試験に合格しました
「出来た」
静寂の中、俺の後ろにいたコニーが手を挙げる。
と、ほぼ同時に俺の方も完成した。
「俺も」
「む……二人共もう終わったじゃと? まだ制限時間は半分以上残っとるぞ」
「な、何度も見直しはしたので大丈夫だと思いますが……」
自身なさげなコニーだが、それより俺の方が心配だ。
何せやろうとした時には原型が殆ど残っていなかったので、ちょっと……というか大分オリジナルになってしまった。
一応最終節までは紡げたので発動自体はするはずだが、早くはっきりさせたい。
「あのー、もう発動させてもいいですか?」
「まぁ待ちなさいロイド君、まずは先に完成させたコニー君からだ。さぁ、術式を発動させてみると良い」
「わかりました……では」
頷いてコニーが術印紙に魔力を流すと、宙に術式が浮かび上がる。
立体化した術式の中を縦横無尽に魔力光が駆け巡り、徐々に光を増していく。
それは最後に術式の上部を飛び出し――爆ぜた。
色鮮やかな花火が咲き誇ると共に、ドンパンと賑やかな音が鳴り響く。
それを見ながらシドーは目を細める。
「ほう……早いだけでなく正確な術式を編み込めておる。見事なものだ。うむ、文句なく合格じゃ!」
ふむ、術式から概要は想像出来たが、やはり光と音で虚像を見せる類の幻想系統魔術だったな。多分シドーのオリジナルである。
「つーかあの女、術式を起動する際に魔力を使っていやしたぜ」
「ええ、魔力はないはずなのに、一体どこから……それに妙な違和感もありました」
グリモとジリエルが首を傾げている。俺は既に目星はついているが――
「では次、ロイド君やってみなさい」
ともあれ試験だ。俺は言われた通り術印紙に魔力を流す。
すると浮かび上がった球体術式の一部がボコンと大きく膨れ上がり、不安定に波打ちながら様々な色を放ち始めた。
うっ、なんだかヤバそうな予感。
パチパチと火花が爆ぜ、球体術式が唸っていたかと思われた時である。それは一気に膨張、破裂した。
どふん! と重低音と共に球体術式の下部が弾け、赤黒い『何か』がドボドボと溢れ出していく。
「何してんすかロイド様ぁーーーっ!?」
「さっきと完全に真逆の反応を引き起こしていますよ!?」
グリモとジリエルがドン引きしている。
うーん、普通に術式を組んだつもりだったんだけどなぁ。どうやら失敗してしまったようだ。
チラッと見上げると、シドーは難しい顔で唸っている。
「むむぅ……これは冗談で組んでいたハズレ演出用の術式……! 悪趣味が過ぎると他の教職員たちに反対され、渋々その上から正答術式を張り付けておいたがそれを掘り出して再現するとは! これを発動させるには正答術式を完全に分解した後、バラバラになりほぼ限界を留めていないような術式を改めて組み上げる必要がある。術式への理解と想像力、構成力がなければ不可能。それをこの短時間で……恐るべし才じゃ」
シドーが何やらブツブツ言っている。それよりいいのかダメなのかを早く言って欲しいのだが。
俺がソワソワしているとシドーは大きく息を吐いた。
「よかろう、二人とも合格じゃ。しかも最上級の判定でな。――改めて魔術科へようこそ二人共。中を案内するからついてきなさい」
ほっ、どうなるのとかと思ったが、何とか合格出来たようである。よかったよかった。
◇
俺たちは塔の階段を登っていた。
といっても足を動かすことはない。
何故ならこの階段、勝手に動くよう術式を組み込んであるようで、何もしなくても上へ登っていけるようになっているのだ。
これは魔道具というもので、それ自体に術式を編み込むことで魔術に近い効果を持つ道具である。
魔力がなくとも様々な働きをする便利な物だ。
この高い塔を歩いて昇るのはしんどそうだしな。魔術師であれば『飛翔』とかで飛べるから関係なさそうだが。
「ほっほっ、驚いたであろう。これほど大きな動く階段は大陸には他にないからのう」
「はい、すごい技術です」
目を輝かせながら自動階段を舐めるようにして見るコニー、その首元でペンダントがキラリと光る。
