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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます  作者: 謙虚なサークル


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168/232

仲良くさせよう

 そしてお茶会当日、ノアとガゼルが俺の呼び出し通り学園中庭に姿を現す。


「やぁやぁ二人とも、よく来てくれたね」

「……」


 両手を上げて歓迎するも、二人はどこか不機嫌そうだ。

 ま、想定通りではあるけどな。


「光栄にもロイド様からお茶会の誘いを受けておきながら何たる無礼な……」

「わ、わ、シルファさんダメだよ剣は仕舞って仕舞って!」


 手伝いを頼んだシルファが腰から剣を抜きそうになるのを、同じく手伝いに来たレンが止めている。


「わかっていますよレン、我々の目標はこの二人を仲良くさせること、でしょう?」


 そう呟いて、シルファは剣を抜き放つ。

 一閃、テーブルに置かれたケーキが綺麗に切り分けられ、返す刃で小皿に取り分けられる。


「うおっ、すげぇなメイドさん! まさに目を眩む速さってやつか?」


 見事な剣技を見たガゼルが感嘆の声を上げた。


「剣術科の麗しき紅薔薇シルファさん、そして新しく薬術科の芳しき紫薔薇となったレンさんですね。なるほど、二人はロイド君の従者というわけですか」


 ノアもまた、感心したように頷く。

 というかシルファはともかくレンまでいつの間にそんな称号を得てたんだ。


「前に仲良くなったって子がいたでしょ? 先日試験があってその点数でボクが勝ったんだよ。それで薔薇の称号はあなたに差し上げますって言われて……ボクはそんな気はなかったんだけど……」


 そういえば以前、ノアに聞いたことがある。

 薔薇の呼び名は各科で最も優れた者に与えられる称号だとか。

 ノアも魔術科のなんとか薔薇とか呼ばれていたっけ。


「おーおー、色取り取りの薔薇様が揃い咲きかい。しっかしロイドよ、周りにこうもすげぇ奴らがいると何かと比べられちまって大変だろ? わかるぜその悩み」


 ガゼルが悪態を吐きながら、俺の方に腕を回す。


「ロイド様は我々など問題にもならぬお方です。優秀な兄を引け目に感じているあなたと同じに考えるのはおやめなさい」

「……あ? 何だとぉ……!?」


 ガンを飛ばすガゼルにもシルファは涼しい顔だ。


「ふっ、愚弟には女性の扱いは難しかったようだ。ここは気を沈めて頂けませんか? 麗しき紅薔薇嬢」

「いえ、その……キモいです」

「ッッッッッッ!?」

「ぶはっ!」


 絶句するノアを見て今度はガゼルが爆笑する。


「ぎゃっはっはっは! キメェってさぁクソ兄貴よぉ! ざまぁだな!」

「……黙れ愚弟。消滅したいか?」

「わ! わーっ! 二人とも喧嘩はダメだって! ど、どうしようロイド……」


 火花を散らす二人の間に入るが止められず、助けを求めるレン。だが想定内である。


「心配するなレン。シルファにはあぁやって場をかき乱すよう頼んであるのさ」


 そう、今から使う魔道具の効果を確認するには、出来るだけ二人の感情を揺さぶっておいた方が分かりやすいからである。

 故にシルファには二人の感情を逆撫でするよう頼んでいるのだ。……なんかマジっぽかったけど、多分気のせい。


「ともあれ今こそこの力を発揮する時だ。……ポチッとな」


 ポケットの中でボタンを押すと、テーブル下に隠した噴出口から霧が放出されていく。

 無味無臭の霧は瞬く間に辺りを包み込んだ。

 と同時に先刻まで険しかったノアとガゼルの表情がみるみる緩んでいく。


「んお……アレ? 何で俺さっきまでイラついてたんだっけか……?」

「ふむ……まるで清流のせせらぎを聞いているかのような心地よさ……今までの苛立ちが嘘のように消えていく……」


 綻び顔の二人にシルファは椅子を引いてテーブルに招いた。


「どうぞ、お座り下さいませ」

「おおー、悪いなメイドさんよぉ」

「では失礼して……」


 言われるがまま椅子に腰を下ろす二人を見てレンが俺に耳打ちをしてくる。


「さっきまであんなに怒ってたのに……これがロイドの作っていた魔道具の効果ってやつ?」

「俺とコニーな。この魔道具『遊々香器』は無数の薬草をブレンドしたものを独自のパターンで焚くことで、様々な香気を生み出すものだ」


 現在焚いているのは吸引した者の感情を鎮める効果を持つ香気。それで二人はあんな風にほっこりしているのである。


「ちょっと前に集めてた薬草ってわけね。でも紫咲草を始めとする鎮静効果を持つ薬草は匂いが強いハズだよ。どうして全く匂いがしないの?」

「それについては私が説明しましょう」


 横から顔を出してきたのはコニーだ。


「本来であればこれらの薬草が混じった匂いはとても強烈でその場にいるのも辛い程。しかしこの『無臭香器』は特殊な金属線を巻いた釜で焚くことにより完全なる消臭を可能となります。しかし人の持つ感覚というのは意外と鋭いもの、その違和感を消す為に使われているのが銀酸です。これが香気と共に空気に触れると人が持つ微弱な感覚をも狂わせる毒に化ける。いえ毒といっても人体に害はないのですが……」

