第一節 シゲミの大冒険Ⅱ
第一節 シゲミの大冒険Ⅱ
ある日、シゲミは雲の上にいた。
「ほっ」
そこは晴れ渡る太陽のもとではあるが、空のあちらこちらにある雲よりもシゲミは高く存在していた。
と、言うよりかは雲のすぐ上に立っていたという方が正しいだろうか? シゲミの心は晴れやかだった。
「ほっ」
雲と雲の間からは遥か下に地上が見えていた。シゲミはユーラシア大陸の、中国のやや北の上空へ居た。
「よぃん。あれが万里の長城かのぅ」
シゲミの視力は2.0であったが、それは視力検査の上限が2.0であっただけであり、本当の視力は4.0くらいあった。超人である。万里の長城を正に文字通り高みの見物して、シゲミは上機嫌だった。
「さて……」
万里の長城に飽きたシゲミは次に、ロシアの世界遺産を見るべく、移動し始めた。
「ポフン、ポフン」
雲の上を歩くシゲミ。
「よぃん。よぃん。!」
上機嫌だったシゲミは青ざめた。
(雲の上を歩いている?)
雲は大気中にかたまって浮かぶ水滴である。博識ぶっているシゲミなのでそれくらいは知っていた。
(なぜ私は雲の上を歩いているの? あぅん)
次第に不安になっていく。そして――、
(コレは夢じゃ! 夢に違いない!)
自分が今、夢を見ているコトに気付いた。
瞬間――、
「ズボォッ」
シゲミの片足が雲の中に落ちていった。
「! ! ‼ ⁉」
同時に体ごと落っこちていくシゲミ。
(ゆ……夢ならここで覚める! 夢とは得てしてそういったモノだ‼)
パチッとシゲミは夢から覚め………………
なかった。
「⁉」
シゲミは今回、特殊な夢を見ていた。みるみる地上へと落下していくシゲミ。
「あぅん、よぃん!」
奇声を発しながら風圧に襲われていく。口が変形し、頬がもぎ取れそうな程、風圧を受けていく。
(死ぬる……死んでしまう……!)
死への恐怖が、シゲミを襲う。
「!」
その時、シゲミは走馬灯を見ていた。
松本、若僧、看護婦さん、看護師さん、排便タレオ、バカアキ、タケモト、モリトノリミチ、ヘッドギア先輩、BBA、そして小田谷さん。
それぞれ出会った人々の顔が浮かんでくる。
(南無三!)
そして――、
「ドシャッ‼」
シゲミは強い痛みを感じ、ぐしゃぐしゃになった。
――間もなくして、目を開けるシゲミ。
「う、うーん」
そこは陸上競技場のような場所だった。
「On your mark.」
「!」
「パンッ‼」
「⁉」
ピストルの音が聞こえる。ふと、振り返る。すると――、
「ドドドドドドドド」
50体、いや、100数体のBBAがこちらへ向けて走ってきた。
「! ! ‼ ⁉」
シゲミもそれを見て走り出す。
「あぅん、よぃん!」
50メートル走は9秒台の鈍足、シゲミ。それに対して走ってきたBBAは6.5秒にも迫るスピードだった。
随分と足腰のつええBBAだなぁおい。
「あぅん、よぃん!」
命懸けで走るシゲミしかし、
「ガッ」
追いつかれ、BBAに肩を掴まれる。
「私、jk」
「! ! ‼ ⁉」
またいつもの調子でjkを偽るBBA
「サッ、バリバリバリバリ」
シゲミの服を剥ぎ取るBBA。そして――、
「べろべろべろべろ」
シゲミの身体を舐め回すBBA。
「ハァッ! いやぁああああ‼」
悲鳴を上げるシゲミ。
遂には――、
シゲミの秘部に狙いを定めるBBA。
「べろん」
「! ! ‼ ⁉」
シゲミはブラックアウトした。
……様な気がして目覚めた。
「ハァッ‼」
「ガバッ!!」
「チュンチュンチュン」
小鳥のさえずりが聞こえる、いつもの朝だった。
「ガギィ――ン」
そしていつもの隔離室だった。
「ツカツカツカ」
看護婦さんが来た。
「朝ごはんだよー。ゲミシの旦那ぁー」
少しふざけて見せる。
