第十三節 紅白戦
第十三節 紅白戦
この物語は、前科10犯、齢46の声優という悲しき生命体、犯罪者シゲミの日常を描いた物語である。
今日は診察の日。シゲミは恐る恐る診察室へ向かう。
「ガチャ」
ドアを開けるとそこには主治医(ヤブ医者)の今井が待ち構えていた。
「やあ、シゲミさん。ス――大部屋の様子はどうだい?」
(相撲部屋……!)
今井の発音は悪く、シゲミには『ス――大部屋』が『相撲部屋』に聞こえていた……!
「ま……まぁまぁです」
曖昧な言葉でお茶を濁すシゲミ。
「そうですか。もし――」
「⁉」
「クスリを飲むのを勝手に止めると、また隔離室に入れますからね?」
「! ! ‼ ⁉」
シゲミはショックのあまり、言葉を失った。
(あそこは人の住む場所では無い……)
隔離室では、便をしても自分から流せないつくりとなっていた。大便が好きなシゲミには持って来いの場所かと思われだが、流石に飯を食う時には臭くて食べれるもんじゃあなかった。
「(もう……あんなことろ、無理じゃ)の……飲みます! 飲むから許して下さい!」
シゲミは悲痛な叫び声を上げた。
「(コイツぁ愉快だな)? 許す? あの部屋は、入る人を保護する部屋であって、何もお仕置きをするような部屋じゃあありませんよ?」
今井は考えている事と言っている事が違った。ヤブ医者の本領発揮である。
「(こやつ、嘘をついておるな?)は……はい、分かりました」
口をすぼめて、俯くシゲミであった。
日々は過ぎて――、
「シゲミさん、面会ですよ」
看護婦さんはシゲミに伝える。
面会室に行く。そこには松本が待ち構えていた。
「よぉ、ハゲじじい」
「⁉」
松本の第一声に我が耳を疑うシゲミ。
「これ! ワシはハゲとらん! ワシはハゲとる! ハゲとる! ハゲとらん!」
大声で威嚇してくる。
「ハイハイ(マジで意味分かんねぇな、コイツ)。で、やっと豚小屋から出られたそうじゃないか? 暮らしは良くなったのか?」
「くぅん……」
問う松本に、悲し気な表情をしてくるシゲミ。
「何だそれは? 馬鹿にしているのか?」
「よぃん‼」
多少のダメージを負うシゲミであった。
「具体的に言えよ、具体的に」
松本の言い分は正しい。
「ワシの部屋には……の、呪いの文章を書く男、大胸筋矯正サポーターを付けた男、ひたすら眠っている男が居る……」
シゲミは出来るだけ具体的に、簡潔に言った。松本は返す。
「やればできるじゃあねぇか。それで? 豚小屋の方が良いのか?」
「ぶるぶるぶるぶるぶるぶる」
シゲミは首を横に振る。
「じゃあ、良くなったんだな。退院は出来そうか? つっても、退院したら住む部屋は無いけどな。金はいくらでもあるんだが……」
「ここに、永住する程、金はあるのか……?」
シゲミは問う。
「……有る」
「! ! ‼ ⁉」
シゲミは驚愕した。
(ここで暮らせる……!)
「まぁ、最悪、一生ここに住んで、ここで死んでもらう事になりそうだな。今日はこの辺で終わりにするか。じゃあな」
松本は帰って行った。
「…………」
シゲミは無言だった。何か思う事がある様だ。
BBAが一部始終を見て言った。
「泣かせるじゃないか。治る見込みのない病気と知ってか知らずか、入院費や治療費を払い続ける息子……」
目頭が熱くなった所為か、ハンカチで涙を拭っていた。
7月某日――、
「ブーブーブー」
松本の携帯が鳴る。
「!」
携帯を手に取る松本。タカマサからのメールだった。
『急で悪いが、3日後の昼、紅白戦をやりたいから、学校へ来てくれないか?』
即座に電話を入れる松本。
「プルルルル、プルルルル、ガチャ」
電話に応対するタカマサ。
「もしもし」
「もしもし、松本か? 本当に申し訳ないが、また助っ人として出て欲しいんだ。やってくれるか?」
「……任せろ」
そして3日後――、
紅白戦の日となった!
