表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/28

スキル取得、勇者、魔王

「……できた」


 真名が満足げに言う。

 それは彼女が、すべての取得スキルを決め終えた合図だった。


 結局、勇希や神琴はこういったゲーム的な何某かに興味を持つことはなく、真名がほとんど一人で三人分の取得スキルを決めることになった。


 カードの操作自体は本人しかできないようになっていたため、勇希と神琴の分は、真名が二人に張り付いての手取り足取りの指導である。


 真名に密着された勇希は幸せそうに、一方の神琴は見た目淡々と作業をこなした。


 結果、三人のカードに記されたステータスは、このような形になった。



***



名前  勇希

職業  剣士

性別  女

年齢  14歳

レベル 3

HP  56/56

MP  18/18

攻撃力 47(+5)

防御力 26

魔力  8

魔防  14

素早さ 17

残りスキルポイント 0

スキル

 ソードマスタリーⅠ

 攻撃力アップ(new)

 スマッシュ(new)

呪文

 なし

装備

 鉄の剣

 鉄の胸当て

 鉄の小手

所有ジェム 20

ブレイブチャージ 97%



***



名前  神琴

職業  神官

性別  女

年齢  14歳

レベル 3

HP  37/37

MP  28/31

攻撃力 34(+15)

防御力 17

魔力  26

魔防  18

素早さ 14

残りスキルポイント 0

スキル

 フィストマスタリーⅠ(new)

呪文

 ヒール

 キュアポイズン(new)

装備

 神官のローブ

 神官の聖印

所有ジェム 20

ブレイブチャージ 97%



***



名前  真名

職業  魔法使い

性別  女

年齢  14歳

レベル 3

HP  32/32

MP  23/35

攻撃力 9

防御力 11

魔力  40

魔防  20

素早さ 10

残りスキルポイント 0

スキル

 モンスター識別(new)

呪文

 フレイムアロー

 フリーズアロー(new)

装備

 魔法使いの杖

 魔法使いのローブ

 魔法使いの帽子

所有ジェム 20

ブレイブチャージ 97%



***



「……じゃあ、どうしてこのスキルを取ったのか、一つずつ説明するね」


 全員のカードを並べて、真名は嬉しそうに説明を始めようとする。


 それを察知して、勇希は興味なさそうに耳をほじり、神琴は瞑想するようにまぶたを閉じて腕組みをしたが、真名がそれに構うことはなく──


「まずボクのスキルだけどやっぱりモンスター識別は大事だと思った必要スキルポイントが2ポイントっていうのは重いけどそれでもやっぱこれは必須かなってそれからフリーズアローを取ったのはフレイムアローだけだと火属性に耐性を持った敵が出てきたときにまずいから逆にこの二つ持っていれば大抵の敵には対処できるだろうしサンダーアローの優先度は低いと思うスリープとかブラインドフォッグって要は眠りと暗闇を与える呪文でこれもあったらほしいけど優先順位はまず炎氷の両属性を押さえることだと思うんだステータスアップ系はボクはまだ取れる余裕ないから後回しそれで勇希だけどこれは分かりやすいよね剣士だから攻撃特化で2ポイントで取れる攻撃力アップⅠと1ポイントで取れるスマッシュスマッシュはMPを使って強力な攻撃を放つスキルブランディッシュっていう範囲攻撃スキルもあったけどこれはボクが三体同時攻撃のフレイムアローフリーズアローを持っているしひとまず一掃攻撃系はなくていいかなって攻撃力アップはさほど劇的な効果はないかもだけど将来的にも無駄にならないのがいいよねとりあえず取っておいて絶対損しない最後に神琴だけどまずは解毒のキュアポイズンこれは1ポイントで取れるし毒って大抵ヤバいから対策スキルは最優先で取っておいた方がいいと思ってそれより目玉はフィストマスタリーの方これは素手攻撃の攻撃力を上げるスキルで攻撃力+15っていうすごい劇的な効果でほかのマスタリースキルと明らかに性能が違うんだよねほかのマスタリースキルのⅠは一律攻撃力+5なんだよ何でかって考えたんだけど多分これ素手攻撃は武器がないんだと思うんだだから武器の攻撃力が足されないで素の攻撃力だけで戦わなきゃいけないからその代わりにマスタリースキルの効果がこれだけ劇的なんだと思うそれってつまり多分武器を使っての攻撃よりは攻撃力で劣ると思うんだけどそもそも素手攻撃が得意な神琴には向いてるし逆を返せば武器を強化するのにジェムを使わなくていいっていうことでその分ほかにジェムを回せると考えると悪くないと思うんだていうかそもそもどうして神官のスキルにフィストマスタリーがあるのかって多分将来的にモンクへの派生だと思うんだよねだから神琴にはうってつけだと思うんだ。……はぁっ、はぁっ」


