前線を支援します。中編
「ロイド、聞こえるか」
魔力板からシュナイゼルの声が聞こえる。
「魔物が復活している。恐らく死霊魔術だろう。クルーゼ隊に加わり、倒した魔物をその都度焼いていけ」
「なるほど、クルーゼ姉さんの隊には魔術師が殆どいませんからね。わかりました」
魔術による炎は火矢とは比べものにならぬほど大きい。
肉体を焼き、その上で骨まで徹底的に破壊すれば復活はほぼ不可能だ。
流石シュナイゼル、アンデッド戦をよく理解している。
「お待ち下さいシュナイゼル様!」
通信に割って入ってきたのは、サイアスである。
「ロイド様の隊より、私の隊の方が魔術師の数は多いです。それ私自身も炎魔術にはかなり造詣が深いと自負しております。我々にお任せ下さいませ!」
「……貴様の名は?」
「サイアス=レビナントでございます」
そういえばサイアスの名を初めて聞いたな。レビナントと言えば有名な炎魔術師の家系だ。
代々高名な魔術師を輩出している名家は魔術師同士の血を掛け合わせ、より高純度の魔術を生み出す。
血統魔術、レビナント家のそれは特にすごいと有名である。サイアスと同行すれば見る機会もあるかもしれないな。
「シュナイゼル兄さん、俺からもお願いします」
「ふむ……ロイドがそこまで言うのならば――」
シュナイゼルは少し考え、頷いた。
「……よかろう。二人とも少数を引き連れて門へ向かえ」
「ハッ! ありがたき幸せ!」
仰々しく敬礼をするサイアス。
よし、これでレビナント家の血統魔術を見られるかもしれないぞ。
すぐに準備をすべく自分の隊に戻っていく。
「口添えに感謝はする。しかし君には負けぬぞ」
俺の横を通る際、サイアスはそう呟いた。
「あぁ、俺も期待しているぞ!」
血統魔術、見せてくれるといいなぁ。うーん、ワクワクしてきたぞ。
「っ! ……ふん」
苛立った様子で自分の隊に戻るサイアス。よくわからんがやる気はありそうだし、別に良いか。
◇
すぐに隊の編成は終わり、俺たちは門へと向かう。
サイアスは魔術師を中心とした隊で、二千はいるように見える。
少数と言われていたのに、かなり連れてきたな。
「ふっ、貴重な魔術兵を守るにはこれくらいの数は必要なのだよ。こっちの心配よりも、君の方は大丈夫なのかね? 魔術兵が見当たらないようだが……」
「見た目でわかるような格好をしてないだけだよ」
……なんて言ってるが、実際には魔術師は俺だけだ。
未だ魔力兵の維持にかなりの力を割いているが、先日術式を改善したので少しはマシになっている。
シュナイゼルから見せてもらった軍事魔術には術式を単純化する方法が幾つかあり、俺からするとまさに目から鱗だった。
それを参考に魔力消費を半分近くまで軽減できて、そのおかげで俺もまぁまぁ戦えるくらいには力が戻ったのである。
ちなみに俺が連れてきたのは魔力兵を含む五百のみ。
毒霧があって乱戦に強いレン、山賊十数人とそれを取りまとめるビルス、あとはクルーゼを見たいと言ってタオがついてきた。
ったく物見遊山じゃないんだぞ。
「そう言ってロイド様もすげぇワクワクしてるじゃねーですか」
「……バレた?」
「顔を見れば誰でも分かります。……というか近くで見ると何とも大きな門ですね」
そうこう言ってるうちに門の近くまで辿り着いた。
門は見上げる程に大きく、その向こうからは戦闘音が聞こえていた。
そうしていると付近に待機していた兵に声をかけられる。
「おお、ロイド様にサイアス様ですね。我々は第二部隊の者です。話は伝令から聞いています。倒した魔物の死体を焼却して下さるとか」
「あぁ、我らに任せておけば間違いはない。大船に乗ったつもりでいるのだな」
「それはありがたい。我々は護衛と先導を務めますので、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
「では門を開きます。少しお待ちを」
兵が目配せすると、門の開閉係が車輪を回し始める。
ごごご、と鈍い音を立てながら門が開いていく。
「では行きましょう。私たちについて来てください!」
門が開くと同時に兵たちは馬で駆け出す。
俺たちもそれに続いた。
「者ども遅れるな!」
サイアスは張り切って馬を走らせる。
俺たちはその少し後ろをゆっくりとついていく。
「ねぇロイド、遅れちゃってるけど大丈夫なの?」
レンが不安そうに聞くのを見て、ビルスがクックッと笑う。
「心配すんなよチビッコ」
「誰がチビッコよ!」
「ほれ、あれを見てみな」
ビルスの視線の先、サイアス隊が魔物と戦っているのが見える。
「奴ら、先頭と近すぎるから、巻き込まれて無駄な戦いを強いられてるだろ。こっちは小勢なんだ。役目を確実にこなすべきだろうぜ。大将はその辺よーくわかってやがる」
「そ、そうだったんだ……流石はロイドだね」
そうだったのか。全く気にしていなかった。
レンのキラキラした視線が痛い。
ともあれ俺たちはクルーゼ達が暴れた場所に辿り着く。
そこには魔物の自体がゴロゴロしており、死臭が立ち込めていた。
「さぁ皆様、よろしくお願いします」
「任せるがいい。ロイド君、こっちは私が受け持つから、君はそちらをやってくれたまえ。遅れるなよ?」
サイアスはそう言うと、魔術兵を連れて死体の山に向かっていく。
五人一組で魔物の周囲を取り囲み、呪文を唱えると激しい炎が立ち昇る。
あれは『火球』を五重詠唱しているんだな。
詠唱が短い下位魔術なら五人でも合わせやすいし、消費魔力も少ないから一人一人の負担も軽いというわけだ。
なるほど、流石学園のエリート卒。よく考えるものだ。
やはり人が魔術を使うのを見るのも勉強になって楽しいな。
「おいおい、向こうは手早くやってるぜ? こっちの魔術師は大将一人だけなんだろ? 大丈夫なのかァ?」
「ん、あぁもう終わったよ」
既にこちらも『火球』で魔物を焼き終えている。
でないとゆっくり見学出来ないからな。
「んな馬鹿な……あれだけの魔物を一瞬で焼き尽くしたってーのか? ちょっと目ェ離しただけなんだが……これがあの第七王子かよ。流石兄貴が付いていくと決めただけはあるぜ」
「ふふん、これがロイドの実力だよ。恐れ入った?」
何故かレンが得意げになっているのを見て、ビルスは呆れたようにため息を吐く。
しかし……うーん、完全に燃き尽くすつもりだったけど骨が残っちゃったな。
大分改善したつもりだったけど、もっと余地はあるな。道中また術式を再構築するか。
いつも読んで下さりありがとうございます。
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