「う、うん……そうなんだ……」


 コニーがメガネをくいと持ち上げながら饒舌に語るのを、レンは困惑して聞いている。

 まぁ端的に言えば、どんな香を使っていても相手には気取られない魔道具ってことだ。

 二人の仲が悪いのはつまりすぐ喧嘩になるからで、鎮静の香気に当てた状態ならまともな会話になるだろう。


「ふぅ、この茶ぁ美味ぇなぁ……」

「えぇ、心から温まりますねぇ……」


 加えて今、シルファに淹れさせている薬膳茶にも効果を持つ薬草を煎じて入れてある。

 さぁ二人とも、仲良くお茶会を始めるとしようじゃないか。


 ◇


「おう兄貴、そこの菓子ぃ取ってくれよ」

「ふっ、仕方ないな弟ですね。受け取るといい」

「ありがとよ」

「大した手間ではない」


 魔道具、そして特製の薬膳茶による鎮静、休心効果は驚く程で、二人は仲良くやっているようだ。


「すごい効果だね……あの二人が仲良くしているよ」

「うん、私の予想以上。もしやロイド君、どこかの術式を弄った?」

「あぁ、ちょっとだけね」


 コニーの質問に頷く。

 折角の機会、失敗したら困るので俺は香気の効果を最大限まで上げるべく神聖魔術『眩光』を使っているのだ。

 本来この手の神聖魔術は悪人を強制的に改心させるものだが、この『眩光』は敵意自体を失わせる効果がある。

 そのまま直で使うと気取られる恐れがあったが、香気により意識薄弱となった二人の前でなら最弱で使えば気づかれはしない。


「今なら二人が何で仲悪いのか聞けるんじゃない?」

「ふむ、そうだな」


 魔道具作りが楽しくて忘れていたが、そもそも何故二人が喧嘩をしているのかを突き止めるのが目的だっけ。

 というわけで早速聞いてみる。


「ねぇ、二人は何故いつも喧嘩ばかりしてるんだ? 仲良くすればいいのにさ」

「何でって……そりゃあまぁ一言で言えば家庭の都合ってやつだなぁ」


 俺の問いにガゼルはぼんやりした口調で答える。


「えぇ、私と弟はボルドー家の後継候補。物心ついた時から互いに競い合う、蹴落とし合う関係なのですよ」

「あーそうそう、そんな感じだぜ」


 成る程、そういえば二人はボルドー家の子孫。

 幼い頃から競わせて、優秀な方を後継者に決めるのだろう。


「ボルドー家には古より続く大事な役目がある。不出来な弟にそれを任せるわけにはいきませんからね」


 役目、その言葉を聞いた途端、ガゼルの眉が険しくなる。


「ハッ、その言葉そのまま返すぜクソ兄貴。確かに頭はあんたのが良いかもしれねぇが、ガチでやり合えば俺のが絶対強えー。先祖の封じた魔人魔族の見張りにゃ奴らと互角に戦える戦闘力が必須! そんなハナクソみてぇな魔術でどうにかなるとは思えねぇなぁ!」

「ふっ、確かにお前の戦闘力は認めよう。しかし戦いというのは一人でぶつかるものではない。知略、策略を巡らすもの。愚弟のような猪並みの知能では奴らの語りに落ち、封印を解除してしまう恐れもある。到底役目が務まるとは思えませんね」


 先刻までのほほんとしていた二人が、役目の話になるや急に熱く語り始める。

 そういえばこの大陸には魔人、魔族を封じた祠が幾つもある。なるほど、ボルドー家お役目ってのはそれらを守ることなのか。


「何ぃ!? 俺のが相応しいってんだ! クソ兄貴はすっこんでろ!」

「愚かな。引っ込むのは貴様の方だ。家の役目は私に任せ、愚弟は外界に出て自由に過ごす方が向いているだろう」

「優秀なんだろクソ兄貴! 封印守りなんて危険な仕事は俺に任せて、テメェはその頭で世界平和にでも貢献しとけや!」

「兄の気も知らぬ愚弟め! 兄である私が弟に死ぬかもしれない仕事を任せられると思うか!? 貴様こそその天才的魔術センスを世の為人の為に役立てながら生きていけ!」


 声を荒らげる二人を見て、シルファとレンが互いに顔を見合わせる。


「えぇと……これってつまり、お互いが心底嫌いで喧嘩していたわけではなく……」

「お互いを思いやり、危険な仕事をさせたくないが為にいがみ合ってた、ということでしょうか。何とも紛らわしい……」


 がつん! とノアとガゼルは互いの額をぶつけ、吠える。


「いつ死ぬかわからないようなボルドー家の後継者なんぞに、お前がなる必要はない!」


 以前、何かの本でボルドー家の家長は短命だと読んだことがある。

 曰く、呪われた家系。倒された魔人、魔族の怨念。あまりに強い魔力を持つが故の反動……などなど、色々書かれていたがとどのつまりは当主の使命、魔人、魔族の封印維持がそれほど危険だったからなのだ。


