巨大ゴーレムとバトルします。後々編
――祭壇とは、大小無数の魔術陣と多数の触媒、定められた手順、数十人規模の魔術師部隊、時には贄を用いて大規模魔術を発動させる『場』である。
古くから神殿や王墓など、魔術的に優れた形状の建築物として存在しており、歴史の転換期にはこれらの祭壇を用いて様々な儀式が行われてきた。
それが大規模魔術、これは個人で扱う範疇を大きく越えており、祭壇を使い、数人の魔術師の手によって発動されるのものだ。
もちろんそんな楽しそうなものに俺が興味を持たないはずもなく、以前からずっと試したいと思っていたのだが、それを行う為の手段がなかったのである。
俺の思い通りに動いてくれる何十人もの魔術師も、好きに使える広い場所も、魔術器具も、大規模魔術を試し撃ちする場所も。
だから俺はディガーディア本体に祭壇のシステムを埋め込む事にした。
竜を模した機体の形状にも、隅々まで書き込んだ術式にも、一見無意味に思える全てに意味はある。
加えて両掌に搭載した音響機が、予め込めておいた長々時間詠唱呪文を読み上げている。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――――――――――」
自動再生された呪文束は収束し、俺の両手へと集まってくる。
「そして細部を俺様と――」
「私が補佐する」
グリモとジリエルの手によって更に練り上げられた魔力束は螺旋を描き、唸りを上げながら俺《術者》の元に集まってくる。
……凄まじいまでの魔力量。普段の俺の使う魔力量を1とするなら、1000は軽く超えているだろうか。
まさに桁が違う。
これが魔術師数十人で使う大規模魔術か。面白いじゃないか、うん。うん。
「く、くそっ! 外れない……っ!」
懸命にもがくタルタロスだが、微動だにしていない。
現在、タルタロスの動きを封じているのは地系統大規模魔術『重縛陣』。
砂、沼、樹――地系統の中でもとりわけ捕縛効果の高い要素を重ねた結界だ。
伸びた蔦がタルタロスを捕らえ、岩盤を砕いて底無し沼と化した大地に飲み込んでいく。
「げへへ、無駄無駄ぁ! 巨人の軍勢すらも絡め取る大規模魔術だぜ?」
「その通りです。高々ゴーレム風情に逃げ出す手段はありません!」
何故か勝ち誇っているグリモとジリエル。
「こんなもので……僕のタルタロスが……ぐっ、負けて、たまるかぁぁぁぁっ!」
イドの叫びに応えるようにタルタロスの装甲が開き、ブースターが火を噴く。
ぐらぐらと機体を揺らしながらも蔦を引きちぎりながら、上昇していく。
「おおっ、すごいパワーだな! だったらこれはどう対応する?」
チューナーを回して術式切り替える。
雷系統大規模魔術『黒王雷』。
漆黒の雷が天より降り注ぎ、タルタロスを焼く。
「が、ぁ……!?」
蔦ごと焼き払われながら、堕ちていくタルタロス。
風と火の二重詠唱でしか発動出来ない雷系統大規模魔術だが、その中でもこの『黒雷』は威力に特化したもので凝縮した炎は大気すらも焼き焦がす。
故に、黒き雷。
「どんどんいくぞ。『風神威』」
かつて大陸の外より攻めて来た船団を沈めたと伝えられる大規模魔術。
瞬く間に生まれた嵐がタルタロスを飲み込み、渦中の木の葉のように錐揉み回転させていく。
「更に……『水穿龍』」
上空高くまで持ち上げられていたタルタロス、その真上に集めた水塊が一気に降り注ぐ。
滝のように流れ落ちる大量の水は遠目から見ると空から降る龍の如くだ。
轟音と共に地面に叩きつけられたタルタロスは、地面に大穴を穿つ。
「こいつはとんでもねぇな……大規模魔術はそれ自体が戦略級の破壊力を持つもんだが、並みの魔術師を集めてもここまでの威力はでやしねぇぜ」
「まさに天災、我らが主神の起こす神の奇跡にも近しき力です。流石と言う他ありませんね」
二人が感心している中、穴の淵が崩れ落ちる。
その隙間からタルタロスが登ってくるのが見えた。
なんと、あれだけの攻撃を受けてまだ壊れてないのか。素晴らしい。
「ぐ……ぅぅ……っ! ま、まだだ……まだ僕は……!」
苦悶の声を漏らしながらも立ち上がり、構えるタルタロス。
いいねいいね、楽しいね。
折角大規模魔術が使えるのだし、もっといろいろ試してみたい。どんどんあがいてくれて結構だ。
「じゃあもう少し強めでいくよ――」
術式を切り替え、ギアを更に一段上げる。
音響機から発する呪文の密度が上昇し、機体が悲鳴を上げ始めた。
「ぐ、ぐおっ!? 一気に負荷がかかってきやがった!? なんちゅう密度の呪文束だ! 纏めるだけでギリギリだぜ……っ!?」
「片手分だけでも凄まじい質量だ……くっ、しかし魔人如きに出来てこの私に出来ぬはずがありません……っ!」
二人がブツブツ言いながらも練り上げた魔力は、はち切れんばかりに膨れ上がり、俺へと流れ込んでくる。
その膨大な魔力を数万を超える術式にて効率よく整え、流し、圧縮し、紡ぎ上げていく。
まるで大河のような魔力流量、それを一点に集める。
うっ、流石に重いな。少しでも気を抜くと持っていかれそうだ。
だがこれだけの魔力を使った大規模魔術、どんな凄いことが起こるのだろう。
期待に胸を高鳴らせながら練り上げた超々大術式が、成る。
「星系統大規模魔術『天星衝』」
――轟、と空が唸る。
黒雲立ち込める空にいつの間にか朱の色が差していた。
それは徐々に明るさを増していき、次第に熱量を放ち始める。
「な――」
イドの間の抜けた声が漏れる。
空を見上げるタルタロスの視線の先には煌々と光る紅い球体が見えていた。
「な、なんだこりゃあ!? ロイド様、一体何をしたんですかい!?」
「この魔術……まさか伝承にある星堕としですか?」
今、空から落ちてきているのはここより遥か上空を漂う星の一つ。
その星を超高々度から燃え尽きながら落下させ、敵に直撃させるのがこの『天星衝』だ。
かつてその一撃が国を滅ぼしたと伝えられている赤き星が、もうそこまで見えていた。
「ご、五重結界っ!」
タルタロスの上方に分厚い物理結界が生まれるが、それは触れた瞬間に砕け散り、一秒すらも落下速度は緩めることは出来ない。
――そして、光が地に接した。