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第十六節 紅白戦その4

第十六節 紅白戦その4




3回表の攻撃は、九番左翼手フタエから……。








「フタエノキワミ、イェアァアアア――――‼」


「ブン!」








「イェアァアアア――――‼」


「ブン!」




「イェアァアアア――――‼」


「ブン!」






「ストラックアウ!!!」






相変わらずかすりもしないフタエ。




「ギロリ」




三塁ベンチは手厳しく彼を迎えた。




「……」




フタエは心に深い傷を負い、イップスになりかけるのだった。


次は、一番にかえって、三塁手セキズ。


(この俺にはパワーアップしたタカマサのボールを打つ実力は無い……ならば!)


ピッチャータカマサ、振りかぶって


「サッ」


咄嗟に構えを変えるセキズ。


投げた!




「ビュン!」




それを――、




「コツン」




セーフティーバントを試みるセキズ。一塁線、一塁手エイジが捕るしかない場所へ転がす。


「ッそ‼」


投手タカマサと競走になるセキズ。




(俺は――‼)




ヘッドスライディングするセキズ。




(どんなに泥臭くとも出塁してやるんだ!)




判定は⁉


「セーフ!」






『わぁっ‼』






3塁便血が沸く。


「へへ……こちらとて易々と負けてられないんでな」


「ハハ!」


セキズの言葉に、笑みをこぼすタカマサ。


次は、捕手金子。


(二番バッターの仕事! それは……!)




「コツン」




またしても一塁線にバントを決める先攻チーム。


バントが好きな高校だな、オイ。


「ズサァ」


(何としても次の塁にランナーを進めなくてはならない事だ……‼)


一塁はアウトで、2アウトながら、金子はランナーを得点圏に送った。




「ナイスバント!」




幸村は金子に労いの言葉を掛ける。


「これが俺の仕事だよ」


そっと金子は返した。


次は――、一塁手、千葉。


初回にも唯一出塁している千葉。このチーム一の選球眼の良さを持つ。




第一球――、


アウトコースへ




「ズパァン‼」




「スト……いや、ボー!」


主審である監督は、上げかけた手を下げる。


「! (おいおい、ボール半個分でもボールとかバッター贔屓でしょ)」


山田次郎は面食らった。


「ワンボールナッシング」




第二球――、


「ビュン!」


「ズパァン‼」




「ストライーク‼」




今度は先程と比べてボール半個分中に入れてきたタカマサ。ストライクをとる。1ストライク、1ボール。


「ふーん、成程ね」


千葉は呟く。


(このヒト……天才肌という言葉が似合っているな)


山田次郎は考える。




第三球――、


「ビュン!」


「カッ‼」


ストライクゾーンギリギリの球を、千葉はカットした。


「いいよ、ナイスボール(そこはファールにしかならない……)」


タカマサに声を掛ける山田。




次のボール、


「ビュン!」


またしてもアウトコースギリギリに。そこから――、


「ググッ」




変化した! スライダーである。




「ピクッ」


「ズパァン‼」




「ボー!」




ストライクからボールになるスライダーである。それを悠々と見送る千葉。2ストライク、2ボール


「いいよー、いいボールだ。(追い込まれていてあそこを見送るとは……末恐ろしい存在だ……でも)」


チラリとタカマサを見る山田。


(タカマサ、お前は3ボールからでも勝負できる!)




次の一球、


「ビュン!」


インハイ厳しいコースに!




「ピクッ」




「ズパァン‼」


「ボー!」


バッター千葉、ボールを選んで2ストライク、3ボール!




「いいぞー、要求通りだ」




山田はタカマサを鼓舞する。


(本当に選球眼が良い! これはヒットを1本打つよりも価値のあるフォアボールを選ぶことができる選手だ……!)


山田は外に構える。


「来い‼(良くてファールにしかならない、ここしかない!)」


「ビュン!」


ボールを投じるタカマサ。それを――、




「カッ」




カットして行く千葉。




「!」


「⁉」




衝撃を受けるタカマサと山田次郎。






――、




幾分かの時が経っただろうか。バッター千葉の打席、カウントは変わらず、球数だけが増えていった。




「ビュン!」


「カッ」


「ファール!」




球数はこの打席だけで17球と、驚異的な粘りを見せている千葉。




18球目――、


「ハァ……ハァ! んっ!」


力を込めてボールを投げるタカマサ。


「ビュン!」


「ピクッ」


「ズパァン‼」


「ボー! フォアボール‼」


インハイの厳しいコースだった。しっかりとフォアボールを選んで出塁する千葉。


「良かったー。手が出なかっただけなんだよねー」




「……!」


「くっ!」




悔しがるタカマサと山田のバッテリー。


(一番嫌な事をされた……)


山田も多少、集中力を欠き始めた。2アウトでランナーは1、2塁。次は、四番遊撃手、副キャプテン。


「(……最初の打席は三振に終わった……)だが!」


「ザッザッ」


右バッターボックスを均す副キャプテン。


「今度は簡単に倒れないぞ……副キャプテンの意地を見せてやる……」


気合の入った副キャプテン。


「……」


インコース低めに構える山田。


「ビュン!」


ボールがやって来る。




「ググッ」




スライダーだった。ボールゾーンからストライクゾーンに入って来る変化球。


「何でも来いってんだ‼」






「カン」






三遊間にゴロが飛んだ。






「抜けろー‼」






叫ぶ副キャプテン。そこで――、




「ザザァー」




ヘッドスライディングで飛び込み、ボールを捕球しに行くキャプテン小山田。


「何⁉ く……クソッ」


打球を確認しながら走っていた副キャプテン。捕球されても諦めずに走る。






「どあらっ‼」


「ピッ」






送球する小山田。そこには、キャプテンと副キャプテンの意地の張り合いが存在していた。


(絶対にアウトにしてやる……‼)


(絶対にセーフになってやる……‼)


「ザザァー」


1塁ベースへ、ヘッドスライディングの副キャプテン。


「パシッ」


ほぼ同時のタイミングで送球を捕球する一塁手エイジ。






判定は⁉






「セーフ! セーフ‼」


「よっしゃー!」


僅差で副キャプテンの足が勝った。2アウト満塁! 堪らずマウンドへと駆け寄る山田。


「さっきの千葉の打席が響いたな」


「ああ、ヤツを打ち取れる気がしない」


会話を交わす山田とタカマサ。


「でもまぁ、2アウトだ気楽に行こう!」


マウンドを離れる山田。




(さてと)




次のバッターの幸村を見る。


(ノリノリになったコイツは恐いからなぁ……しかし満塁、勝負しないといけない)


覚悟を決める山田。


(幸村はプルヒッターだ。アウトコースへのスライダーから入る)


「こくり」


首を縦に振るタカマサ。一投目を投じる。


「ビュン!」






(ここから曲が……らない⁉)






「‼」




「貰った!」


「カキン‼」




抜けたスライダーを痛打されるタカマサ。打球は物凄い速さでレフトへ。3塁ランナーはホームへ生還する。




1―1!




2塁ランナーは打球があまりも速かったため、3塁でストップ。






『わぁっ!』






三塁ベンチが湧く。




「……」




タカマサはこの回、千葉に球数を多く投げさせられた。その為、多少スタミナを奪われた挙句、投球リズムを狂わせられた。その所為か、スライダーが抜け球になったのである。


「(千葉と幸村はレギュラー確実だな……)まだだ! まだ同点になっただけだ! 2アウトぉー‼ 次のバッターで切るぞ‼」


山田はナインに声を掛ける。あり? 自分も含めてナインか……。


次のバッターは、六番右翼手、松本――。右バッターボックスに入る。

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