第十五節 紅白戦その3
第十五節 紅白戦その3
(一応、牽制を入れておこう)
サインを出す山田次郎。
「ザッ」
「ビュン!」
「パシッ」
「ザザー」
牽制を入れるタカマサ。
「セーフ!」
一塁塁審はセーフのジャッジを。
ここで豆知識(?)。
主審は監督が、各塁審は部員達で行っている。部外者の松本ですら出られる紅白戦に出られない部員(塁審)カワイソス。
いけいけでノリノリの幸村、牽制を入れられて冷静さを取り戻す。
「あぶねー。盗塁してしまいそうだったぜ」
(マジか)
(まさかとは思ったがマジだったか)
(イケたのか……?)
後攻チームの内野陣は思いを巡らせる。
「ふ――」
一息つくタカマサ。
(これでバッターに集中できる)
打席には六番右翼手松本が――。
セットポジションのタカマサ。
(松本……! 手加減は無しだぜ……‼)
「ビュン!」
タカマサが投じた第一球――。真ん中低めに放たれた!
(少しだが……甘い!)
スイングしに行く松本。そこから、
「ググッ」
「!」
ボールは外角へと変化していった。
「ブン‼」
大きく空振り!
(……三球とも、これでいいな)
山田は安易にそう思った。
「ブン‼」
「ストライーク‼」
「ブン‼」
「ストライーク‼ バッターアウッ‼」
外角クルクルー状態の松本、三球三振に終わる。ツラいです。
(ボールが……曲がった……‼ こんな世界があるとは……)
パワプ〇でしか野球に触れたことの無い松本は愕然としていた。
「おいー‼ 俺のヒットが活きねぇだろぉ――‼」
幸村はファーストベースから叫ぶ。
次は、七番二塁手、佐野。
(まずは1点とるんだ……1点……‼)
「コツン」
佐野は一塁線に絶妙なバントを決めた。バントする奴多いなオイ。ランナー幸村はセカンドベースに進んだ。
「行けぇ! 細い人‼ 俺はホームまで還るぞ!」
バッターは八番中堅手、細い人。
(俺が……やるしかない! けど――)
「ザッザッ」
バッターボックスを均す細い人。
(はっきり言って自信なし)
「ビュン!」
「キン!」
バックネットへと打球は飛んで行った。
「ファー! ワンストライクナッシング、プレイ‼」
「……」
細い人は何か想うものがある様だった。
(当たる……当てれる)
「ビュン!」
「ググッ」
「ピクッ」
「バァン!」
「ボー! ワンボールワンストライク」
(打てる……打ってやる……!)
「ビュン!」
「カァン‼」
打球はライト方向へのフライに。
「落ちろ! 落ちてくれー!」
叫ぶ細い人。しかし――、
「ズサァー」
「パシッ」
右翼手、三田がスライディングキャッチするというファインプレイで3アウト目をもぎ取った。
「くっはー、惜しい!」
叫ぶ幸村。
幸村のそばに駆け込む金子。
「お前……」
「あん?」
「あんなにランナーに出てて、疲れてないか?」
金子は問う。答える幸村。
「大したこたぁねーよ。まだ2回だ、心配し過ぎ」
「なら良いんだが……」
この金子の不安は、違った形で的中する。
2回裏、後攻チームの攻撃は――、五番一塁手、エイジから。
一塁手、エイジ。必殺技、ドンキーコ〇グラリアット。
第一球――、
「ビュン!」
アウトコースへのストレート。
「ガギィン‼」
それを引っ張るエイジ。
――、
打球はレフト方向への大飛球。
(マズい!)
