第十八節 妄想妊娠
第十八節 妄想妊娠
夏休みが終わった、9月、ある日のこと――。
「松本つぁん!」
「⁉」
○△□×高校の廊下で、Kが松本の目前に立ち塞がった。腹が出ている。
「あなちゃとあの一夜を過ごちてから、子を授かりまちた! この責任、どうとってくれるのれすかぁ⁉」
「ざわっ」
ざわつき始める周囲。
「ち……違っ」
「やったんだって、松本君」
「やー、生〇出ししたのね」
「下品な男だ」
松本は否定するも、Kは周囲の人間に対して多大なる誤解を招いていた。
事実、Kの腹は膨らんでいた。それは紛れもない事実だった。
「ちっくしょ――‼」
松本は半泣きになりながら逃走した。
(……松本)
それを教室の中から見守る者が。タカマサだった。
(……)
タカマサは何か思う事があるらしかった。
「ハァ……ハァ……」
松本は学校から飛び出して、河川敷の道まで辿り着いていた。
「あのヤロウ……」
松本は考える。
(確かに、腹は出てたな……誰とセ……生殖行為をしたんだ? そもそも相手は居るのか……?)
「相手はいないぜ?」
「! ‼ ⁉」
誰かの声が聞こえた。
「バッ」
振り返る松本。そこにはタカマサが居た。
「た……タカマサ……」
松本は声を漏らす。
「想像妊娠ってヤツさ」
「想像……だと……?」
タカマサは続ける。
「ああ。ヤツは頭の中お花畑で、頭が腐っているから、記憶が改ざんされていて、何もしなくてもお前と何かシて妊娠したと思い込んでいる」
「何……だと……?」
松本は驚愕した。
「今日はショックでキツいかも知れないが、明日は学校来いよ?」
タカマサは一言言うと、帰って行った。
「……」
松本は一人、佇んでいた。
次の日――、
「タタタタタタタ」
「松本つぁん!」
Kが小走りでやって来た。
「どうしてわてぃちにふりむいてくれないんれすかぁ? あんなことやこんなことをしてあげたのにぃ?」
「あんなこともこんなこともやっていない。全てお前の妄想だ」
そっと返す松本。
「もー‼ こーなったら!!! 下ろちまふお⁉」
子供を人質に取るK(子供いないけど)。
「‼ ……」
流石に引く松本。
「何―? Kちゃん子供下ろしちゃうの?」
クラスの女子が寄って来た。それをいい事にKは、
「あいぃぃい! このヒトが下ろちぇと言ったんれすー(大嘘)」
大嘘をつく。
「れ、冷静になれ! 10万、10万円やるから黙ってくれ‼」
松本は血相を変えて交渉した。
(10万……10万……‼)
「あいぃぃい」
交渉成立!
(この妄想妊娠ヤロウ……金に目がないのか……? まぁいい、今月の食費、何とかして浮かせなければ。バイトもするか?)
