変身エネルギー、最後の防壁
投稿ペースを考えずに書き上がったそばから投稿していくので、特に断りなく一日に複数回更新もあるかもしれません。
ほくほく顔でジェムを全部拾い集め終えた真名は、賢者ユアンにもう一つの疑問をぶつける。
「こっちの、『ブレイブチャージ』っていうのは……? 今『97%』ってなってるけど」
真名から問われた少年は、相も変わらず柔らかな笑顔で答える。
「それはブレイブフォームを維持するための残りエネルギーだね。97%残っていたら、およそ九十七分間、ブレイブフォームを稼働できる」
「1%で一分……分かった。『ブレイブフォーム』っていうのは、さっきの変身しているときの姿だよね……? 時間制限があるんだ」
「そういうこと。のみ込みが早くて助かるよ。──でも、注意点がひとつある」
「……注意点?」
真名が首をかしげると、賢者の少年は少しだけ真面目な顔をして言う。
「うん。……ブレイブフォームは、キミたちの身を様々なダメージから守ってくれる。ブレイブフォームが解けない限り、どんなに強力な攻撃を受けても、キミたちはそう易々とは死んだりしない。だけど──」
そこに真名が口を挟む。
「……だけど、変身が解けてしまったら、ボクたちは生身の人間」
「そう。そしてブレイブチャージは、キミたちの身を守る最後の防壁でもある。キミたちは、もしHPがゼロになっても、すぐには死んだりしないし、ただちにブレイブフォームが解除されるわけでもない。でもそれ以後に受けたダメージは、ブレイブチャージを削る」
「えっと……HPがゼロの状態でダメージを受けると、ブレイブチャージが減る……?」
真名の確認の質問に、賢者ユアンはしっかりとうなずく。
「そういうこと。そしてブレイブチャージまでもが削り切られたら、強制的にブレイブフォームが解除される」
「……ブレイブチャージは、回復はできないの?」
「ブレイブフォーム解除状態──つまり普段のカード状態にしておけば、ブレイブチャージは時間経過で自然回復するよ。だいたい十四、五分に1%のペースだね」
「……一日が千四百四十分だから、一日変身しないでいれば100%全快する」
「キミは本当にのみ込みが早いね。賢者の才能があるよ」
「……そんなことない。慣れてるだけ」
そう言って、真名は首をふるふると横に振った。
なお、二人がそうトントン拍子で話を進める横では、勇希と神琴の二人が、
「なんかあの二人、お経みたいにつらつらと話してるよね。なむみょーほうれんげーきょー、みたいな?」
「あるいは、『ぷろぐらみんぐ言語』などといったものは、あんな感じなのかもしれないな」
「それはちょっと……ううん、だいぶ違う気がするよ神琴」
「……それを言うなら、勇希のお経というのも全然違うだろう」
などと、まったく要領をえない話をしていた。
授業参観に来ている父兄よりも他人事であった。
一方の真名は、ほぅと一息をつく。
「ん……だいたい理解した。あとは触って確かめる」
そう言って、少女は自分のカードを弄りはじめた。
そこに勇希が寄り添って、茶々を入れる。
「真名って、そういうのやってるときホントいい顔するよね。あんまり可愛いから食べちゃいたくなるぐらい」
「ん……食べちゃってもいいよ。……おいしく頂いちゃって」
「え、ホント? いいの? じゅるり」
「……お前たちはときどき、とても危険な会話をするな。それは友人の会話としてどうなんだ? ……あと真名、お前は今ゲームに夢中で、自分が何を話しているのかほとんど理解していないだろう?」
神琴があきれ顔でツッコミを入れると、真名はカードに視線を釘付けにしながら、こくこくとうなずいた。
一方の勇希は、今度は神琴のほうに歩み寄って身を寄せると、凛々しい親友の顔をのぞき込む。
「えへへー。何なら神琴も、あたしとこういう会話する? 楽しいよ?」
「い、いや……私は、そういうのはいい」
「えー、頬を赤らめて、まんざらでもないって顔してるよ?」
「き、気のせいだ! 私がお前たちに持っているのは……その、普通の友人感情だけだ……」
「んっふふー、そういうことにしておきまぁす♪」
顔を真っ赤にして小さくなった神琴を、にこにこと見つめる勇希。
勇希の友人への愛もまた、相当に屈折していた。
そして賢者ユアンはというと、そんな三人の様子を見て苦笑する。
「えっと……キミたちの使命とかについても話したかったんだけど、ひとまずそこの……マナちゃん? 彼女が納得して操作を終えるまで待とうか」
それに対しては、自分の世界に入ってしまった真名に代わって、勇希が答える。
「うん。そうしてくれると嬉しいな。あとそこな美少年、一つだけいいかな? ──あたしの可愛い真名を気安くちゃん付けで呼んだりしているけど、真名に手ぇ出したらキミ、殺すからね」
後半部を、暗黒神もかくやという表情で、ドスを効かせた声で言う勇希。
賢者ユアンは、少し困ったという様子の笑顔で答える。
「そ、それは大丈夫。あと、マナさんって呼ぶことにするよ」
「……勇希の言うことは気にしなくていい。別にボクは勇希のものってわけじゃない」
依然としてカードの操作に夢中になりながら、虚ろに言葉を投げかける真名。
そんな真名に「えー、冷たいよ真名ー」などと言いつつ、ちゃっかりと背後から抱きついて絡みつく勇希。
その二人の様子を、頭が痛いという様子で額に手をあてて見守る神琴。
「だ、大丈夫だろうか、この三人で……」
そんな三人の少女を見て、賢者ユアンは一抹の不安を覚えるのであった。