魔道具部にも入ります
「ロイド君、今日は珍しくゆっくりしているのね」
授業が終わって帰ろうとしているとコニーが話しかけてきた。
「うん、たまにはね」
今日はめずらしくノアとガゼルの誘いがなかったので、早く帰って予習復習をしようとしていたところだ。
学生の本文は勉強だしな。知ってる知識が殆どだが、俺は基本独学で学んできたので基礎的なものは抜け落ちていることも多い。
いやぁ、本当にこの学園に来てよかった。
「ロイド様程の力を持ってても、意外と他の連中から学ぶことあるんすねぇ」
「真面目な態度でロイド様の評価は高いようです。当然のことですが」
評価が高いと言えば、コニーもだ。
魔道具作りで鍛えた術式の理解を応用し、魔力がないながらも十分授業についていっていた。
魔術科の授業は本来そこそこ魔術が扱えるのが前提だが、コニーはそれを補えるほどの大量の知識と技量でこなしているのだ。
相当魔術が好きなのだな。感心である。うんうん。
「そういえば聞いた? 最近生徒会にすごい人が入ったらしいよ」
「ごふっ!」
コニーの突然の言葉に俺はむせてしまう。
「生徒会が仕事をしている場所で、とんでもない魔術が発動するのが見えたとか。生徒会は秘密にしてるけど、私の予想によると最近転入した生徒に違いないね」
「は、はは……」
くそぅノアめ、何が誤魔化しておくだよ。バレバレじゃあないか。
「言っときますけど、ノアの奴はそれなりに気を配ってくれてるみたいですぜ」
「然り、それ以上にロイド様がやり過ぎているだけなのです」
むむむ、これでもかなり加減しているんだけどな。
やはりここの生徒は優秀なのだろう。俺の隠蔽魔術をも見破る者もチラホラいるようだ。
……ま、噂になっているくらいならまだ大丈夫だろう。
「それに学園を裏から仕切っていると言われているあの学園愚連隊にも凄い新人が入ったんだとか」
「げほっ!」
更にむせる。ガゼルたちって学園を裏から取り仕切っていたのか? 確かに生徒たちからの頼みで色々やってはいたけどさ。
「逃げた魔獣の捕獲したり、悪事を働く生徒を人知れず懲らしめたりと大活躍みたいだよ。あのガゼル君が褒めていたってさ」
「へ、へぇー……」
ガゼルめ、言いふらしてるじゃないか。隠してくれるっていったくせに。
「ロイド様、奴も一応名前は伏せてくれてるみたいですぜ」
「やはり不正規の組織だからか、生徒会の者よりは口が軽いようです」
むぅ、困るなぁ。ただでさえガゼルの手伝いは楽しくて気合が入りがちなのだから、しっかりフォローして欲しいものである。
……そこの二人、自業自得とでも言わんばかりの目で見るんじゃない。
「ったく、掛け持ちなんかするからですぜ」
「逆に考えるんだ。掛け持ちしたからこそ、俺自身の特定に至っていないと」
「何とも前向きですね……」
「羨ましい思考回路ですな……」
「褒めるなよ二人とも、照れるじゃないか」
「いや、褒めてない褒めてない」
二人の声が綺麗にハモる。なんだかんだで意外と仲良いよなこの二人。
そんなことを言っていると、コニーがため息を吐いているのに気づく。
「はぁ、でも羨ましい。ウチは新入部員は私だけだから」
「そういえばコニーは魔道具部に入ったんだっけ」
この学園では授業の他に、部活動がある。
授業と違う点は生徒たちが自主的に行うということで、俺も転入してすぐは色んな部に勧誘されたものだ。ノアとガゼルの掛け持ちをするのに忙しく手は入れなかったけど、ちょっと興味はあったんだよなぁ。
「うん。……でも卒業試験の準備があるからって、先輩たちは入れ違いに辞めていき、今では私一人になっちゃった。色々教えて貰いたかったんだけどね」
落胆するコニーを見て、俺はふむと頷く。
「なぁコニー、俺も魔道具部に入っていいか?」
「……ロイド君が?」
「ダメかな?」
「いえ、むしろ大歓迎。……でもなんだか毎日忙しそうなのに、大丈夫なの?」
驚くコニー。そしてグリモとジリエル。
「何考えてるんですかいロイド様! 今でもバレそうになってるじゃねーっすか!」
「そうですよ! それにノアたちの仕事もあるのに、物理的に不可能でしょう!」
「いいや、そうでもないさ」
そんな会話をしていると襟首の裏に付けていた生徒会バッヂが震える。
これは通信用の魔道具で、呼び出しがあるとこうして教えてくれるのだ。
ちなみにガゼルからも似たようなのを渡されている。
「ほれ、言ってるそばから呼び出しですぜ」
「ノアか……うん、丁度いい」
俺はニヤリと笑うと、席を立って外へと向かう。
「ねぇロイド君、どこ行くの?」
「すぐ戻るよ」
ひらひらと手を振って人気のない場所へ来た俺は、ついてきたシロの毛の中へ腕を突っ込む。
「えーと確かこの辺りに……あった」
ズボッと取り出したのは俺そっくりの人形、木形代だ。
魔術により木を形状変化させ、人体をほぼ完全に再現した木人形である。
「グリモ、こいつの中に入ってノアの元へ行ってくれ」
「……つまり、ロイド様の代わりに仕事を手伝ってこいと?」
「あぁ、俺はしばらくは魔道具部で活動する。適当にやってくれよ。グリモ」
そう、グリモなら俺よりも加減は上手だ。
生徒会やガゼルの手伝いは一通りこなしたし、ガゼルの作る魔道具にも興味はあったしな。
「あ、そっちの方で面白そうなことをやってたらすぐに教えてくれよな。すぐ代わるからさ」
「自由すぎますよロイド様……」
人のいない魔道具部なら誰かに俺の姿を見られることもないだろうし、生徒会などと鉢合わせする機会もないだろう。まさに完璧な作戦だ。
「ま、善処はしやすがね。あまり信頼されても困りやすぜ」
「そんなことないぞ。グリモはいつもよくやってくれてるんだからな」
「な……ふ、ふん。煽てても何も出やせんぜ! おい行くぞキー坊」
グリモは頷く木形代と共に駆け出すのだった。
なんか照れてた? いや、気のせいだろう。
「魔人とはいえ、あまりに不憫な……」
ジリエルがグリモを見送りながらぽつりと呟いている。
よくわからんがこれであちらは問題なし、だな。
「さーて、今度は魔道具部を堪能させて貰いますか」
というわけで俺はコニーの元へ戻るのだった。