「ドッ‼」
「ファー」
ボールはファールゾーンにスタンドインした。冷や汗をかく幸村。
「ふ――」
「おい! どこがファールなんだ⁉ ホームランだろうが‼」
エイジは主審である監督に意見した。
「アホかお前は。どう見てもファールだ」
金子もファールの判定だった。
「す……すいませんでした」
納得いかない様子のエイジだった。
気を取り直して二球目――、
「ビュン!」
「ガギィン‼」
またしてもレフト方向へ大飛球が――。
(やられたか⁉)
打球の行方を追う幸村。ところが、
「パシッ」
左翼手フタエがファールゾーンで捕球した。
「やっぱりファールだ……な」
フタエは呟いた。
(……飛ばされた。あんなにも……しかも二回続けて……)
金子は幸村の“異変”に気付きかけていた。
次は、六番捕手、山田次郎。
左バッターボックスに入る。
金子は山田を見上げ、考える。
(このバッター、足は……無い。痛打されない限り、長打は……)
初球――、
「ビュン!」
(キレが無い!!! 棒球だ――‼)
焦る金子。
「カン!」
金子の心配は的中し、打球は右中間を深々と破る痛烈な打球となった。結果は2ベースヒット。
「た……タイム!」
堪らずマウンドへ駆け寄る金子。幸村に話し掛ける。
「どうした? どこか調子でも悪いのか……?」
返す幸村。
「ん? 別に何とも」
(自覚無し……か)
「お前こそ、こんな事でマウンドへ寄って来て、どうかしたのか?」
「……」
考え込む金子。
(前の回は、テンポよく抑えて、その後攻撃で打順も回って来た上ヒット。幸村にとっては最高の試合運びだった。……しかし――、その後のバッターが続かず、残塁。自分のヒットが活きず、いたずらに走らされる結果となった。そしてこの回のピッチング、流れの悪さを引きずってしまったか……?)
「もー帰っていいぞー」
あっけらかんとした幸村。金子は口を開く。
「兎に角!」
「!」
「この回、0点で抑えるぞ。いいな?」
「お……おう」
少しだけ金子に圧倒された幸村であった。
次は、七番二塁手、天野。
「ビュン!」
「うおっ」
「コツン」
天野は幸村のボールに圧倒されながらも、三塁線へとバンドを決めた。
ナイスメイデン。
2アウトでランナーは3塁ワンヒットで確実に1点が入るシチュエーションになった。次のバッターは八番左翼手、森本。金子は思いを巡らせる。
(チャンスでの、このバッターは……打つ! べらぼーに打つ‼ ここはフォアボールになってもいいから、次のバッターで勝負……!)
金子のサインに首を振る幸村。
(! 止せ。今の流れだとお前は……)
依然として首を横に振る幸村。
(……そうかい)
覚悟を決める金子。
(慎重に……な)
金子は外に構えた。
第一球――、
「ビュン!」
そして、
「ググッ」
スライダーだった。
それを――、
「来た! カウントを取りに行くスライダー‼‼‼」
「カキン!」
流し打ちする森本。
『わぁあ‼』
一塁ベンチが湧き上がる。打球はライトの前へ。3塁ランナーの山田次郎、ホームイン!
0―1‼
金子の勘は当たっていた。
「チキショー」
悔しさのあまりマウンドを蹴り上げる幸村。俯く金子。
(クソッ……しかし――、)
「まだ2回だ! 切り替えていこう‼」
「っしゃあ!」
「おっし!」
声を返す三塁手セキズと一塁手千葉。次は、九番右翼手、三田。
(まだ2回……まだ2回だ……!)
気合を入れる幸村。セットポジションから、
一球目――、
「ビュン!」
「ズバーン!」
「ストライーク‼」
「ビュン!」
「ズバーン!」
「ストライーク‼」
「ビュン!」
「ズバーン!」
「ストライーク‼」
「バッターアウッ‼」
アウトローからのインハイを続けて投じた。最後は、ボール球だったが、球威とアンダースロー独特の軌道でボールを振らせた。
「うっし!」
「……!」
三田は考える。
(守備要因の俺に、全力勝負とは……アツいぜ‼)
後攻チームの攻撃で1点を先制し、0―1で試合は3回表を迎える。




