学園に通います
「ウィリアムというと……あのウィリアム総合学術園のことですか?」
「せや、よー知っとるやないの」
それはもう、知らいでか。
ウィリアム総合学術園と言えば世界最高峰の学び舎だ。
魔術の祖ウィリアム=ボルドーの設立した学園で、そこでは魔術のみならずあらゆる学術が日夜研究されている。
武術、占星術、航海術、薬術、工学術……それらのエキスパートと言える人材が世界各地から集まりしのぎを削っているのだ。もちろん魔術も然り。
まさに英知の集結点、学術の極みとも言える場所だ。
いつかは俺も、なんて考えていたがまさかこんな機会が来るとは。持つべきものは優秀な姉である。
「実はあの学園にはそれなりの額を出資しとってな。その繋がりもあって講演を頼まれたんよ。で、そん時に係の者と『いい生徒がおらんかなー』ちゅうをしてな。それやったらとアンタらを推薦したっちゅーワケや」
「ボクたちを、ですか……?」
レンが驚くのも無理はない。
ウィリアム学園に入学出来るのは国籍、人種、年齢を問わず、ただし非常に優れた者のみである。
いくら王侯貴族であっても十分な能力がなければ入ることは出来ないという由緒正しき学園なのだ。
「んむ、アンタらのことはウチの耳にもよー届いとるで。レンはかつては魔力異常分泌者と呼ばれながらも薬学に励み、高い見識から現在進行形で沢山の薬剤を発明しとる薬学界の若きホープと期待されとるらしいな」
「そ、そんな。ボクなんて……」
恥ずかしげに俯くレンだが、実際よくやっていると思う。
毒を撒き散らすノロワレ『毒蛾』などと蔑まれていた過去を持ちながらも、今は魔力制御の訓練を毎日欠かさず行い、毒を制御し薬までも生み出せるようになったのである。
俺がこっそりと発表の場を設けることでレンの研究はさらに練度を増している。
もちろん日々のメイド業務も怠ることなく、だ。
「レンはすごいよ。学園でも見劣りはしないだろう。俺が保証する」
「ロイド……」
俺の言葉にレンは頬を赤らめている。
レンが学園に行けば更なる成長が見込めるだろう。ひいては俺の力となる。通わせてくれるなら是非もない話だ。
「それにシルファ、アンタの剣術の腕はわざわざ言う必要はないな。けど世間ではイマイチ名が売れとらん。メイドに精を出してるせいやろうけども。由々しき事態や」
「私は全く構いませんが」
「ウチが構うねん。せっかく凄腕美女メイド剣士なんて濃ゆいキャラしとるんや、もっと上手く売り出せば、えぇ広告塔になれるのに……ホンマ勿体ないわ」
「は、はぁ……」
ビルギットがしみじみ頷くのを見てシルファはやや引いている。
「キャラ……ってどういう意味ですか? アルベルト兄さん」
「ビルギット姉上は新しい商品を売り出す際に、それに似合う人を並べて押し出しているのさ。イメージキャラクターというやつでね。人が使っている物を見たら欲しくなったりするだろう? それが好感度の高い人物なら尚更というわけだ」
「あぁ、よくわかりますアルベルト様。私もロイド様のお使いになっている物を見るとつい欲しくなってしまいますから」
「だろう? いやぁ僕もこの間ロイドが使っているのと同じデザインのティーカップを特注で作らせていてねぇ」
「言って下さればお持ちいたしますのに。ロイド様の品は観賞用、保存用、寄贈用に十セット常備していますよ」
「ふっ、コレクションというのは自力で調達してこそだよ。それにしても客の購買欲を最大限刺激する方法を熟知しているとは、流石はビルギット姉上と言ったところかな」
二人は何やら不気味な笑みを浮かべながらブツブツ言っている。
一体どうしたのかよくわからないが……これはいい機会かもしれない。
「やってみればいいんじゃないか? シルファ」
シルファの仕事が増えれば俺に構う時間も減るだろう。
そうすれば日課の剣術訓練も減り、俺もその分魔術の研究が出来るというものだ。
「ロイド様がそう仰るのでしたら」
「おう、しっかり無双してきいや!」
やや不満そうなシルファの背中をバシバシ叩くビルギット。
