第三節 野球
第三節 野球
「まぁ、続ければいいんじゃねぇか? 努力ってヤツをよぉ」
「⁉」
虚を突かれるタカマサ。
「何でだ⁉ 理由を言ってくれ」
更に食い気味のタカマサ。松本は答える。
「お前が考え過ぎってコトだよ」
「!」
「いいか? 占いってモノは非科学的なんだから確実性は無い。それがそのペテン師のウソかもしれねぇ」
「あ、ああ」
頷くタカマサ。
「あと、努力が実ると分かってて努力しねぇヤツらで溢れてるぞ? この世の中ってモンは。更に言うと、努力してる時、その瞬間の感覚、魂は自分自身のモノだ。誰のモノでもねぇ」
「お……おう」
「ポン」
松本はタカマサの肩に手をやる。
「まぁ、あんな事があった後だ」
(回想)
そこには全焼した部室が。グローブ、ボールが真っ黒に焦げており、バットまでもが変色している。
(回想終了)
「だが、考え過ぎで、真面目過ぎ」
数秒間、時間が流れた後、タカマサは口を開いた。
「わ……分かった。俺は努力を止めない」
フッと笑う松本。
「それでいいぜ」
今秋、○△□×高校が、高校野球選手権大会の台風の目になるお話は、またの機会に……。
「ありがとうな。なんか、自信が付いた」
礼を言うタカマサ。
「どういたしまして、お前の不安が無くなって嬉しい限りだぜ」
「はは……」
松本の言葉に虚を突かれるタカマサ。
野球部が真犯人を探し始めてから日が刻一刻と過ぎ、遂に7月を迎えた。会議室に集まる野球部。監督が口を開く。
「あと10日程で大会が始まってしまう。しかし最後の最後まで諦めるな。本当の勝負はこれからだ!」
『ハイ‼』
しかし無情にも月日は過ぎていき――、
再び会議室。監督が部員の前に立っている。
「皆……残念だが、明日が大会初日だ……今から選手登録をしても、大会には間に合わず、出場できない」
「悔しいです‼」
三年生の一人が言った。監督は返す。
「俺も悔しい! ここに居る皆が悔しいハズだ。しかしお前達三年生は一人として退部する事なく、放火魔と戦ってくれた。最後まで野球部でいてくれた。お前達は俺の誇りだ。ありがとう」
わっとなって監督に三年生達が抱きつく。三年生の誰もが、そして監督も目には涙を浮かべていた。それを少し遠くで見守っていたタカマサ。
(先輩達の分まで、俺らは戦わねば)
決意を固める。
7月下旬――、新キャプテン小山田率いる新生野球部が活動を開始した。
「次の土曜日、練習試合を組んだ! 各自準備を怠らない様に!」
小山田はハツラツと言う。
『ハイ‼』
部員たちが答える。
しかし――、
まともな部室すらない野球部。水曜、木曜と部員が消えていき、金曜日、遂に部員は8人になってしまっていた。
「クソッ! 何て事だ‼」
壁を殴る小山田。
「これじゃあ練習試合が……」
苦悩の表情を浮かべる。
「キャ……キャプテン!」
「‼」
小山田に話し掛けるタカマサ。
「協力してくれそうな人を、当たってみます!」
「ああ、頼んだ」
そして土曜日――、松本が招集された。
「何だ? このでかい手袋は」
「それはグローブって言ってな、それを使ってボールを捌くんだ」
松本に野球のやの字を教えるタカマサ。
(大丈夫なのだろうか……コイツ……)
小山田は不安に思う。
○△□×(丸さんかっけぇ死角無し)高校のオーダー。
一番三塁手セキズ(野球部だったんかい)、
二番一塁手千葉、
三番投手タカマサ、
四番遊撃手小山田、
五番中堅手幸村、
六番捕手金子、
七番二塁手お腹くん、
八番左翼手フタエ(お前も野球してたんかい)、
九番右翼手松本。
後攻の○△□×高校、まず守備に着く。
試合が開始する前に、幸村が松本に声を掛ける。
「お前はここに立ってればいいから。あまりここから動くなよ?」
「……分かった」
松本は応じる。
「プレイボール!」
試合開始の合図が。相手の一番バッター、小さい人。ワインドアップモーションのタカマサ、
振りかぶって――
投げた! アウトローいっぱい!
「ストライーク!」
第二球、インハイぎりぎり!
「ストライーク‼ ツーストライクナッシング!」
焦る小さい人。
(コ……コントロール良すぎるだろこのピッチャー……!)
一年目の夏、タカマサは、球速自体は125kと平凡だったが、それを補って有り余る程のコントロールが既に備わっていた。
三球目、インハイのボール球!
「ブン!」
「ストラックアウ‼」
「っし!」
拳を握るタカマサ。
「ワンナウトー‼」
キャッチャー金子が右腕を高々と上げた。二番、すごく小さい人。一球目、二球目と同じ配球のバッテリー。しかし、
「カン!」
インハイぎりぎりのストライクボールをスイングしてファールにするすごく小さい人。タカマサは考える。
(この球速じゃあ流石に当ててくるか……なら!)
三球目、インハイのボール球。
しかしそれはやや、ボールと分かる球だった。バットが止まるすごく小さい人。
カウント、ツーストライク、ワンボール。
(次だ……‼)
四球目、またしてもインハイ‼ しかし今回の球は三球目よりはストライクの高さに近く、すごく小さい人はストライクボールの判断をしあぐねた。そして――、
「パァン‼」
「ストラックアウ‼」
中途半端なスイングをし、二番のバッターも三振に倒れた。
「パシ! パシ!」
グローブを握り拳で鳴らす松本。
(本当に立っているだけでいいとは――、な)
すごく小さい人は三番バッターに助言をする。
「兎に角、コントロールがいい。インハイを攻めてくる。気を付けろ」
「おう」
三番、背が高い人。
初球、アウトローいっぱい! しかし――、
「キン!」
逆方向へのファールを打たれる。
(流石、クリーンナップ。初見で当ててくるか……‼)
タカマサは緊張感の半ば楽しそうだった。
第二球、インハイぎりぎり! それを――、
「カン!!!」
引っ張り方向に特大のファールが……。
「フ――、あぶね」
タカマサは声を漏らした。
その時、松本は――。
(アレを拾えばいいのだろうか……?)
少しだけ足を動かす。すると、
「おい! 立ってろと言っただろうが!」
幸村が声を掛けてきた。
「すまん」
元の位置に戻る松本であった。
「ツーストライクナッシング! プレイ‼」
主審の一声で、仕切り直し。
三球目、すごく小さい人の時と同じく、分かりやすいボール球を使う。
「パァン!」
「ボール! ツーストライク、ワンボール‼」
主審が吠える。
第四球目――、インハイへ
(次も……だろ……?)
背が高い人は先程よりも際どいボール球を見送った。
「!」
タカマサは手を出して来ない背が高い人に驚いた様子だった。
「俺に二番バッターと同じ手は通用しねぇぜ?」
「ハイハイ、流石はクリーンナップ」
背が高い人と金子は会話を交わす。
「ツーストライク、ツーボール!」
主審は再び吠える。
五球目――、アウトコース低め‼
(来た!)
背が高い人は待っていた。そのコースを――。
(インハイ攻めが通用しないと踏んでからの、逃げのアウトコース‼ もらった‼‼‼)
すると、
「ググッ」
「!」
ボールは横に変化し、バットはボールの数センチ上を通り過ぎていった。
「ストラックアウ‼」
「! スライダー⁉」
「誰が125kで全球直球勝負するって言ったよ?」
タカマサは一人、呟いた。