第二十節 松本の戦いは
第二十節 松本の戦いは
ある日のコト――、
「つー事でいいな?」
「あいぃぃい、こうちょうちぇいりちゅれすぅ」
二組の男女が話をしていた。延安とKである。
二人はとある協定を結んだ様だった。延安は企む。
(よし! これでいい……これで松本を断崖の絶壁へと(?)叩き落してやる……!)
Kもまた、企む。
(これれまちゅもちょくんと……あんらこちょやこんらこちょを……むふ!)
Kは歯茎が剥き出しになっていた。
翌日――、
「号外だよー! 号外‼」
「あいぃぃい、あいぃぃい!」
○△□×(丸さんかっけぇ死角無し)高校の廊下にて、延安とKが何かしら手製の新聞を配っている。
「何だ何だ?」
「あの制服……×2△□×(バツ2さんかっけぇ死角無し)の生徒じゃないのか?」
「新聞か……拾ってみるか」
「パラ……」
そこには『松本、ヤリ逃げ』の文字が!
「松本? あの長身の……?」
「ザワザワ」
ざわつき始める周囲。
「何々? 『松本氏、Kさんに対し、計100発中に出して、子供がデキたら下ろせの一点張り。妊娠を厄介事と見なし自然消滅を目論む。メールや電話を一切無視、学校で挨拶をしても顔も合わせない』……ひ、ひでぇ……」
「サイテー。松本君ってそんな奴だったの?」
そこへ――、
「ザッ」
松本が登校してきた。
「ザワザワ」
「見ろよ、アイツだぜ」
「ショックー」
「何てヤロウだ」
「!」
松本は周囲の異変に気付いた。
そして――、
「パラ……」
例の新聞を手に取る。
(! 成程、そういう訳か)
冷たい視線が松本に向けられる。
松本は口を開いた。
「皆! この新聞はデタラメだ! 嘘しか書いてない。俺は白だ!」
「ザワ……」
周囲は再び、ざわつき始めた。
「え? 新聞がウソ?」
「何? どっちが本当なんだ」
「松本ぉー!」
何者かが話し掛けてくる。
延安だった。
「ここで会ったが三年目! 今日こそ目に物言わせてやるぜぇ?」
「……」
「へへ」
2、3秒の睨み合いが続く。
そして――、
先に口を開いたのは松本だった。
「と言うか、お前は誰だ?」
「ズコー」
ずっこける延安。
「延安だよ! の! ぶ! や! す! このくだり前も無かったか? まあいい。嘘をついているのはどちらか、これを見れば明らかだ!!!」
延安はKの腹を指差した。
腹は出ている。
「やっぱり! 妊娠させてるんじゃないか⁉」
「新聞がウソっていうのがウソだったの⁉」
ざわつく周囲。
「スッ」
「?」
松本は右手を上げ、周囲を制止させた。
(嘘つきには、本当のことを言ってやればいい)
松本は口を開いた。
「今から本当の事を言う。皆、聞いてくれ」
「ザワザワ」
「コイツの腹が出ているのは、コイツが想像妊娠しているからだ」
「な⁉」
「想像……?」
虚を突かれる周囲。松本は続ける。
「コイツは頭の中お花畑で、頭が腐っているから、記憶が改ざんされていて、何もしなくても俺と何かシて妊娠したと思い込んでいる」
「マジかよ」
「変態女じゃあねぇか!」
「引くわー」
周囲の反応に呼応するかのように、左上方向を見るK。
「れすー」
歯茎が剥き出しになっている。
再び口を開く松本。
「因みにこの女がウソをついている時は、視線が左上方向を見ていて、歯茎をむき出しにして笑うという癖がある」
それに対し、Kは言う。
「あいぃぃい、松本さんはぁ、わたすと子作りをしちぇぇえ、中に100発だしたんれすぅ」
「ニタァ……」
最後にKは笑った。
「おい! 左上方向を見ていて、歯茎がむき出しになっているぞ!」
生徒Aは言った。
