第二節 小火
第二節 小火
それは6月のとある放課後の事だった。
「お疲れ様でーす。先輩方……あっ、これは‼」
タカマサがいつも通り部室に入った矢先、事件は起きていた。
モクモクと上がる黒煙――。部室は火災に見舞われていた。
「!」
数時間後――、
「ウ――、ウ――」
パトカーが学校内に侵入してきた。
「……それで?」
「はい……。……時頃、部室に入った瞬間から火の気が上がっていました」
警察官の取り調べに応じるタカマサ。
(クソ、何でこんな事に……!)
顔を上げると数十メートル先に、2年の姿が。笑みを浮かべていた。
(あ、……アイツ……まさか‼)
「? どうしました?」
「……いいえ、何でもありません……」
警察に力無く答えるタカマサ。
翌日――、
(あのヤロウ‼)
タカマサがずんずんと校内を歩く。
「おい……」
「!」
振り返るタカマサ。そこに立っていたのは松本だった。
「どうしたんだ? そんな剣幕で」
「松本……」
――――、
「そうか……そんな事が……」
悔し涙を浮かべるタカマサ。
「俺の独断と偏見で言うと、その2年はクロだな」
「!」
松本の言葉に反応するタカマサ。
「俺も過去に、その2年には手を焼いたモノだったからな」
(回想)
2年の教室に上がり込む松本。
「どこだ、誰だ⁉ 俺を襲撃しようと目論んだヤツは!」
ふたつ程教室をまわったところで、手を上げている2年が一人。
「ガチャ!」
「こっちだ‼」
いつしかの2年がセキズに助け舟を出した!!!
(回想終了)
「あのヤロウ……‼」
拳を強く握るタカマサ。
しかし、
「ポン」
その肩に手をやる松本。
「まぁ落ち着け。証拠が無ければ逆に利用されちまうぞ?」
「そう……だな……」
一旦冷静になるタカマサ。
「探そう」
「⁉」
再び松本の言葉に反応するタカマサ。
「俺らでその証拠を探そう」
小一時間後――。
「クソっ! 未だに手掛かり無しか‼」
頭に血が昇っているタカマサ。
「まぁそう焦るな。次は、そうだな……その部室に行ってみるのはどうだ?」
「警察がまだ居るかも知れねぇ」
松本に返すタカマサ。
「そうか……しかし、物は試しだ。行ってみようぜ?」
松本は、やや強引にタカマサを部室に向かわせた。
「……これは……」
「ひでぇモンだろ?」
言葉を失う松本。そこには全焼した部室が。グローブ、ボールが真っ黒に焦げており、バットまでもが変色していた。息を呑む松本。
「一体誰がこんな事を……」
「スキャンダルの臭いがしたぜ!」
「‼」
「⁉」
パパラッチャーバカアキが現れた。
「このっ」
「スッ」
松本を、タカマサが制止する。
「パシャパシャパシャ! パシャパシャパシャ!」
写真を撮りまくるバカアキ。
そこで――、
「ゴッ‼」
タカマサの右ストレートがバカアキを襲った。
「しぇ――‼」
錯乱状態のバカアキ。
「フッ! ピピッ‼」
タカマサは右腕を振り払って返り血を振り落とす。
「今の俺は虫の居所が悪いんでな。まだやろうってんなら、次はこの十倍の力でキサマを粛正する」
「し、しーましぇーん」
バカアキは敗走していった。両手を軽く上げ、手のひらを見せる松本。
「お前を怒らせたら、俺の比じゃねぇな」
「俺の部活への想いは、人の数十倍あるからな」
語り掛ける松本に、返すタカマサ。
「さて、と。――どうしたものか」
部室跡を数時間調べたところ、証拠になるものは何も見つからなかった。その日の帰り、松本は家路を辿っていた。すると、
「!」
2年が腕を組んで立っていた。
「てめぇは……!」
「何だい? 松本君。今日は、野球部の部室をあさっていたみたいだけど……」
「! ……アレはお前がやったのか……?」
松本は問う。
「さぁね。しかしやった証拠も、やっていない証拠も無い。証拠が欲しかったらあのパパラッチ君にでも頼むコトだね。じゃあ」
片手を上げ、帰って行く2年。
「……畜生!」
松本は強く拳を握っていた。
「――と、いう事だ。悪いが受け止めてくれ……残念だったな3年の皆、私も残念でならない」
「そん……な……」
絶句するタカマサ。翌日、野球部部員は会議室に集まっていた。監督から部員全員に、とある告知が言い渡された。
○△□×高校(丸さんかっけぇ死角無しこうこう)野球部、3週間の活動停止申告!!!
