まずは兵士を作ります
というわけで、俺は早速自室に戻ってきた。
「一体何しに戻ってきたんですかい? ロイド様」
「兵たちに声掛けをし、部隊を編成せねばならないのではないのですか?」
「あぁ、ちょっとやってみたいことがあってね」
人の命を預かり、戦うのは気が引ける。
だったらその兵を自前で作ってしまえば問題はない。
「■■■――」
呪文束による高速詠唱を終えると、地面に描かれた魔法陣から影が生まれ、それが立ち上がり人の形となる。
「ほう、『影形代』ですかい。確かにそれなら兵の代わりとして使えそうだ」
幻想系統魔術『影形代』は、魔力を固めて人形を作るというものだ。
他の『形代』は素材が必要な代わりに外見が精巧だったり身体性能が高いのだが、今回はただの兵士だし魔力のみで作り出す『影形代』で十分。
簡単な動作しか出来ないがホムンクルスに比べれば圧倒的に手軽である。
「しかしロイド様、影人形では兵士たちが行うような高度な戦闘など出来ないでしょう。いかがなさるおつもりですか?」
ジリエルの言う通り、影人形に人間の真似事をさせるのは難しい。
例えば突撃という命令一つ取ってみても人間ならばその意図を汲み取って戦ってくれるが、影人形たちは言葉通りただ突撃するだけで終わってしまう。
歩調も合わせず、武器も使えず、ただただ突進するだけ。……これはこれで使い道はあるのだろうが、兵士としての働きはとても望めない。
もちろん、対策は考えているけどね。
「例えば、こんな感じだ」
魔力を紐状に伸ばして影人形の頭部に接続、動くように念じてみる。
すると影人形は俺の考えた通り、背筋を伸ばし屈伸運動を始めた。
「オン!」
傍にいた魔獣、シロが吠える。
そう、これはシロに命令を出す時と同じ技。
自身と使い魔を魔力紐で繋ぐことで思う通りに命令を出せるのだ。
「なるほど、これなら細かな指令も出せるってわけですな。ロイド様の魔力なら、『影人形』くれぇいくらでも作れるだろうしよ」
「いくらでもは無理だな。コントロール出来るのはせいぜい一万くらいだよ」
以前、どれだけ影人形を出せるのか試した事があるが、流石に一万を超えると行動にエラーが生まれやすくなる。
「い、一万も出せるんですかい……」
「他の魔術と比べても魔力消費が桁違いに大きい『影形代』を一万、しかもこれだけの精密操作出来るとは……流石としか言いようがありません」
とはいえこれらの操作は半分オートで行っているので、俺への負担はそこまででもない。
これらの制御魔術は以前ゴーレムの研究をしていたおかげである。
魔術というのは、今まで経験したことが結構生きてくるものなのだ。
「武器はどうするんですかい? 手ぶらってわけにもいかないでしょう」
「それも神聖魔術を使えば問題ないよ」
神聖魔術には魔力を物質化し、武器とするものが幾つかある。
これなら普通の兵と変わらない活躍が出来るはずだ。
「ただ影人形たちは俺から離れ過ぎると命令を受け付けなくなる。俺以外にも命令を下せるように術式を組まないとな」
「そこでようやく、普通の兵たちの出番というわけですね」
そう、影人形を指令するのはあくまで兵たちだ。
俺一人では戦場を見渡し切れないからな。
これなら安全に戦える。
「先日の会議で聞いた軍事魔術の中に、魔術の制御を術者ではなく他人に委ねる『委任』というものがあった。『影形代』の術式に組み込めば、俺の魔力で誰でも影人形を動かすことが出来るってわけさ」
術式展開と念じると、『影人』の術式が俺の眼前に開かれる。
魔術言語で書かれたコードを読み込んでいくと、目的の箇所を見つけた。
こことあそこを改竄して……と。よし、書き換え完了だ。
だがそれで終わりではない。
書き換え箇所は他の部位にもかかっており、一箇所だけ直しても術式全体で矛盾が生じるのだ。
故に、すべてを見直さなければならないのである。
目を皿のようにして術式を一から見直していく。ここもだな。あぁ、こっちもだ。そこも、あそこも。
術式を弄るのは楽しいが、大変な上に地味なんだよな。結構な改変だし、こりゃ時間がかかりそうだ。
「ふー、終わった終わった」
結局、作業は夜まで続いた。思わず夢中になっちゃったな。
グリモとジリエルもすっかり寝入っている。
「うや……出来たんですかい?」
と思ったら起きてきた。眠そうに目をこすっている。
「あぁ、ちょっと試してみてくれ。グリモ」
「わかりやした」
グリモを対象に、新たに組んだ術式を発動させる。
神聖魔術で武装した影人形――いや、魔力兵と呼ぶべきだな。それが三体出現し、各々から魔力紐を出してグリモの頭を繋いだ。
「うおっ! 視界が重なってやがる。身体が増えたような妙な感覚だぜ……」
「慣れればいけるはずだ。やってみてくれ」
「こんな感じ……っすかね? はっ、ほっ」
グリモの命令で、兵士たちが手にした武器を振っている。
ふむ、動作に問題はなさそうだな。
「ロイド様、私にもやらせて下さいませ」
「いいぞ」
いつの間にか起きていたジリエルにも同様に三体の魔力兵を与える。
「ありがとうございます。……さて魔人よ、ここは一つ、勝負といこうではないか」
「ハッ、おもしれぇじゃねぇか。天使風情が俺様と勝負になるとでも?」
「それは私のセリフだ! うおおおお!」
二人は魔力兵を使い、打ち合い始める。
やはり実戦形式の方が分かりやすいな。うん。
魔力兵による戦闘はほぼ互角、その動きも普通の兵士と比べても遜色ないように見える。
「どうだ? 使えそうか?」
「こりゃすげぇぜロイド様! 兵たちを手足のように動かせてらぁ!」
「えぇ、これなら何の知識もない者でも魔力兵を操れるでしょう」
二人の太鼓判も貰った事だし、とりあえずは完成と言ったところか。
細かい制御は後であるとしよう。
「つーかロイド様、この話は兵たちにしなくていいんですかい?」
「いっけね、完全に忘れてたな」
今頃兵たちはアルベルトの言う通り、傭兵の募集をしているところだろう。
魔力兵があれば必要ないものな。
ま、明日にでも話に行くとするか。
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