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負けイベント(?)

ちょっとタイトル変更を何件か試すかもです。

 炎に包まれた牛頭の有翼巨人──炎獣将軍モーガルバンは、賢者ユアンの後ろに守られるようにして立つ三人の少女の姿を見て、べろりと舌なめずりをする。


「ぐっへへへへ……。帝国兵とかいうゴミどもを楽しく殺しまくってたところを魔王様に呼び戻されたときには、心の中で舌打ちもしたもんだがなぁ。どうしてどうして、勇者ってのは極上の獲物ばかりだ。魔王様から殺すなとは指示されてるが、手出しするなとは言われてねぇ。せいぜいイイ声で泣いてもらうぞ、メスガキども」


「何だって、殺すなと指示された……? どういうことだ? それに、そもそもどうしてお前がここに……!」


 賢者ユアンが問えば、炎獣将軍モーガルバンはまた高らかに笑う。


「グワハハハハハッ! 賢者ユアン! 魔王様は貴様のことを、常々マークして見張っていたのだ! 勇者が召喚されたことも魔王様はすべてお見通しだ! 残念だったなあ!」


「チッ……! まさかあいつが、僕のことをそんなに買いかぶってくれていたとはね」


 賢者ユアンは自嘲気味に笑う。


 一方、その一人と一体のやり取りを見ていた少女たちはというと、いくぶんか緊張感に欠けた様子で内緒話をしていた。

 最初に悪態をつくのは真名だ。


「……駄目じゃん……最初から情報戦で負けてるとか、どんだけ負けスタートなの……」


「……ねぇ真名、これってやっぱりピンチ? 炎上将軍バラバラバン、だっけ? あいつすっごい強そうだよね。あの筋肉とかヤバいよ、人間じゃないよ。しかも燃えてるし、でかいし」


「いや、どう見ても人間ではないからな。それに勇希、あれの名前はバラバラバンではないぞ。確か牛のような……モーモーマンとか何とか」


「……炎獣将軍モーガルバン。でも、名前なんてどうでもいいよ。それより四天王って、普通そんなの最初から出てくる……? お約束の負けイベントとか、いまどき流行らないよ……」


「で、どうなの? ヤバいの?」


「……ヤバい、と思う。……分かんないけど……ユアンも、負けそうな雰囲気だし。……なんか、ボクたちのことは殺さないように指示されてる的なこと言ってたから、ユアンはともかく、ボクたちは殺されはしないんだろうけど……でも、負けたらエロ同人みたいにされそう……」


「えろどうじん? 何だそれは?」


「……神琴は知らなくていい。……むしろ、ボクも知ってたら、本当はヤバいブツ。……今のは聞かなかったことにして」


「何だか分かんないけど、分かんないふりしとくけど、あたしの真名に手ぇ出そうってことならあいつぶっ殺す!」


「……精神論で勝てるならいいんだけどね。……あと、ボクは勇希のものじゃないから」


「で、つまり総合して言うと、どういうことなんだ?」


「……つまり総合して言うと、多分結構ヤバくて、ピンチっぽいっていうこと」


「んじゃあ、とりあえず例のアレになっとく?」


「……そうだね」


「分かった」


「「「──ブレイブ・イグニッション!」」」


 そうして三人がブレイブフォームへの変身を終える。

 すると炎獣将軍モーガルバンが、その大きな鼻からふしゅーっと鼻息を吹いた。


「グハハハハッ! それが貴様らの戦闘モードか! だが大した力は感じんなぁ。魔王様が気にかけるほどのやつらとも思えないが──どぅれ、まとめてひと捻りしてやって、それからお楽しみといこうか、ぐへへ……」


「──待て! 彼女たちに手は出させない! お前の相手はこの僕だ!」


 少女たちへと歩み寄ろうとする炎獣将軍モーガルバンの前に、賢者ユアンが立ちふさがる。

 そして彼は、後ろの勇者たちに向かって叫ぶ。


「キミたちは逃げるんだ! 今のキミたちの力では、こいつには敵わない──僕が時間を稼いでいるうちに、早く! キミたちだけが、この世界の希望なんだ!」


 そう言われれば、真名は──


「……だよねー。……それじゃ、お願い」


 と言って踵を返すのだが。

 彼女は一歩、二歩と進んでそれから、はぁと大きくため息をつく。


「……勇希、神琴……何か言いたそうだね……」


 真名以外の二人の少女は、いまだに踵を返すことなく、賢者ユアンと炎獣将軍モーガルバンのほうを見すえていた。

 真名から見える二人の眼差しには、真剣な色が宿っている。


 勇希が言う。


「……あたしはそういうの、嫌だな。誰かが命を張って逃げろって言ってて、あたしには及ばないにしても戦う力があって──だったら」


 そして、神琴が言う。


「戦いから背を向けるのは恥ではない。しかし、義を見てせざるは勇無きなり──私は今後、そうした汚名を抱えて生きたくはないな」


 その二人の主張を聞いて、真名はその綺麗な髪の上からバリバリと自分の頭を掻いた。

 そして真名は、苛立たしげに叫ぶ。


「んああ~っ! 二人ともヒロイックすぎるよ……! もおおっ、しょうがないなああっ!」


 そして真名もまた、再度前を向き──


「……言っとくけど、ボクは納得してないからね」


「それでも付き合ってくれるんでしょ。真名のそういうとこ、ホント好き」


「不器用ですまん……と言うと、真名には怒られそうだが」


「……そりゃ怒るよ。激おこだよ。……でもお説教は、この場をどうにかできたらの話」


「──では、真名から説教を受けるために、全力でこの場をどうにかしようか」


 三人の少女は「勇者」として、大いなる敵の前に立ったのだった。


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