第四節 一回の裏~
第四節 一回の裏~
「ナイスピー! ナイスリード! キャッチャー‼」
キャプテン小山田はバッテリーを鼓舞する。
(分かってくれるか……)
金子は何か思うコトがある様だった。
(いつもいつもどんな試合も、勝てばピッチャーの手柄、負ければキャッチャーの責任。しかしながら、キャプテンは俺の影の努力に気付いてくれる……)
感涙しそうな金子であった。
一回表はタカマサ、金子バッテリーで最高の立ち上がりを見せた。
一転して一回の裏、○△□×高校の攻撃――、
一番、三塁手セキズ。
(っしゃあ‼ 来い‼)
セキズは内なる闘志を燃やす。初球、甘めに入ったインコース、ベルトの高さの球をセキズは見逃さなかった。
「カン‼」
「――ガシャン!」
フェンス直撃、セキズは悠々と二塁まで進んだ。
「グッ」
「おっしゃあ!」
拳を握り、叫ぶ。
二番、一塁手千葉――。
監督は手堅くバントのサインを出した。ヘルメットのツバを握り、サインに応えるセキズと千葉。
バントのコツは――、
作者はよく知らない。
(もっと取材とかして書けよ、この作者)
「コツン」
作者への愚痴を垂れながら、千葉は難なく一塁線方向にバントを決めた。
1アウトランナー三塁。バッターは三番、投手タカマサ。
(次の回、楽に投げられる様に点を一つでも多く取らねば……1点目は、俺が頂く……!)
右打席に立つタカマサ。右対右の勝負だった。
初球――、
(甘い!)
「ググッ」
「!」
「ブン‼」
「ストライーク‼」
ベルトの高さから落ちるカーブに空振りするタカマサ。
(成程、一筋縄には行かないか……なら!)
2球目――、
「ググッ」
またしてもカーブだった。
「!」
タカマサのバットは止まった。
「ボール‼」
(同じ手は喰らわないぜ?)
(コイツ……)
バッテリーは暫く考えた。タカマサも思いを巡らせる。
(カーブカーブと来て、次! 打て……てか振れ……‼)
ボールが相手投手から放たれる。インハイのストレートだった。
「カン‼」
「うお!」
ピッチャーだからといって油断していたレフトN山、極端に浅い守備隊形を敷いていた。
「コイツ……‼」
急いで打球を追い、背走する。
(ピッチャーの打球じゃ……ねぇ……‼)
「ドッ」
タカマサの打球は、レフトオーバーのタイムリー2ベースヒット!
「オイ! レフトォ‼」
相手のY監督も堪らない様子だった。
0―1!
○△□×高校、投手タカマサが自らの手で先制した!
「やってくれるぜ」
キャプテン小山田も興奮していた。
「キャプテンの俺が決めなくてどうする……‼」
打席に立つ小山田。相手キャッチャーはその雰囲気に警戒していた。
(コイツ……厄介な相手になりそうだぜ……)
初球――、
「ボー!」
アウトコース、直球でボール球だった。
(ピクリとも反応しねぇ……ストレートを見抜いていたのか……何を待っていやがる)
キャッチャーは慎重になっていた。
2球目――、
「ボー!」
またしてもアウトコース、直球でボール球だった。
(おい! 次はストライクって言ったろ‼)
キャッチャーは力強く返球し不満を態度で表した。
「2ボールナッシング……プレイ‼」
(次……一番自信のあるボールで、ストライクを取るしかない……!)
サインを交わすバッテリー。
「コクリ」
頷くピッチャー。
第3球――、
「ビュン」
ボールはインコース、ボールゾーンに放たれた。
そして――、
「ググッ」
カーブだった。対する小山田は――、
(来た! ボールからストライクゾーンに来るカーブ‼)
ヒジを畳んでスイングする小山田そして――、
「カン‼」
大きな打球! 外野手は2塁ランナーを返してはいけない、と前進守備の隊形。
「うはぁ! また来たぁー」
打球はレフトN山の上を越えていった。
小山田は余裕のスタンディングダブル!
「相手のウイニングショットを打ってこそ、4番だろ?」
小山田はピッチャーに聞こえる様に言った。
堪らずY監督は叫んだ。
「おい! N山ァ! 何で前進守備なんだ⁉」
ランナーが2塁に居たからである。どうやらY監督は素人の様だった。
「おい! N山ァ!」
(無視だ無視)
N山は不満の様だった。
0―2!
○△□×高校、キャプテン小山田の一振りで追加点‼
「グッ」
小山田は静かに拳を握った。次のバッターは五番、中堅手幸村。
幸村――。
カッコイイがたまにダサい。
「俺も続かねぇとな」
ゆっくりとバッターボックスに向かう幸村。
「シャッス‼」
バッターボックス寸前で一礼。
「うわっ」
「あー、びっくりした」
相手キャッチャーと主審は驚いた様子だった。
(コイツは……)
キャッチャーが幸村の様子を見る。
(まるで読めねぇ……‼)
悠然と佇む幸村。
(アウトコース、一回様子見ておくか……振ってくれたら御の字だ)
ピッチャーは幸村に対して、
第1球――、
「ビュン‼」
「グッ」
踏み込む幸村。
(釣れた!)
キャッチャーは歓喜した。
しかし――、
「キン!」
幸村はアウトコースのボール球をジャストミートした。そして打球は右中間を深々とやぶった。
「何⁉」
キャッチャーは思わず声を漏らした。
タイムリー2ベースヒット!
幸村は呟く。
「甘い球が来て良かったゼ」
ファ?
0―3!
○△□×高校、更に追加点‼
バッターは六番、捕手金子
「クソッたれ――‼」
「ビュン‼」
相手ピッチャーはやけになっていた。
そこで――、
「コツン」
金子はバントをした。三塁線に絶妙なゴロを転がした。
「サード! ボール一つ‼」
相手キャッチャーが指示を出す。
「ビュン」
「パァン!」
サードは一塁に送球する。
「アウッ!」
バントは成功し、2アウトランナー3塁となる。ベンチにて、
「おい、誰もバントのサインなんて出してないぞ?」
監督が金子に言う。
「俺は相手ピッチャーのカーブ、打てそうになかったんで……でも、少しでもチームの為になろうと思って……」
返す金子に監督の手は温かかった。
「ポン」
肩を叩く。
「でもまあ、ナイスバントだ」
「! ……」
ふるふると震える金子。
「ハイ‼‼‼」
大きな声で答えた。
次のバッターは、七番、二塁手お腹くん。
(分かるぜぇ金子、その気持ち……俺も、ピッチャーからセカンドへとコンバートされた身だ。更には右打ちから左打ちへとバッティングもチェンジさせられた。しかし!)
お腹君は目をキッとさせた。
(これもチームが勝つ道ならば、喜んで受け入れよう。お前も同じ気持ちだよな? 金子……)
「ザッザッ」
バッターボックスで地ならしするお腹君。
(俺は! お前の広げてくれたチャンスを無駄にはしない……‼)
初球――、
「ブン!」
「ストライーク‼」
空振りに終わる。
2球目――、
「カッ!」
「ファウルボー‼」
2球で追い込まれるお腹君。チラリとベンチを見る。そこには金子が声を張り上げていた。
「ナイススイングだ――‼ 行け――‼ 打て――‼」
(金子……)
そして――、
3球目。2アウトなので、ランナーは振った時点でスタートを切る。三球目も振るお腹君。
「キン!」
ランナーはスタートを切った。
打球の行方は……⁉