「BBA……BBAは?」
シゲミは問う。
「(何言ってんだコイツ?)ほら、意味不明なこと言わないで、ごはん食べた食べた」
「ガツガツガツガツガツ!」
シゲミは久しぶりに腹が減っていたのでガツガツとごはんを食べた。その様子を看護婦さんは目撃した。
「! スゴーイ。もう食べたの? 仕方ないなー。今日は特別に、部分開放させてあ・げ・る!」
「あぅん」
シゲミは虚を突かれた様子だった。
「バタン!」
隔離室の扉が開く。シゲミは進んでいった。暫くして、談話室を見つけた。TVが置いてあった。
「胸騒ぎのーおーしり。胸騒ぎのーおーしり」
KYB(くちで言うばー)48がとある歌手の歌をカバーして歌っていた。腰を振っている。まさにその時――、
TVを見ていたおっさんが下半身を出していた。
「⁉」
おっさんはN村鬼殺しだった。N村鬼殺しは急所をしごき始めた。
「‼」
「胸騒ぎのーおーしり。胸騒ぎのーおーしり」
KYB48は依然歌っている。どうやらKYB48の踊りと歌詞に興奮したらしい。
「あ、……アレを……」
シゲミは近くに居た看護師さんに一部始終をチクった。
「何をしているんだ⁉ N村さん!」
「! あ、やべっ」
看護師さんに気付くN村鬼殺し。
「公共の場所でナニをしごくなんて何をしているのかな? N村さん」
少々韻を踏んでいる。誰が上手いコトを言えと?
「へへっ、例えば……」
「何だい?」
N村鬼殺しは何か話をふって来る。
「例えばお前は……」
「お前? お前……だと……?」
看護師さんの癇に障る。
「へへっ、例えばお前は……何だ?」
「何を言ってるのか、サッパリ分からない。ふー、隔離室行きだな」
「行きましょうか?」
看護師さんは2名程集まっていた。
「た、例えば! 例えば‼」
「ハイハイ」
N村鬼殺しは二人の看護師さんに連れていかれた。シゲミは唖然としていた。
(人前で……しごくだと……)
すると、
「バタン」
隔離室行きの廊下の扉が開いた。看護師さんが近付いて来る。
「シゲミさん、お手柄です」
握手を求められた。目頭が熱くなるシゲミ。ここ数年、人に感謝された事があっただろうか? いや、シゲミの人生で、人に感謝された事があっただろうか? シゲミはそっと握手に応える。握手を終え、持ち場に戻る看護師さん。
「ポイントだよ」
「⁉」
実松が現れた。
「ポイントを集めて、ここを出るんだよ」
「! ! ⁉」
実松は更に続ける。
「ホントだよ、嘘じゃないよ」
「コラッ! 実松さん‼」
看護婦さんが現れた。
「変なコト吹き込んじゃあだめでしょ?」
看護婦さんに怒られる実松。
「見たんだよ。嘘じゃないよ、見たんだよ」
「ああ、シゲミさん。無視していいからね?」
「くぅん」
看護婦さんに、なだめられるシゲミ。
「ホントだよ、嘘じゃないよ、見たんだよ」
「いい加減にしないと、隔離室行きだよ⁉」
「…………」
看護婦さんの重い一言で、黙りこくる実松。
「フ――、(やっと黙ったか)シゲミさん、ちょっと」
「?」
シゲミの手を引く看護婦さん。実松と距離を置く。そして看護婦さんは口を開く。
「今日はどうも、ありがとうね」
「ほっ」
上機嫌のシゲミ。
「それから――、」
「?」
シゲミは首を傾げる。
「実松さんの言っていたコト、あんまり気にしないでいいからね?」
「よぃん」
シゲミは納得した様子だった。
「さて、もういいかな?」
「?」
看護婦さんは何か言いたげだった。そして再び口を開く。
「担当の今井先生にね、隔離解除していいか相談するね」
「! ! ‼ ⁉」
今井――。
シゲミの担当医であるが、今まで一度も治療らしい治療を行っていない、ヤブ医者である。その今井が、初めてシゲミの診察をする。どうなるシゲミ‼