「そういえばコニーも魔道具を持ってるよね」
「……うん、気づいてた?」
先刻の試験でコニーが魔力を使えた理由、それはあのペンダント型魔道具から魔力を発していたからだ。
あれは恐らく予め魔力を蓄えることが出来る魔道具だな。魔力の流れが不自然だとは思ったが、魔道具を使っていたなら納得である。
「なるほど、ようやく合点がいったぜ。あの女、妙な出で立ちだと思っていたが魔道具使いってワケか」
「魔道具の中には強力な魔術と同等の力を発揮する物も多々ある。我々より早くここへ辿り着いたのも、あの峡谷を抜けられたのも頷けるというものです」
グリモとジリエルは納得したように頷いている。
ついでに言えばコニーの背負ったリュックには空間系統術式が込められており、中にはかなりの荷物が入っているだろう。
移動用の魔道具とかが入っているのだろうな。見てみたい。
「コニー君は優秀な魔道具職人での、その実績から試験の許可を出したのじゃよ」
「その節はどうも。しかし私みたいな魔力を持たない者が魔術科を受けてよかったのでしょうか?」
「何の問題もありはない。我が魔術科では純粋な魔力量よりも術式に対する理解を最重視しておる。魔術師というのはあらゆる知識、技術、そして術式を携え世界と繋がる者。魔力を持たずとも君のような優れた者は大歓迎じゃよ」
全く以てその通りだと俺は頷く。
魔術師というのは生涯を術式の理解に費やすといっても過言ではなく、そこに魔力の有無などは大した問題ではない。流石は学園長、良いことを言うな。
「……しかし最近の魔術師は戦いとなるや魔力でのゴリ押しが主流でのう。術式も破壊力に傾倒した単純なものを好むものが増えておる。我が学園の生徒たちにもそうした考えに共感する者が多くてな、ワシら教師としても憂いておるのじゃよ」
はぁ、とため息を吐くシドー。
戦闘中に複雑な術式を操るのはそこそこ手間がかかるからな。
ただ敵を倒したいだけなら攻撃重視の術式に大量の魔力を込めて攻撃した方が何倍も楽だろう。
俺からするとそんなつまらないことをして何が楽しいんだと言いたいが。
「ロイド様は魔力でのゴリ押しはしないっすからねぇ……一応」
「えぇ、結果的にそういった形になることは多々ありますが……」
グリモとジリエルが生暖かい視線を向けてくる。
折角実験したいのに勝手に相手が自滅することが多いからな。
もちろん加減はしているつもりだが、夢中になるとつい……というやつである。
「故にだ。コニー君は気に病むことなく魔術を学び給え。そうして新たな知識を蓄えて、魔術界に一石投じてくれるなら、ワシとしてはこれほど嬉しいことはないとも! ほっほっほ」
「……ありがとう。学園長」
真摯な表情で礼を言うコニー。今気づいたが、普段は何を考えているかわからないがコニーは魔術のこととなると真剣だ。つまりそれだけ魔術が好きなのだろう。
魔力がないのにあれだけの魔道具を作るには、相当術式に対する理解がなければ必要だ。
今まで生きてきた時間全てを費やしてきたのだろう。そうでもなければ辿り着けない境地、それほど魔術を愛しているのだ。
そんなコニーの気持ち、俺にはよくわかる。
前世の俺は金も才能もコネもなかったけど、魔術を極めるべく色々手を尽くしたものだ。
そういう意味ではコニーも辿り着いた場所が違うだけで、俺と似たようなものかもしれないな。
あとコニーが作っている魔道具も気になるし、親近感が湧いてきた。
「お互いこれから仲良くしようじゃないか。コニー」
「こちらこそ、よろしくロイド君」
コニーと握手を交わしているのを見て、シドーは微笑ましげに頷いている。
「ほっほっ、さっそく仲良くなれたようじゃの。うむうむ、仲良きことは美しきかな。ワシらの学生時代を思い出すのう。……そうじゃ、よかったら授業風景を見てゆくか?」
「いきます!」
俺とコニーは同時に声を上げる。
実を言うと試験だけでは物足りなかったのだ。
ここではどんな授業をやっているのだろう。どんな生徒がいるのだろう。楽しみだな。




