第一王子と遊びます
「門前に兵をこう……並べて配置すればどうか」
「駄目だ駄目だ。そんな柔な陣形ではあっという間に破られてしまうぞ」
「然り然り、それより門に立て籠もればよいだろう。門には永久硬化の付与魔術がかけられている。魔物など、どれだけいようと突破はできまい!」
「甘いな。奴らは死体の山を駆け上り、門を越えてくるだろう。やはり門の前にも兵を置くべきだ」
「馬鹿な! それでは門を守る兵力が足りん! どれだけの魔物がいると思っているんだ!」
「そうだ! あの数では門の両脇にある山からも越えてくるだろう。とても守り切れんぞ!」
喧々囂々と意見が飛び交っている。
おおー、軍議って感じ。盛り上がってるなー。
地図の上に並べられた兵士と魔物を表した駒が、あちらこちらを行ったり来たりしている。
会議は既に三時間を超えており、将軍たちは疲労の色が見え隠れしていた。
「はぁー、一体何時間やる気なんですかねぇ。そろそろ眠くなってきたぜ……」
「私も頭が痛くなってきました。よくついていけますね、ロイド様……」
グリモとジリエルは疲れた様子だが、俺はそんなことは全くない。
「何言ってんだ二人とも。こんな面白い話を聞く機会は中々ないぞ」
軍事魔術は普通の魔術とは毛色が異なる。
それらは基本的に秘匿されており、殆ど書物化はされていなかったので今までは推測しか出来なかったのだ。
だがそんな軍事魔術も軍議ではバンバン飛び交っているので、使われる術式も大分考察しやすい。
ふむふむなるほど、回数制限を使って威力を上げたり、逆に威力を低くすることで効果範囲を広げたり、誰でも使えるように術式を極限まで簡略化しているんだな。
あそこまで術式を圧縮、簡略化すればどんなに才能がない者でもすぐに使えるようになるだろう。
誰にでも魔術が使えるようにすれば、魔術師が増えてその裾野が広がり、ひいては頂点に立つ魔術師のレベルも上がるというメリットもある。
魔術を全く知らぬ者だからこそ生まれる柔軟な発想により新しい魔術もどんどん生まれるだろう。
そうして改良が続いていけば、魔術師全体のレベルアップに繋がり、ひいては俺もより多種多様な魔術を知る機会が出来るかもしれない。
「しかしロイドの奴、大人しくじっと聞いておるのう。もしやこの会議の内容を理解しておるのだろうか」
「ロイドはとても賢い子ですからね。それに恐らく軍議に出たかった理由は軍事魔術でしょう。これらは簡単な割に効果が高く、それ故に秘匿とされているものが多いですから。ロイド程の魔術師であればすぐに使えるようになるでしょう」
「馬鹿を言うなアルベルト! 軍事魔術は確かに通常のものよりかなり簡単だと聞いてはいるが、それでも優秀な魔術兵が何か月もかけて覚えるのじゃぞ!? すぐに使えるなどと出鱈目を言うでない!」
「ふっ、それがロイドなのですよ。姉上。出鱈目な奴なのです」
クルーゼとアルベルトがブツブツ言っているようだが、俺は軍議に夢中である。
「それにしてもよぉ、あの鋭い目付きの兄君は無言のままですな」
「えぇ、瞬き一つせずに盤上を睨んだままです。何とも恐ろしい……」
シュナイゼルが目の前に置いているのは兵棋という卓上遊戯の盤である。
その駒を敵軍と自軍に見立て配置しているようで、それをじっと睨みつけている。
それにしてもさっきから意見が行き詰まっている気がする。
意見も出し尽くしたのだろう。俺としても新しい軍事魔術が出て欲しい所なんだが……ん?
気づけばその場の皆が、シュナイゼルに注目していることに気づく。
どうやら皆、総大将の決断を待っているようだな。
ふむ、俺も気になってきたぞ。
「あのー、シュナイゼル兄さん。どうやって大暴走を防ぐつもりなのですか?」
というわけでこっそり話しかけてみる。
シュナイゼルはジロリと俺を睨めつけると、少し考えて駒を動かした。
「おおっ、結構偏った陣形ですね。まるで山に誘い出すような。敵はこんな感じで動くでしょうか」
「……」
俺もまた、駒を動かしてみる。
するとシュナイゼルもまた駒を動かす。
二人して交互に駒を操作し、気づけば俺の操作していた魔物側は詰まされていた。
「あちゃ、やられちゃいました。流石ですねシュナイゼル兄さん」
「本来の戦はこう綺麗には決まらん」
「あはは、精進します」
うーん、流石はシュナイゼル、サルーム最強の将軍と言われるだけあってめちゃくちゃ強い。
実は俺は前世でそれなりに兵棋をやりこんでいて、賞金目当てに大会に出たりもしていたのだが、完全に遊ばれたって感じだな。
とはいえブランクも大きいし、こうして転生してから流行る機会もなかったから、負けても仕方ないか。
「集中しているシュナイゼル様に怯まず声をかけ、あまつさえ兵棋による勝負を仕掛けるとは……ロイド様は恐ろしくないのだろうか。私など未だにあの目に睨まれただけで、身体が竦んでしまうというのに……」
「しかも兵棋でシュナイゼル様にあそこまで食い下がった者はそういないぞ。あの駒の動かし方、布石の打ち方、とても十歳の子供とは思えぬ。流石はアルベルト様の懐刀と呼ばれるだけはあるな」
「ただの子供をシュナイゼル様が軍議に残すはずがないとは思っていたが、ここまでとは……」
将軍たちが何やらブツブツ言っている。
しまったな。俺がいきなりシュナイゼルと遊び始めたから、怒っているのかもしれない。
「くっ、ロイドとあんなに楽しそうに遊ぶなんて、羨ましいですよ。シュナイゼル兄上……」
ついでにアルベルトからの熱い感情の込められた視線も感じる。
やはり勝手をしたから怒っているのだろう。反省反省。
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原作本、コミック共に三巻発売です。
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