しばらくそうしていた後、さて、と小さく呟いて俺の方を向き直る。
「そして最後にロイド、アンタの噂が一番デカい」
「お、俺の噂……ですか?」
思わずドキッとして聞き返す。
あまりに目立ちすぎると自由にやれなくなるので、普通の魔術好きくらいの評価になるよう手は尽くしてきているけれども……ハラハラしながら次の言葉を待つ。
「んむ、魔剣の大量生産から始まり、魔獣討伐の際にアルベルト隊を救い、魔族に乗っ取られたロードスト領の奪回、暴走した教皇から教会を救い、隣国バートラム崩壊の危機をも一枚嚙んだらしいな。大暴走の時も大活躍やったらしいやん? 全く、まだ十歳とは到底思えん活躍っぷりやないか」
うーん、大体あってる。
一つ一つは大したことがなくても、積み重なると結構目立っている気がするぞ。
「いや、一つ一つも相当デケェと思いやすがね……」
「というかそれ以上のこともやっておられますよね。それもかなり……」
グリモとジリエルが呆れている。
いや、アルベルトやシルファに比べればそこまで凄いことではないと思うぞ。
「えぇ、本当にすごいんですよ。ロイドの挙げた功績は今の僕と大差ない程なのですから」
「全くです。ロイド様の行いは立派なものばかり。それに剣術指南をさせていただいておりますが、既に私に比肩しようという腕前です。きっと歴史に名を残す人物となるでしょう」
ビルギットの言葉にアルベルトとシルファは嬉しそうに何度も頷いている。
……しまった。身近にいる人物が規格外過ぎて、いまいち感覚がマヒしていたかもしれない。
若干ではあるがごく普通の魔術好きから逸脱しつつあるようだ。
うーむ、これからは今までより更に目立たないよう、立ち振舞いに気を使った方がよさそうだな。
「加えてサルームの頭脳、次期王位継承者第一候補との呼び声高いアルベルトや。まー誰も文句言わん程度には優秀やろ。アンタら四人がウィリアム学園に行くのに文句言う奴なんかおらんやろな」
「ちょ……お待ちくださいビルギット姉上、もしかして僕もウィリアム学園で学ぶのですか?」
大笑いするビルギットにアルベルトは問う。
「そう言うたつもりやけど?」
「し、しかし僕は政務を執り行わねばならない身です。そんな長期間、城を離れてしまっては……」
「心配は無用だぜ。アル兄」
扉を開けて中に入って来たのは褐色肌の第四王子、ディアンだ。
「あぁ、アルベルトのいない間は吾輩たちが仕事を代わろうではないか」
その後ろには恰幅の良い第三王子、ゼロフが佇んでいる。
二人は以前、巨大ゴーレムを作る際に世話になったのだが、とはいえアルベルトの代わりなんて務まるのだろうか。
そんなことを考えているとディアンが俺の頭を撫でてくる。
「そんな不安そうに見んなよロディ坊。俺たちだって一応王位継承権を持ってるんだ。それなりの教育は受けてるぜ」
「然り、そういうわけだアルベルト。政務に関しては吾輩たちに任せ、勉学に励んでくるといい」
「ディアン、ゼロフ……すまない。ありがとう」
アルベルトが目を潤ませるのを見て、二人は照れくさそうに笑う。
「へっ、いいってことよ! アル兄にはいつも世話になってるからな」
「うむ、たまにはこれくらいせねば罰が当たるというものだ」
まぁ何だかんだで二人は優秀だし、アルベルトの留守くらいはどうにかこなすだろう。
アルベルトも同じことを思っているようで、二人に頷いて返す。
「わかった。僕のいない間は二人に政務を任せる。ではビルギット姉上」
「んむ、そうと決まれば善は急げ、さっさと準備にとりかかりや! 出立は午後二時やからな」
「午後二時って……あと一時間ほどしかないですけど」
「つまりは駆け足ってことや。ほれ急ぎや!」
パンパンと手を叩きながら急かすビルギット。
全く、我が姉ながら自分勝手というかマイペースな人である。
「……」
グリモとジリエルが何やら無言で見つめてくるが一体どうしたのだろう。
まるで誰かさんそっくり、とでも言いたげな目だが……ま、気のせいか。
俺は気にせず準備を始めるのだった。




