く離れて行ってしまう。なるほど、水に浮かんだ氷か。言い得て妙だな。


「だったらそれを固定化すればいいわけだ」


 というわけで空間系統魔術『空刺針』を発動させる。

 これは生み出した魔力針にて次元に穴を穿つ魔術、主な使い道は結界を破壊する楔とするものである。

 だが今回俺は空刺針を壁に直接叩き込むことで、自由に動かないよう貼り付けにしたのだ。


「『空刺針』……確かに空間系統魔術なら次元の壁にも干渉できる。しかし文字通り針の如く威力の低い空刺針で次元の壁を縫い止めるとは……」

「下手に強い魔術を使ってあれを破壊するわけにもいかないからな」


 折角こんな珍しいものがあるんだ、色々実験したい。

 壁の構造や仕組み、どういう術式で編み込んだのかその他諸々気になることは多い。

 ……それにまぁ、グリモもだ。


「さて、壁の構造は――っと」


 次元の壁に『鑑定』を使ってみる。……が、見えない。

 どうやらこの壁、魔術によるものではなさそうだな。術式を用いて作られたものではなさそうだ。

 そういえば魔族は術式ではなくイメージにより魔力の性質を変え、様々な効果を付与できるんだっけ。

 この壁のイメージ、ジリエルの言う通り空間と溶け合い見えにくくすることに大きく力を使っているようだ。その分構造は脆く、強い衝撃を与えるとガラスのように粉々になるようだな。

 やはり空刺針で縫い止めて正解だったな。そして侵入するにもこれを使った方がよさそうだ。


「だったら空刺針を大量に出せばいい」


 百、千、万、億……無数の空刺針を生み出し、次元の壁へと解き放つ。

 威力の低い空刺針と言えど、数で攻めれば話は別。次元の壁を文字通り掘り進んでいく。


「次元の壁を威力が低く、勝つ魔力消費量の多い空刺針で削って道を作るとは……確かにそれなら中に影響なく裏面に入れるでしょうが、ロイド様の凄まじさにはもはや笑うしかありませんね」

「おっ、中が見えてきたぞ」


 しばらくすると次元の壁の向こう、何やら庭園のようなものが見えてきた。

 さーて鬼が出るか蛇が出るか。

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