「あわわわ」
必死に口元を隠すK。しかし視線は相変わらず左上に向いていて、次第に目が充血していった。一心不乱に左上を見続けるK。まるでホラーだった。
「なんて表情だ! コイツ、本当に女か⁉」
生徒Bは叫ぶ。
そこへ――、
「ヤツは女じゃねぇ」
タカマサが現れた。
「!」
「⁉」
周囲の人間は虚を突かれた。
「ヤツは、女じゃねぇ」
大事なことなので二回言いました。
「なあ、本当の事を言ったらどうなんだ?」
松本がKに話し掛ける。
「わたすはぁ、まちゅもちょくんにぃ、犯されまちたぁ」
「ふ――」
Kの言葉に、深い溜息をつく松本。次いで口を開く。
「分かった。15、で手を打ってくれ」
「パラァ……」
財布から何枚もの諭吉を取り出す松本。
「あいぃぃい、諭吉がぁ9、10、11、12……15枚ぃいいいい! 良いんれすかぁああ⁉」
「手を打ってくれるなら、な」
落ち着かない様子のKに、冷静に返す松本。
更に口を開く。
「そのお腹の張りは?」
「想像妊娠れすぅぅうう」
二つ返事で答えるK。二人は握手を交わした。
「な! ん! で! だ! よ!」
不満気な様子の延安。ざわつき始める周囲。
「ヤリ逃げってのは嘘なんだな」
「何だよ、この新聞作ったヤツ」
「ぐぬぬ……」
ぐうの音も出ない延安。諭吉はKに手渡された。それを見た延安は叫ぶ。
「お前! 金の亡者かよ⁉」
松本は返す。
「俺は金が好きだぜ?」
「‼」
「人を救えるからな」
驚愕した延安に、静かに言い放つ松本だった。
「う……う……うるせぇええええええ‼」
特攻してくる延安! しかし――、
「ゴッ‼」
松本の殴打が炸裂した。
「まだまだ弱ぇえな、お前はよう」
「ガッシャン‼ パリィン‼」
延安は窓ガラスと共に宙を舞い、果てた。
事は終わり――、
「コツン」
松本とタカマサはグータッチで拳を交わした。
「今日も勝てたな、何かによう」
「ははっ、うるせぇよ」
笑顔で会話を交わすタカマサと松本であった。
舞台は変わり、精神病棟――。
(……喉が渇いた)
シゲミが隔離室にて座っている。すると、
「シゲミさーん。お水持って来ましたよー」
シゲミに優しい言葉を掛けた看護師さんが現れた。コップを手にするシゲミ。
「ゴクンゴクン」
勢い良く水を飲むシゲミ。
「そんなにのど渇いていたんですね」
看護師さんは言う。
「あ!」
水を飲みほした後に何かを思い出すシゲミ。
「き……君の……じゃなかった。えっと……アナタの名は……?」
「僕ですか? 僕の名前は、沖田と言います。宜しく!」
ペコリとお辞儀をする沖田さん。
「ああぁ、うん」
シゲミもお辞儀をする。
「これからの入院生活も頑張りましょうね! では」
「よぃん」
沖田さんは去って行った。数秒後、
「よぉ」
松本が現れた。
「!」
シゲミは硬くなる。
「またかよ? お前も飽きねぇな。逆戻り、ご苦労様」
「ワシに向かってその態度は何だ⁉ 訂正せい、訂正するな! 訂正するな、訂正せい!」
逆上するシゲミ。松本は呆れたように言う。
「はいはい(毎度のコトながら、意味分かんねぇな、コイツ)で、どうするんだ? この先、これからの生活は?」
「お前なんか知らん! ココで一生暮らす!」
シゲミは意固地になった。
「わーったよ。一生ここに居な」
帰って行く松本。
「フン!」
おこになったシゲミだった。この物語は、母は他界し、父には夜逃げされ、叔父がシゲミという厳しい環境に置かれた(シゲミは叔父だったのね)、一人の漢の物語である。
ひとまず、言える事といえば、松本の本当の戦いは、これからだ‼
完