「魔人はともかく、その数十倍の力を持つ魔族の封印には相当の魔力が必要でしょう。自身の器を超えた魔力を使うと寿命をも削る。彼らが短命である理由はそれでしょうな」


 納得だとばかりに頷くジリエルだが、俺は口惜しさに歯噛みしていた。

 くっ、なんて楽しそうなことをしているんだ。

 古の魔人、魔族なんて絶対すごい魔術を持ってるぞ。そんな連中と戯れられるなんて、いいなぁ。羨ましい。


「ロイド様、それより新たに茶を飲ませた方がいいんでないですかい? 奴らかなり興奮していやすぜ」

「おっとそうだな。二人を落ち着かせないと」


 シルファに目配せし鎮静効果のある薬膳茶を注ぐよう頼むと、すぐにティーカップを二人の前に並べられる。

 熱くなって喉が渇いていたのだろう。二人は早速ティーカップに口を付ける。

 よしよし、本音も引き出したことだし、あとはこれを飲んで落ち着いてくれれば二人とも仲良くなってくれるだろう。

 そんなことを考えていると、俺の掌でグリモが僅かに動いた気がした。


「……?」


 俺が疑問に感じた次の瞬間、二人の手からカップが滑り落ちる。

 カシャァァン! と乾いた音が鳴り響き、二人の身体がテーブルに崩れ落ちた。


「ノア! ガゼル!」


 慌てて駆け寄り、二人の背を揺らす。

 どうやら気を失っているようだ。二人とも白目を剥き、口からは泡を吹いていた。

 続いて駆けてきたレンがティーカップの縁を指で舐め取る。


「ペロッ……これは枯紅花の毒だよ! 一体どうしてこんな所に……?」

「わかるわけがありません。そもそも最初からこの場にそんなものはありませんでした!」


 答えながらもシルファは二人の背中をバシバシと叩いている。

 枯紅花――以前レンと薬草採取に行った際に見つけたものだ。俺が触ろうとすると、危険だと止めらたっけ。

 その葉には超即効性の毒があり、人体に入れた瞬間から溶け出して食べた者の意識を失う。

 数時間で命を奪う猛毒で、対処が遅れると死に至ることも珍しくないとか。


「ぅオェッ!」


 嗚咽と共にガゼルが飲み込んだ茶を吐き出した。

 ノアもまた気が付いたようで、ゴホゴホと咳き込んでいる。


「二人とも、大丈夫!?」

「ゲホッ、ゲホッ……い、一体何が起きたんだ……?」

「何者かがあなた方二人に毒を盛ったのですよ。幸い処置が早くて助かりましたが……ロイド様の茶会を邪魔するとは何と不届きな……」


 苦虫を噛み潰すような顔をするシルファ。

 毒、か。しかしまず疑われるべきは――


 ノアとガゼルは俺に真っ直ぐ疑いの目を向けてくる。

 ――ま、どう考えても俺だよな。


「ロイド様がそのようなことをなさるはずがないでしょう」


 静かに、しかしとても強い口調でシルファが言う。


「そうだよ! 本当に殺す気なら枯紅花なんてわかりやすい毒は使わないし、そもそも回復処置なんてするわけない! あなたたちに恨みがある誰かが、どうにかして毒を盛ったんだよ!」


 レンもまた言葉を続ける。

 実際、俺がやったとするならばあまりにも雑なやり方だ。本当に殺したいなら手段はいくらでもある。

 二人もすぐにそれはわかっているのか、うむむと唸っている。


「……まぁそうだな。一瞬疑っちまったが、ロイドはもっと真っ直ぐな奴だ。そんな姑息な手は使わねぇだろうよ」

「えぇ、それなりにロイド君を見てきましたが、その行動は清廉にして潔白。裏で動いている者がいるのは間違いないでしょう」


 妙に二人の評価が高いが、二人のところにいたのはほぼ中身グリモだった気がしないでもない。

 しかし一体何者の仕業なのだろうか。

 二人とも生徒たちの信頼は厚いし、毒を盛られるようなことはしていない。

 うーん、わからん。


「何かわかるか? グリモ……」


 言いかけて、掌がどうもスースーするのに気づく。

 見れば俺の掌にいたはずのグリモはいなくなっていた。


「ロロロロ、ロイド様!!」


 慌てたような声を上げたのはジリエルだ。


「私は見ました! 奴が……グリモが二人に毒を盛る様を!」


 気づけば、俺の掌からグリモが消えていた。

原作六巻発売中です。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔人、魔族を封じ 多分人柱
[一言] >くっ、なんて楽しそうなことをしているんだ。 やれやれ、その好奇心で前世は生き足掻くことすら忘れて殺されたというのに、全く懲りてないな。 >見れば俺の掌にいたはずのグリモはいなくなっていた…
[一言] こ、この展開は………?!
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