第七節 試合終了
第七節 試合終了
日が傾いていた。
引掛式スコアボードに試合の結果が書かれてあった。
5回コールドの0―12で試合終了。
○△□×(丸さんかっけぇ死角無し)高校の勝利だった。
河原に松本とタカマサが佇んでいた。
「終わったな……」
「何とか、な」
会話を交わす松本とタカマサ。
「いやぁしかし、お前のツーランには鳥肌が立ったぜ」
「いや、あれが無くても10点差でコールドだ。あまり意味は無いだろう?」
タカマサの労いの言葉に、謙遜する松本。
「ハハ、でもまぁ、勝てたぜ」
「おう」
タカマサと松本は勝利の余韻に浸る。
「部活の方」
「!」
「これを機会に部員が集まればいいな」
「そんな上手く行くかよ……」
タカマサは多少ネガティブになっていた。
「また……」
「!」
「試合呼んだら、来てくれよ」
「……おう」
「コツン」
タカマサと松本は拳を交わした。
翌週――、
「この前の試合、勝ったんだってな⁉ 悪かった。また野球させてくれよ」
「!」
辞めていった部員が、タカマサのもとに懇願しに来た。
「あ、ああ。いいぜ、またよろしく頼む」
その様子を見ていた松本。
「フッ」
笑みが零れる。
そこへ――、
「コイツぁとびっきりのスキャンダルだぜ!」
パパラッチャーバカアキが現れた。
「!」
「⁉」
松本は口を開く。
「てめぇ、何しに来た?」
「スッ」
松本を右手で制止するバカアキ。
「まぁ待たれ、そしてこれを見よ」
バカアキの右手には何かを映した写真が……。
「‼」
それは延安が灯油タンクを持って、野球部部室に入り込もうとする様子を捉えていた。
「あの……ヤロウ……‼」
(回想)
「俺の独断と偏見で言うと、その2年はクロだな」
(回想終了)
(2年のヤツじゃなかったのか……‼)
「! どうした? 松本」
タカマサも寄ってきた。そして、
「‼」
真相を理解するタカマサ。
(先輩方の夢を……俺たちの夏を……)
怒りで頭に血が昇った。こめかみに血管が浮かんでいる。
「! おい‼」
松本はタカマサを想う。
「ダッ」
タカマサは走り出す。
「待て!」
松本もそれを追う。
――延安の居る教室に着いた。
「てっめぇえええええ‼」
延安目掛けて突進するタカマサ。
そこで――、
「ガッ」
タカマサの肩に手を掛ける松本。
「! 松本……‼」
「タカマサ、お前が手を汚す必要は無い。折角元通りになりかけた野球部だ。大切にしろよ」
松本はグッと前に出てくる。
「⁉ な……何だよ?」
延安は自分の置かれた状況を理解していない様子だった。
「しらばっくれる気か……? この写真を見ても、その様子で居られるか……?」
松本はいつの間にはバカアキから奪った写真を延安に見せつける。
「! それは……いつの間にそんなものを……‼」
「へへ……」
驚愕する延安に、バカアキは得意気だった。
「分かってんだろうな……?」
「ヒッ」
気を失う延安。それを見た松本、
「何もしてねぇのに‼‼‼」
ずんずんと延安に近付く。
「気ぃ失ってんじゃねぇええええ‼‼‼」
「ゴッ‼」
殴打が炸裂する。
「ドッ‼ パリィン‼‼」
延安は窓ガラスごと宙を舞い、果てた。
「スキャンダルの瞬間だぜ?」
バカアキの一眼レフが火を吹いた。
「パシャパシャパシャ!」
「ゴッ‼」
「ドッ‼ パリィン‼‼」
バカアキも窓ガラスごと宙を舞い、果てた。
「お前……PTAが……」
タカマサは松本の身を案ずる。
「へへ、仇はとったぜ?」
「松本……」
松本に答えるタカマサ。
「トン」
松本はタカマサの肩に手をやった。
そして――、
「お前には野球部という居場所がある。俺はどうせ帰宅部だ……お前の居場所を、大切にな……」
