鏡の男
鏡にうつる男がほほえみ こんにちはと挨拶をする
僕は返事もなしに顔を洗って ちらりとそいつに視線を投げる
したたり落ちる無害な筋は 涙なのか水なのか
その男の顔はほほえんだまま 1㎜の狂いもない
おまえはどうして笑っているのだ この日もあの日も同じ顔で
おまえはどうして付きまとうのだ 僕には何の力もないのに
僕の疑問に男が答える 俺と君は同じなのだと
いつの日か おまえは本当の涙を流すだろう
僕の世界に色がつき 温かな吐息が満ち満ちるときに
いつの日か おまえも消えてしまうだろう
そのほほえみにゆがみが起きて 道化の仮面がはがれるときに
鏡のなかで男が手招き いい天気ですねと挨拶をする
僕は窓を開けて空を眺め 落ちくる雨を顔で受ける
したたり落ちる無害な筋は 涙なのか水なのか
その男の顔はほほえんだまま 1㎜の狂いもない