松本はその場を凌いだ。
数日後――、
「今日から、頼むよ」
「はい、宜しくお願いします」
松本はコンビニのアルバイトを始めた。
「松本君、こちらが先輩の抜刀君だよ」
「向こう見ずで無鉄砲、そして品出しとレジ打ちの速さが俺の強みだ‼ 俺がコンビニ店員とは何かというモノをしっかり教えてやるぜ‼」
店長から紹介されて、元気に自己紹介する抜刀。
「宜しくお願いします(費用対効果が薄いが、一番手っ取り早く始められる仕事だ。やるしかない!)」
「ピロリロリ」
客が入ってきた。
「いらっしゃいま……!」
「あいぃぃい」
Kだった。
「てめっ、何しに来やがった⁉」
「遊びに来ましたぁああ」
動揺する松本に対し、ふざけた態度をとるK。
「これは仕事だ。遊びに付き合ってやる時間は無い」
そう言う松本に対して、急に距離を詰めてくるK。レジ内まで侵入してきた。
「こんなのはぁテキトーにやとけばいいんれすぅー」
「ピッ」
「カシャン」
レジが開いた。
「こんなにいっぱい金がありますぅ」
諭吉を数枚拾い、逃げ出そうとするK。
「こんの! 待て‼」
Kの腕を掴む松本。
「痛いぃぃいい‼ 痛いれすぅぅうう‼」
奇声を発するK。それを見ていた抜刀。
「何やってんだキサマら‼ て、店長!」
抜刀は店長にチクった。
そして――、
「君らもう二度とウチに来ないでね。あー、全く残念だ」
松本はコンビニバイトをクビになった。
「コレで時間ができて遊びに行けますねー」
「……」
「ゴッ‼」
松本はとりあえずKに一撃喰らわせといた。
「! ! ‼ ⁉」
K、ブラックアウト。
松本宅、とある夕暮れ時――、
「なー松本ぉー」
「何だ?」
イブキが松本に問う。
「何で夏休みも終わったのに三食そうめんなんだ?」
「……聞くな」
ここで、Kの生態について、少し追って見てみよう。
朝7時、起床。Kの寝床はゴミで溢れていた。ゴミ屋敷、豚小屋と言っていいほどである。
「あぁ゛ぁああ、良く寝ましたぁ」
Kの朝食は、朝〇ック。
ソーセージエッグ〇フィン、ベーコンエッグ〇ックサンド、〇ックグリルソーセージエッグ、チキン〇ックナゲット15ピースと朝から食べまくりである。
「あいぃぃい」
登校するK。リムジンを無免許で飛ばしながらである。
途中――、
「ドッガァアア‼」
野良犬を轢いた。
「あぁ゛ぁああ、ごめんなさいれすー」
それでもKは進んで行く。
Kは暫くして、学校の近くの裏山にリムジンを停めて、そこからは徒歩で学校へ向かった。
「あぁ゛ぁああ、ちゅかれますぅうう」
遂に教室へ辿り着くK、
「おはおうごらいますぅうう」
周りの生徒と、適度な距離を置いて机につく。
授業が始まった。
1限目、「グゥウウウ」
2限目、「カチカチカチカチ」
Kは授業を受ける気は全く無く、寝るか携帯電話をいじるかの2択だった。
「カチカチカチカチ」
Kはどうやらヤッホウ知恵遅れに質問を投稿している様だった。
『元カレが振り向いてくれないのれす』
表題はこの一行、内容は次の通りだった。
『元カレのM君……。な〇中se×をして、妊娠までさせれちぇ、でもわてぃちにふりむいてくれないのれすー。ごうけい100発出されちぇ、いまら〇おさえしゃせられちぇ、れもわてぃちにかまってくれない……お風呂にあまり入らない、へやのそうじをちない汚女子だかられしょうか? 前に出会い系さいとをちゅかってたかられしょうか? どうちたら変われるれしょうか? 変わりたいれす』
ベストアンサーを見てみる――。
『変わる前に俺と一発どうですか?』
! ! ‼ ⁉
何がベストなのか……?
他には携帯を何に使っているのか? 様子を見てみよう。
「ピピピッピ」
何か携帯サイトを見ている様だ。
『幸せメール』
……。出会い系サイトだった。
『元カレが振り向いてくれないのれす』
……。お前も大概だろ……。
昼――。
「ガツガツ」
Kは学食で、ラーメン、チャーハン、唐揚げ、カレーライスと朝飯の勢いそのままに、一心不乱に食べ続けた。腹のふくらみは只のDBというコトでは?
午後の授業中。
「ゴガガガガガガ(寝いびき)」
案の定寝ているK。携帯電話を握りしめていた。
「キーンコーンカーンコーン」
学校のチャイムが鳴る。
「ゴト……」
Kが握りしめていた携帯電話が床に落ちる。
「ん?」
金子がそれに気付く。携帯を拾ってやる金子。
「あ……」
画面はヤッホウ知恵遅れの記事になっていた。
「え? うわ! これは……」
「!」
金子のその声で目を覚ますK……!




