不良グループにも呼び出されました
「おう、ちょっとツラ貸しやがれ」
――無事教室へ戻り、楽しい授業を終えた俺の前に現れたのはガゼルだ。
「えーと……俺に何か用?」
「用があるから呼んでんだよ。いいからついて来やがれ」
ぶっきらぼうに言うと、ガゼルは踵を返し歩き始める。すたすたと、一人で。
おーい、まだついて行くとは言ってないんだが。
「何だあの野郎、用があるならここで言えばいいのによ」
「しかし今のさっきだというのにまた呼ばれてしまうとは……ロイド様は随分注目されているようですね」
全くだ。目立たないようにしているはずなのに、一体どういうことだろうか。腑に落ちん。
「どうするつもりですかい? ロイド様。やはりついて行くつもりなんすか?」
「危険ですよロイド様! この手の人が集まる場所では気に入らない者がいると校舎裏に呼び出し数人で袋叩きにすると言われております! ガゼルの風体、如何にもその手の輩ではありませんか!」
「――ほう」
一目につかない場所でガゼルの魔術を浴び放題とは……何とも魅力的なお誘いじゃないか。
「何で目を輝かせてるんですかねぇ……」
「まぁそもそもの話、誰がロイド様をボコれるんだという話ではありますが……」
「オンオンッ」
何やら呆れているグリモとジリエル。
ともあれこうしちゃいられない。俺はシロと共にガゼルの後をついていくのだった。
教室を出たガゼルは自動階段の脇を通り抜け、細い通路を奥へ奥へと進んでいく。
空き教室や使ってなさそうな古い階段、学園の裏側というか隠し通路的な道を縫うように。まるで迷路だ。
そうしてしばらく進んでいると、ようやく明るい場所に辿り着いた。
どうやらここは塔の仕掛けの為に出来た隙間のようで、周囲は聳え立つ壁に囲まれていた。
「こんな朝っぱらから召集かけるなんて、勘弁して下さいよガゼルさん」
頭上からの声に見上げると、壁の上には俺を取り囲むように数人の生徒たちが見える。
「ガゼルの兄貴、そいつが例の転入生っかい?」
「マジで子供っすねー。ははは」
「馬ァ鹿、ガっつぁんが気にかけるくらいだ。お前なんかより千倍つえーよ」
次々に言葉を投げかけてくる彼らは皆、妙な形の黒メガネをかけたり、頭髪を真上に伸ばしたり、マスクで口元を隠したり、やけに派手派手しい恰好をしている。
「なんだぁこの痛々しい恰好した奴らはよ」
「どうやらガゼルの仲間のようですね。やはり多人数でロイド様を袋叩きにするつもりなのでしょう」
「ウウゥ……!」
唸り声を上げるシロを宥めながらも俺は気持ちを昂らせていた。
ガゼル一人かと思っていたが、こんなに沢山から魔術を受けられるなんて、ついてきてよかったなぁ。早く撃ってくれないかなぁ。
俺が期待しているとガゼルは俺の方を向き直る。
「……さて、そろそろ本題に入るとするか」
「こっちの準備はいつでもいいよ」
次の授業までそこまで時間があるわけでもないし、さっさと色々な魔術を撃って欲しいものである。
結界は解除したし、吸魔の剣もスタンバイしている。いつでもオーケーだ。
「何で目ェ輝かせてんだよお前、見た目に反して好戦的かぁ? 別に取って食おうってんじゃねぇから警戒すんな。テメェらも挑発するような真似してんじゃねぇよ」
ガゼルは俺の態度に何故かドン引きしている。
というかやらないのか。つまらん。しょぼん。
「何でがっかりしてるのか知らねぇが……まぁいい。単刀直入に言うぜ転入生。――お前、俺の舎弟になりやがれ」
その言葉に固まる俺にも構わず、すぐにガゼルは言葉を続ける。
