大陸門へ着きました
そんなわけで、マルス率いる山賊たちが俺の隊に加わった。
「私はあくまで参謀として参加いたします。ロイド様の命令でなければ兵たちも動かないでしょうからね」
「ふむ、妥当なところかもしれないが……」
元帝国軍師とはいえ、山賊だったマルスが直接命令しても、誰も聞かないだろう。
でもそれだと当初の目的である俺が自由に動き回れ……じゃなくて戦場を隅々まで見回りながら、迅速に指示を出すというのが出来ないんだよなぁ。
どうしたものかと考えていると、シルファが前に出る。
「ではこういうのはどうでしょう? 私がこの男について行き、代わりに指示を出すというのは。皆も私の命であれば素直に従うでしょうし、しくじれば斬り捨てればいいだけです」
おいおい、そりゃあちょっと物騒すぎないか?
俺がドン引きしていると、マルスが頷く。
「それはいい考えです。そこまでしなければ私などの言葉は届かないでしょうからね」
いいのかよ。と内心つっ込む。
二人とも口元に笑みを浮かべてはいるが、目は笑ってない。
「やれやれ、相変わらず物騒な女ね」
「あなたは……来ていたのですか」
ひょっこり顔を出すタオを見て、シルファは少し驚いた顔をした。
「ふふーん、ロイドがピンチだったからね。ちゃーんとアタシが助けたよ。感謝すると良いある♪」
得意げに胸を張るタオを見て、シルファはふぅとため息を吐く。
「……そうですね。感謝します」
「あら、ずいぶん素直ね」
シルファの言葉に今度はタオが目を丸くした。
「えぇ、よくぞ来てくれました。本当にありがとうございました」
「な、なんかそこまで言われると照れるあるなー」
深々と頭を下げられ、タオは顔を赤くしている。
いつも喧嘩してばかりのこの二人が素直だ。珍しいものを見て皆も驚いている。
「枯木にも花の賑わい。いないよりはマシだと言っただけです。照れないで下さい。気持ち悪い」
「のあっ!? こ、この性悪メイドー!」
と思ったらすぐにいつもの二人となった。
ま、喧嘩するほど仲がいいって感じなのかもしれない。
こうしてタオと山賊たちを加えた俺たちは、大陸門へと向かった。
◇
道中は問題なく進み、半日ほどしてようやく辿り着く。
「おおー、ここが大陸門か」
話には聞いていたが、相当デカいな。
山と山の間をくり抜くようにして出来た巨大な門。
その大きさは尋常ではなく、そこにいる兵士たちがまるで豆粒のようだ。
門に近づくにつれ、兵士たちが増えてくる。
「やぁ、来たようだね。ロイド」
兵士たちを割ってアルベルトが声をかけてきた。
「遅くなりました。アルベルト兄さん」
「なに、サイアスたちも今着いたところさ」
アルベルトの横にいたサイアスがふんと鼻を鳴らす。
「我らより先んじていたにも関わらず、遅い到着だったね」
「あぁ、隊の増強をしていたんだよ。ほら、結構増えた」
俺が後方に続く山賊たちへと目をやると、サイアスはそれを見て鼻で笑った。
「……ふっ、戦力増強というから何かと思えば山賊が少々増えただけではないか。笑わせてくれる」
マルスがアルベルトの前に進み出ると、恭しく礼をした。
「サルーム第二王子アルベルト様でございますね。この度、ロイド様の隊の末席に加えさせて頂きました。マルスと申します。以後お見知り置きを」
「君は……もしや帝国最強の軍師マルス=ビルギットなのか!?何故こんなところに……?」
マルスを見てアルベルトは驚いている。
「昔の話です。帝国を追われた私は弟と山で暮らしていたのですが、気づけば大所帯となり恥ずかしながら山賊などと呼ばれておりまして。……この度はロイド様の心意気に感服し、同行することになったのです」
「おお……あのマルス殿が軍師として働いてくれるなら千人力だ! ロイドをよろしく頼む!」
アルベルトと握手するマルスを見て、サイアスはあんぐりと口を開けている。
「あの軍神と謳われたマルスが何故ロイドの元へ!? しかもよく見ればあの山賊たち、三千はいるのではないか!? となるもロイドの兵は我らの倍ということに……信じられん……どんな悪夢なのだ一体……?」
茫然自失といった顔でブツブツ言い始まるサイアス。一体どうしたんだろうか。
「ともあれロイド、力強い味方を揃えたようだな。先行した物見によると、魔物どもは明日の早朝には門に来るようだ。今日はここで兵たちと共にゆっくり身体を休めるといい」
「はいアルベルト兄さん」
「うん、では明日な」
アルベルトに別れを告げ、俺たちは天幕を貼り始める。
作業を行うのは魔力兵だし、貼り終えたら外で待機させておけばいいので皆スペースを広々使えていた。
「ふー、一息ついたな」
俺は魔力兵を入り口に立たせ、用意したベッドに横たわる。
流石にこれだけの魔力兵を操作するのは疲れるな。
だが皆の操作技術もかなり熟練してきた。
しかも各々の操作方法が微妙に異なっており、その差異を見比べるのもまた面白い。
今は術式に記録しておいたログを漁っている。
ふむふむ、一言に魔力操作と言っても色んなアプローチがあるものだな。参考になるなー。
「ロイド様、失礼いたします」
「……ます」
いきなりの声に振り返ると、そこにはシルファとレンがいた。
「シルファ、それにレンまでどうしたんだ?」
「本日は色々とお疲れでしたでしょう。汗をお流ししようと思いまして」
「来ました。……着替えて」
よく見れば二人は水着姿になっている。
レースが付いているので気づかなかったな。
「いや、どう考えても気づくでしょう……」
「……ッ!……ッ!」
呆れるグリモと鼻血を流しながらビクンビクン痙攣しているジリエル。
一体どうしたのだろうか。
「湯浴みの用意はこちらに。それではお身体失礼致します」
「じ、じゃあボクは背中を……」
では俺は途中やめになっていた魔力兵の操作改善を再開するか。
二人に身体を洗われながら、俺はより使い易くなるよう術式を弄るのだった。
いつも読んで下さりありがとうございます。
原作本三巻、コミック四巻発売中です。原作コミック共に結構大きな差異があり、とても楽しめると思います。
続刊の為にも協力していただければ幸いです。よろしくお願いします。