「松本……」
ふるふると震えるタカマサ。涙を堪えている。
その最中、延安が居た教室、
「何だ何だ?」
「ひ……人が殴られて落ちてったぞ。しかも二人も」
「け……警察だ――‼ 警察を……じゃねぇや! 救急車だ! 誰か救急車を呼んでくれ‼」
騒ぎになり始めていた。
「お……お前……」
不安そうなタカマサ。
「タカマサ」
答える松本。
「逃っげろ――‼」
松本は走り出した。
「⁉ いや、待て――‼」
タカマサは追う。
「ダッダッダッダッダ」
急に走り出す松本に対応しきれなかったタカマサ。追いつけない。
遂には校門前まで走って行く二人。
「おい、どこまで……?」
「俺は家に帰るさ。じゃあなー‼」
「!」
松本は帰って行った。
(……嵐の様な男だ……)
タカマサは自分の居た教室へ帰った。
翌日――、
松本は校長やPTAに呼び出され…………
なかった。
「どうしてかな☆」
イブキもこの一声である。
ここで小言を一つ。
放火の罪は重い……。放火は二次災害等を考えてか、場合によっては殺人罪よりも重い刑罰を受ける事もある。今回、延安が行った行為と、松本が行った行為を天秤にかけると、どっこいで、後々面倒になるので、校長やPTAが動かなかった…………
かな☆
「何故だ……お咎め無し。上手く撒けたか?」
松本は心がざわついていた。
舞台は変わって――、
ここはとある病院。シゲミが主治医に診察を受けている。
「で? 前科10犯でここに来た、と」
「くぅん」
シゲミは劣勢であった。
「そうですか……シゲミさん、このままでは社会復帰は難しいですね」
「くぅん」
「最終目標は退院にしますか?」
(退院……ワシには家族が居らん……!)
「直近の目標はですけど、行く行くは調子を良くして行き」
シゲミは主治医の次の言葉を待った。
「す――大部屋へ移って頂きたい」
「す……相撲部屋⁉」
「? 馬鹿にしてるのかい? この調子じゃあまだ、隔離室だよ?」
「す……すまんこう聞こえた」
「酢マ〇コ? セクハラですよ?」
「! ! ‼ ⁉」
シゲミはブラックアウト寸前まで追い込まれた。
「ひとまず、あと3日は隔離室だから……」
「! (4日目は……?)」
シゲミの一回目の診察は終わった。
そして――、
「ガチャ! ガチャン! ガギィン‼」
シゲミは隔離室にぶち込まれた。
「くぅん」
そこからの3日間でお風呂タイムが1度だけあった。
いつものように風呂まで歩いて行った――。
風呂場には小田谷可奈子さんが居た。服を脱ぐ。小田谷さんに気付いたシゲミ。まっぱだったのでシゲミは興奮していた。また前みたく体の一部が起立しそうになるシゲミ。
(た……堪えないと……嫌われる……!)
シゲミは人生で一番と言っていい程に起立を我慢した。
「宜しくお願いします、シゲミさん」
「!」
まさかの事態が起きた。
本日のシゲミの担当は小田谷さんの様だった。浴室に入るシゲミ。
「お背中流します」
小田谷さんに背中を流されるシゲミ。起立が収まらなくなった。
「ビーン」
シゲミの身体の一部は完全に起立した。
「くぅん」
恥ずかしくなるシゲミ。
「あ……あのぅ」
シゲミは口を開いた。
すると――、
「小田谷さーん! こっち大変だから来てー」
「はーい」
他の患者に看護師を多く付ける必要がある様子だった。
「シゲミさん、ごめんね」
小田谷さんはシゲミの元から去って行った。代わりに来たのが、
「私、jk」
BBAだった。
「またこの展開なの?」
シゲミは錯乱した。
「女子高生」
BBAの一声に、シゲミの身体の一部は完全に萎えた。
「17歳」
「!」
シゲミはBBAの言葉でブラックアウトした。