「今日は互いのバランスをとるため、レギュラーとレギュラー外を織り交ぜてのオーダーを組んだ。個々人が目標を持って全力でプレーするように」
『ハイ‼』
監督の一声で、紅白戦が始まった。
一回表、先攻チームの攻撃は、
一番、三塁手セキズ。
対するのは、投手タカマサ、捕手山田次郎のバッテリー。
「プレイ!」
試合開始のコール。
バッターセキズに対して放たれる第一球は――、
「ビュン!」
「ズバン‼」
「ストライーク‼」
タカマサの放つストレートは、自主トレの甲斐もあり130k程のスピードが出るようにまでなっていた。
「! ……(タカマサめ、この夏休み中も、何か練習していたな? スピードが春のそれとは段違いだ)」
思いを巡らせるセキズ。
「バシバシ」
ミットを手で叩く山田次郎。
「いいボールだー。タカマサー」
「ジリ……」
マウンド上のタカマサとバッターボックスに立つセキズ。山田次郎の出すサインに首を縦に振るタカマサ。
第二球――、
「ビュン!」
(さっきより、甘い‼)
スイングしに行くセキズ。すると――、
「ググッ」
白球は横に動く。
「! スライダーか⁉」
「ブン‼」
「ストライーク‼」
スイングするも、空振りとなる。追い込まれたセキズ。
「……」
右バッタボックスに佇む。
(後ろを守ってて普段はとてつもなく頼りになる存在だが……)
第三球が放たれる。
「(敵に回すと、こんなにも厄介なヤツだった)なんてな‼‼‼」
「キン‼」
バットに当てるセキズ。
しかし――、
「パシッ」
キャッチャーファールフライに終わる。
「くっそ――‼」
悔しがるセキズであった。
次は、二番捕手、金子。
(おいおいおいおい)
「ズバーン!」
「ストライーク‼」
(俺の仕事は‼)
「ズバーン!」
「ストライーク‼ ツーストライクナッシング」
(ランナーを送るコト! そのランナーが居なけりゃ、どうしろってんだ⁉)
「ブン!」
「ズバーン!」
「ストライーク‼ バッターアウッ‼」
金子は三振に終わる。
「ツーアウト!」
山田次郎が味方に声掛けをする。
(さて……)
次は、三番一塁手、千葉。
(このバッターは怖いぞ……)
三番、千葉に対して初球、
「ビュン! ズバーン‼」
「ボー‼」
インコースの厳しいボールだった。
(……)
千葉は少し避けるだけで、そうは反応しなかった。
(初球からは振って来ない……か)
山田次郎は考える。
(次は、アウトコース)
外に構える山田次郎。
千葉に対して、
二球目――、
「ビュン!」
(ここから……)
「ググッ」
スライダーだった。
「!」
千葉の身体は反応する。
「ピクッ」
しかし――、
身体は止まる。
「ズバン!」
「ボー、ツーボールナッシング」
「よしよし。いいよ、ピッチャー」
山田次郎はピッチャーに声を掛ける。
(ふー、さて)
千葉を見る山田。
(ボール球は際どいコースでもことごとく見送って行く……ストライクボールで勝負するしか、無いのか……?)
山田は構える。インハイぎりぎりのコースに。
「ん!」
力強くボールを投げ込むタカマサ。
「ビュン!」
構えたところにドンピシャでボールが来る。
(よし!)
安堵する山田。
しかし――、
「キン!」
バットに当ててくる千葉。
「ファーボー‼」
ファールになる。
(ファールにしかならないコース……でも、完璧なタイミングで当てて来た……!)
考え込む山田。遂にはサインを送り、構える。
(しかし、タカマサなら……イケる‼)
インハイぎりぎりから一転、今度はアウトローぎりぎりのところに山田は構える!




