かけもちします
「ねぇロイド、もしかしてこっそり生徒会に入ってたりする?」
寮に帰って休んでいると、レンがおずおずと声をかけてくる。
「あぁ、よくわかったな」
「やっぱり! 絶対そうだと思ったよー。生徒会に脅威の新人来たる! 正体不明の凄腕魔術師! その正体や如何に! ……ってさ。聞いた瞬間絶対ロイドだと思ったもん。どうするの。学園中で噂になってるっぽいよ?」
「誘われちゃってな。断り切れずに」
「そんなこと言って、どうせノアさんの魔術に釣られたんでしょう? 魔術師の始祖、その子孫だものねー」
ジト目を向けてくるレン。何故わかるんだ。
「……ちなみに学園愚連隊にも凄い新人が入ってきたって耳にしたけど、まさかそれも……?」
「あー、まぁな」
俺が頷いて答えると、レンはわかりやすく大きなため息を吐く。
「学園を取り仕切る二大グループを掛け持ちって……目立ちたくないとはとても思えないんだけど……」
それもまた致し方ない話である。
ただ好奇心と天秤にかけた結果、こうなっただけなのだ。更に魔道具部も掛け持ちしていることは言わない方がいいかもしれない。
「でもそんなことしてて、仕事が重なったりしないの?」
「生徒会の仕事は朝が多いし、ガゼルの方は放課後が殆どだからな。被ったことはないぞ」
「そうは言っても鉢合わせしたりとか……」
「心配しなくても、その辺りはグリモに任せている」
「あ、そうなの。だったら安心かも」
さっきまで心配していたレンだが、グリモの言葉を聞いた途端に安心して頷く。
なんだその信頼度は。軽くショックである。
「まー一応上手くはやってるつもりですが……あの二人、どうも最近様子がおかしくってよ。注意が必要かもしれませんぜ」
「どういうことだ?」
「あの兄弟、仲が悪いのは知ってるでしょう? どうやらお互いにいい新人を手に入れたっつー情報を入手したらしく、以前に増してバチバチしてるんでさ」
「へぇー、そうなのか」
よくわからないことで張り合うんだなぁ。
本当に仲が悪いなら別に相手にする必要ないと思うけれど。
「ロイド様、その魔人の言う通り、少々気をつけた方がよろしいですよ。古来より人間というのは何かと他人と比べたがるものです。自分と相手、どちらが優秀な人材を手に入れたかを試したくなってもおかしくはありません」
「特に兄弟なら尚更ですぜ。しかもそうなったらロイド様は一人しかいやせんからね。どうなるかは想像に固くねぇでさ」
確かに俺が二つのグループに同時に在籍しているのがバレてしまったら、結構な問題になるかもな。
二人は仲が悪いようだし、もしかしたらどちらか辞めさせられてしまうかもしれない。下手すれば両方から……むぅ、それは困るぞ。
「何が手を講じる必要があるだろう。……そうだ、あれなんか使えるかもな。ふふ」
「ロイド様が不気味に笑っておられる……」
「嫌な予感しかしねぇぜ……」
失礼な。上手くいけば二人は仲直り、俺の正体もバレないと言うまさに一石二鳥の手なんだぞ。
ま、ここは俺に任せて貰おうじゃないか。
◇
「そういえば聞いたかよ? ガゼル君の舎弟って実はあまり凄くはないらしいぜ」
男子生徒の噂話にノアの耳がぴくんと動くのを俺は見逃さなかった。
そして、その日の放課後のことである。
「聞いたかしら? 生徒会に入った新人さん、意外と普通らしいわ」
女子生徒の噂話にガゼルが眉を顰めるのを俺は見逃さなかった。
よしよし、二人とも意識しているようだな。作戦は上手くいっているようだ。
――作戦というのはつまりこうだ。
お互いの新人の評判がなまじ高いから、相手と自分どちらの新人が上かが気になっているのだ。
だったら逆に評判を下げてやればいい。期待の新人がそうでもないと分かれば、わざわざ比較しようとはしないはず。むしろ隠したがるだろう。うんうん、我ながら見事な作戦である。
「俺らを人間どもに取り憑かせて噂を流すなんて、相変わらず手段を選びやせんね」
「しかしそう上手くいくでしょうか? 噂話などというものは制御が難しいものです。ロイド様の思惑通りに行くとは限りませんよ」
「ははは、心配性だなぁ二人とも」
そう言って笑い飛ばしはしたものの……数日後、事態は急変する。
「――許せませんね」
静かに、しかし強い口調でノアが言う。
「愚弟どもは君に関するありもしない噂話を流しています。我々だけならまだいい。しかし優秀な君を貶めるような真似は決して許すことは出来ません」
ノアの言葉にうんうんと頷く他の生徒会メンバーたち。
しかも話は生徒会だけでは終わらない。
「野郎ども! 生徒会の連中はロイドのありもしねー悪い噂を流してやがる! ったく見損なったぜあのクソ兄貴、俺たちだけならまだわからんでもねぇが、こんな優秀な奴を叩くなんて絶対に許せねぇ!」
周りの者たちもうんうんと頷いている。
なんだこの状況。どうしてこうなった。
「そりゃ、お互いの悪い噂を流してるんだから、自分側への悪口だって耳に入りますわな」
「然り、お互い自慢の新人を馬鹿にされたとあれば、より仲が悪くなるのは必然でしょう」
当然だとばかりに頷くグリモとジリエル。
うーん、ちょっと考えが甘かったかな。中々上手くいかないものである。
そんなことを考えていると、ガゼルが俺を睨んでいるのに気づく。
「おいロイドぉ、何ボサッとしてやがる。これはテメェが不甲斐ないせいでもあるんだぜ。男なら自分のケツくれぇ自分で拭きやがれってんだ!」
「というと?」
「噂は所詮噂だと、周りの連中にわからせてやればいいのさ。生徒会に入った新人とお前、どちらが優れているか白黒つけるんだ」
ガゼルは拳を握り締めると、更に語気を強める。
「クソ兄貴とはもう話をつけてきた。明日の放課後、お前と生徒会の新人でバトってどちらが強えか決着をつけるってな。絶対に負けるんじゃあねぇぞ!」
びし、と俺を指差すガゼル。
愚連隊期待の新人と生徒会期待の新人、どちらが上か戦って決めろ、とな。
えーっと……それってまさか、もしかして――俺と俺が戦う、と。そういう話か。
「いやいやいや、そいつは流石に無茶ってもんでしょう!」
「不可能ですよ。如何にロイド様といえど……」
「――いや」
俺はそう言ってニヤリと笑う。
「今度こそいい考えが浮かんだぞ。俺に任せてもらおうか」
そう言って胸を叩く俺を、グリモとジリエルは冷めた目で見つめるのだった。
アニメ化することになりました。これからもよろしくお願いします!