3週間でギリギリ夏の予選に差し掛かるため、3年生は事実上、6月下旬の時点で引退申告を受けたのだった。
「そんな……」
「あんまりだぁ」
泣き崩れる3年生達。監督が口を開く。
「お前らの中に犯人が居るとは毛頭思っとらん。しかし、真犯人が出てこない限り、疑いを否定する事は難しいんだ。分かってくれ」
「畜生! 火事を起こしたやつさえ居なければ‼ クソッ‼‼」
取り乱す部員達。
(無理も無い……だが、真犯人が出てくれば、事態は好転するかもしれない)
監督は再び口を開く。
「お前達、野球は好きか?」
『ハイ!!!』
大声で返す部員達。
「この野球部は好きか?」
『ハイ‼‼‼』
「もしかしたらだが、小火を起こした真犯人が分かれば、活動停止期間を短くできるかも知れない。私も協力する。皆で真犯人を探そう!」
『ハイ‼‼‼‼』
すぐさま野球部は小火を起こした犯人を見つけるべく、活動を始めた。その日の帰り、タカマサはいつもの家路を辿る。すると、
「ドーン!」
見るからに怪しい占い師が、路上に店を構えていた。
(なんだコイツ……?)
占い師が口を開く。
「あらアンタ、最近、不幸な事があったわね?」
「!」
「それに……何かを失っている……」
「! 婆さん、何でそんな事を知っている?」
タカマサは問う。
「占ったのよ、つい先刻……」
「! なん……だと……!」
タカマサは驚愕した。
「もうちょっと寄って見せなさい。私の占いは百発百中と、wikiに書いてあるわよ」
「…………(物は試し、か……)」
占い師に近付くタカマサ。
「手を……」
「スッ」
手を占い師にかざすタカマサ。まじまじと手相を見る占い師。
「……アンタ死ぬわよ」
「!!!」
顔がこわばるタカマサ。
「嘘よ、う・そ」
「あんまりふざけてっと、女だろうが容赦しねぇぞ?」
人差し指を立てるタカマサ。
「おお、恐い恐い。……秋、よ。アンタ大成するわ、頑張りなさい。……今日はこの辺で店じまいだわ」
咄嗟に聞くタカマサ。
「お代は?」
「出世払いで――、ね」
占い師は去って行った。
「……」
一人佇むタカマサ。
「グッ」
拳を握った。
翌日――、
「松本!」
松本を呼び出したタカマサ。
「どうした?」
「俺は今、猛烈に戸惑っている……!」
「⁉」
タカマサに対して逆に戸惑う松本。
――、
「そうか、……そんな占い師がな。で、何を戸惑っているんだ?」
「人は恐らく、今の努力が報われるか報われないか、それが分かると簡単に努力を続ける事も、簡単に努力を止める事もできる。それが歯がゆくて仕方ない……!」
松本は問う。
「で、その占い師通りに秋に大成したとして、自分が卑怯者かも知れないと思っているのか?」
「……そうだ!」
肯定するタカマサ。
「まぁ、続ければいいんじゃねぇか? 努力ってヤツをよぉ」
「⁉」