 まくしたてるように一気にしゃべった真名は、そこで荒く息をついた。


 それを見た勇希が、小指の上に取れた耳クソをふっと息で飛ばしてから、真名に聞く。


「──あー、真名、話終わった?」


「……う、うん。……ねぇ、勇希たち、ひどくない?」


「だって、聞いても分かんないもん。ねぇ神琴?」


「そうだな。──では、終わったなら本題に戻ろう」


 神琴はそう言って、蚊帳の外に置かれていた賢者の少年の方を向く。

 そして彼に向かって問う。


「賢者ユアン──たしか私たちには、使命があるという話だったな。そのあたりを聞かせてもらおう」


 対する賢者ユアンはというと、その顔にはそろそろ苦笑が張り付いてきたようだった。

 彼はそれでもめげずに、言葉を発する。


「うん。マナさん、ユウキさん、ミコトさん──キミたち三人は、この世界を征服し支配しようともくろむ『魔王』を倒すためにこの世界に召喚された、たった三人の『勇者』たちなんだ」


 その言葉を聞いた真名が、一気にテンションが削がれたという様子を見せる。


「……あー、やっぱりそうなんだ。……うっすらそんな気はしていたけど、私たちは勇者で、やることは魔王退治か……めんどくさそう……」


 一方で勇希は、その真名を不思議そうな目で見つめる。


「真名、どうして魔王退治は嫌なの? 燃えるシチュエーションだと思うけど。こういう、ファンタジーっていうの? こういうので『勇者』と『魔王』ってすっごく王道なんだと思ってたけど……違うの?」


 そう疑問をぶつける勇希に、真名は心底めんどくさそうな目を見せてから、分かってないなぁというように頭を振る。


「……勇希。魔王を退治しなきゃいけないってことはね、ボクたちに自由はないってことなんだ。……ボクたちは敷かれたレールの上を、決められたとおりに歩かなきゃいけない」


「へ、へぇー、そうなんだ。……なんか、進路の話みたいになってきたね」


「……そういうことだよ。……そういうことなんだよ、勇希」


 悟ったように遠い目をする真名。


 なお、勇希も神琴もこの瞬間に限っては「こいつめんどくさっ」と思っていた。


 親友だからとて、あるいは愛する者だからとて、いついかなるときでもそのすべてが愛おしいというわけではないのだった。


 そして、こういうときはポジティブを旨とする勇希の出番だ。

 彼女はこほんと一つ咳払いをする。


「まあでも、それって前向きに考えれば、やることがはっきりしてて分かりやすくていいよねっ」


 それを聞いた真名は、とても優しげな慈愛に満ちた表情を浮かべ、勇希の前までとてとてと歩いていくと、背伸びをして剣士の少女の頭をなでる。


「……勇希はボクと違って、前向きに育ったんだね。いい子いい子」


「はうっ、小っちゃい真名に頭なでられてる! 感無量!」


「……小っちゃい言うな」


「ぁ痛たっ。でも可愛いっ、真名、大好きっ」


「あーうー、抱きつくなー」


 真名が勇希のすねを蹴っとばしたり、勇希が真名をぎゅっと抱きしめたり。

 それを見た神琴が、一つ大きくため息をつく。


「話が進まないからコントはまたにしてくれ。……それよりも賢者ユアン、もう一つ聞きたいことがある」


「あ、うん、何かな」


「──私たちは、どうやったら元の世界に戻れるんだ?」


 その神琴の問いかけを聞いて、真名を抱きしめて頬ずりしていた勇希も、頬ずりされながら形だけじたばたしていた真名も、揃って神妙な面持ちになる。


 賢者ユアンは、少し言いにくそうにしながらこう答えた。


「……キミたち『勇者』は、『魔王』を討伐しないと、元の世界には戻れない」


「…………。……そっか」


 次に口を開いたのは真名だった。


 彼女は勇希の腕の中からもぞっと抜け出すと、勇希と神琴の前でくるりと振り返り、笑顔でこう言った。


「……それじゃ行こうか、魔王退治。きっと二人となら、どんな旅だって楽しいよ」


 それに勇希と神琴も、それぞれ思い思いの笑顔で返す。


「うん、そうだね。真名や神琴と一緒だったら、たとえ火の中水の底!」


「ああ。私も折角だから、この異世界とやらで武道の実践訓練を積ませてもらおう」


「あ、いいねそれ! あたしも一個腕を上げて帰るぞー!」


「……でも、いくら何でも、火の中と水の底は嫌だなぁ……」


 三人の少女たちはそうキャイキャイと話しながら、歩み始める。


 その様子を見て、賢者ユアンは手を胸にあて、その表情に暗い影を落としていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