副官に任命されました
その日、軍議は夜通し行われたらしい。
らしいというのは、俺は夜になるとシルファに強制的に退室させられてしまったからだ。「ロイド様は育ち盛りなので、夜更かしせずに早く寝て下さい」と言われて、渋々その場を去ったのである。
……一応『聞耳』の魔術を残し、続きの会話も聞いていたのだが、夜が更けると流石に寝落ちしてしまった。
もう少し術式を弄る必要があるな。その場の会話をずっと溜めておける的な。……うん、、
今度術式を組んでおこう。
そんなことを考えながら歩いていると、会議室の扉が開き中から将軍たちがゾロゾロと出てきた。
皆、疲れ切った顔をしている。もしかして今までやっていたのだろうか。
「ふあぁぁぁぁ……やぁ、ロイド。おはよう」
「お疲れ様ですアルベルト兄さん、軍議は終わったのですか?」
「あぁ、何とかね。しかしまさかあんな手を考えるとは……流石だよシュナイゼル兄上は」
どうやら俺が帰った後、シュナイゼルがいい手を考えたらしい。
ますます気になるな。残念だ。
「ははは、聞きたそうな顔をしているな。安心するといい。そのうちロイドの耳にも入るだろうさ」
「俺に、ですか……?」
アルベルトが意味ありげに笑っているが、完全に部外者の俺にそんな話が降りてくるとは思えないのだが。
「おっと少し喋りすぎたかな。この話は内密に頼むよ。実は僕もそこそこ大きな隊を任されていてね。部隊の編成やら何やらで忙しいんだ。悪いがこの辺りで失礼させてもらおう。ではまた」
「は、はぁ……」
アルベルトはそう言うと、慌ただしく去って行く。
「なんだぁ嫌味かよ? 自分は部隊を任されるほどだ、とでも言いたかったのかぁ?」
「アルベルト兄さんはそんなことは言わないよ。既に魔剣部隊を持っているしね。もっと大きな部隊を任されても不思議じゃない」
「確かに王子である彼が部隊を率いるのはかなりの非常事態でしょう。それに嫌味というにはどこか意味ありげでした」
とはいえ考えても答えが出るわけでもない。
俺は首を傾げつつも、普段の生活に戻るのだった。
◇
「ロイドよ。おぬしをアルベルト隊の副官に任命する」
その答えがわかったのは、わずか一時間後のことだった。
玉座の間に呼び出された俺に、父王チャールズがそう言ったのだ。
「い、一体どういうことですか!? 父上!?」
チャールズの言葉に俺は思わず聞き返す。
「耳を疑うのも無理はない。じゃが今回の大暴走、我がサルームの有能な人材を出し惜しみする余裕はないのじゃ。第七王子であり、しかも子供のロイドにこんなことをやらせるのは本当に心が痛む。しかし本当に手が足りなくてのう。好きに生きろと言っておいて虫のいい話じゃが、おぬしの力を借してくれるか?」
チャールズは神妙な面持ちだ。
……なるほど、アルベルトが言ってたのはこれだったのか。アルベルトは俺の方を見て意味ありげにウインクをしてくる。俺は少し考えて言葉を返す。
「しかし、自分のような子供が副官なんて……アルベルト兄さんやシュナイゼル兄さんの足手まといにはならないでしょうか? 他の人たちも認めるとは思えませんが……」
「何を言う。ロイドを副官にと言ってきたのはそのシュナイゼルじゃぞ。余程お主を見込んでいなければ、そうは言うまい。……正直言ってワシも驚いたがな」
「本当なのですか?」
「うむ、総大将であるシュナイゼルの言葉じゃ。文句を言う者などいようはずもあるまい」
「そう、ですか……」
気づけば俺の手は、小刻みに震えていた。
それを見たチャールズやアルベルトが、目を細めている。
「震えておる、か。無理もない。まだロイドは十歳。軍を率いて戦いに出るには早すぎる。ワシでさえ初陣は十五の頃じゃからの。だがこれは真の王を目指すお前にはもってこいの試練、その為ならワシも心を鬼にしよう。頑張るのじゃロイド、お前なら必ず結果を出せるであろう」
「すまないロイド、僕にはシュナイゼル兄上を止められなかった……いや、それは言い訳だな。僕もロイドがどれだけ成長をしたのか、見たくなってしまったんだ。怖いだろう。恐ろしいだろう。だがお前ならきっとやってくれると僕は信じているよ」
二人が何やらブツブツ言っているが、俺は顔を伏せ口元がニヤつくのを抑えるので必死だった。
大暴走……魔物が百万はいるとか言ってたっけ。
つまりいくらでも魔術を使いまくれるってわけだ。
しかも副官ともなれば、秘匿とされている軍事魔術も好きに閲覧出来るだろう。
新しい軍事魔術を覚えて、大量の魔物相手に実験出来て、また改良して、また実験して……無限ループできるじゃないか。うーん、素晴らしい。
アルベルトの下なら割と好き勝手出来そうだし、副官でなくても一兵卒としてでも参加したかったくらいである。
俺はそのまま、頭を下げた。
「謹んでお受けいたします」
「おおっ! やってくれるか!」
チャールズが嬉しそうに声を上げるか、多分俺の方が嬉しい。
「引き受けてくれてありがとう、ロイド。それでは早速、作戦会議と行こうか」
「はいっ!」
俺はアルベルトと共に、玉座の間を出るのだった。
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