「俺たちは学園愚連隊。まぁ非公式の組織さ。生徒たちがあまり悪さをしねぇように見張ってるんだ。……それによるとお前さん、学園で浮きまくりだ。かなり目立ってるぜ」
そうなのか? 俺はただ普通に授業を受けていただけなんだけどなぁ。目立つ要素はなかったはずだぞ。
しかしグリモとジリエル、はてはシロまで俺に白い目を向けてくる。くっ、味方がいない。
「おおっと、別にそれが悪いわけじゃねぇ。だが出る杭は打たれる。ガキ同士ならなおさらだ。しかし俺の舎弟になれば、粉かけてくるような輩はいやしねぇ。それにお前、目立ちたくなさそうにしてただろう? そっちも気ィ使ってやる」
語りながらガゼルは威圧するように俺を見下ろしてくる。
「おおっと、断ろうと考えてるならやめた方がいいぜ。上にいる連中は俺がここに来るまでは学園愚連隊とか名乗ってそりゃもう悪さばかりしてる問題児どもだったが、俺がボコボコにしてからはすっかり大人しくなっちまったんだからなぁ? お前も大人しくなりたくはねーだろ?」
ガゼルの言葉に上の者たちはうんうんと頷く。
「そうだぜ。ガゼル兄貴の強さは半端ねーんだ」
「坊主、悪いことは言わんから逆らわない方がいいぞ」
「下手に怒らせたら殺されちまうぜぇ。ひゃはは!」
軽口を叩きながらも彼らから感じる魔力はそれなりのものだ。
ここに入れるということはある程度の才は必要だからな。
そんな彼らが完全に負けを認めているのだ。ガゼルの実力はやはり相当なのだろう。
「さぁどうする? 俺の舎弟になるか? ならねぇのか? どっちだ!」
ここは誘いを断ってバトルするのも面白いかもしれないが――
「いいよ」
俺が頷いて答えると、ガゼルはくぐもった声で笑う。
「くくっ、賢明な判断だぜ転入生」
確かに我ながら懸命な判断だったと感心する。
この場でガゼルたちから魔術を喰らえば一時は楽しめるかもしれないが、彼らの仲間に加われば長い目で見てもっと沢山の魔術を触れられる可能。
それに仲良くなることで、色々な術式も教えてくれるかもしれないしな。
俺は生徒会にも入っているし、別に急ぐ必要はないのだ。うんうん。
「このチビ、俺とクソ兄貴のバトルの間に入ってくるとは相当いい度胸してやがる。しかし幾ら思い切りがいいと言ってもまだまだ子供だ。このまま目立ち続ければ面倒な輩に目を付けられるだろう。だが俺のグループに入れておけばそんな心配もねぇだろうしな。それにクソ兄貴の元に行かれてもつまらねぇし、これが一番いい手だろうよ。……ついでにあいつの連れてる犬っころ、デカイし毛並みもいいし、モロに俺の好みなんだよなぁ」
ガゼルは何やらブツブツ言いながら、シロを見ている。
どこか物欲しげな目だ。シロも不安そうに俺に擦り寄ってくる。
「……それに、来るべき戦いにも備えねぇとよ」
不意に真剣な面持ちになるガゼル。なんか忙しい奴だな。
どうやら一人の世界に入ったようである。
そういえばノアも似たような感じだったっけ。やはり兄弟というのは似るものなのかもしれない。
「やれやれ、ロイド様を舎弟にするとはこいつも中々命知らずな奴だぜ」
「ですがよろしいのですかロイド様? ノアとガゼルはあまり仲が良くない様子、掛け持ちをしていると知れたら問題なのでは?」
「別に大丈夫だろ」
だって掛け持ち禁止とは言われてないからな。
言われてないということは構わないということだ。
少なくとも俺にとっては。……まぁ何か問題が起きたらその時に何とかすればいいだろう。
ともあれこれからの学園生活が楽しみになってきたな。




