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激突! 三人の乙女勇者 v.s. 鳥人空将ファルコニル

「くくくっ……どれ、その顔を私に見せてみたまえ」


 鳥人空将ファルコニルの前に引っ立てられた、三人の美しい少女たち。


 その真ん中にいる、最も小柄な一人の前へとファルコニルは歩み寄り、少女の顎に手をかけようとする。


 ガルーダ族の中でもとりわけ大柄で、力のある存在である鳥人空将ファルコニル。

 その威容に迫られ、少女たちに為すすべはないように思えた。


 だが──


 ファルコニルが最初に目をつけた、最も小柄な少女。

 彼女はガルーダ族に取り押さえられ、うつむいたまま、その口元をほころばせる。


 そして、彼女はつぶやく。


「──ブレイブ・イグニッション」


 すると、その少女の全身がまばゆく光り輝きはじめた。


「ぐぉっ! なんだ、この光は……!」


 彼女を捕えていたガルーダ族が、まぶしさにのけぞる。


 別の少女たちを取り押さえているガルーダ族も、またファルコニルすらも、その様子に驚きを隠せない。


 そして、一瞬の後──パン、と光が弾けた。


 キラキラと光の粒子を周囲にきらめかせながら、新たな少女の姿が現れる。

 魔法使いのローブに三角帽子、それに杖といった出で立ち。


 ちなみにだが、その装備は彼女──真名が炎獣将軍モーガルバンと戦っていた頃の当初のものとは、似ていながらもやや異なっている。


 より高級感のある魔法素材が使われ、随所にきらびやかな装飾があしらわれている。

 もちろん見た目だけでなく、魔力補正や防御力といった実質効果にも優れた新装備だ。


 そして──真名は立ち上がる。

 まるで、彼女を取り押さえているガルーダ族など、歯牙にもかけぬというように。


「なっ……!? なんだ、この力は……!?」


「……ボクは魔法使いだけど、このぐらいレベル差があればね。……よいしょっと」


「のわっ……!? うぉおおおおおおっ──ぐげぇっ」


 真名は自分を取り押さえていたガルーダ族の腕をつかむと、一本背負いの要領でそいつを地面に投げつけた。


 そのガルーダ族は背中から地面に打ちつけられ、潰れた蛙のような声をあげる。


 さらに──


「「──ブレイブ・イグニッション!」」


 残る二人の少女──神琴と勇希からも、変身の呪文が紡がれる。


 彼女らもまた全身を輝かせ、各々の新しい勇者装備に身を包むと、自分を取り押さえていたガルーダ族を軽く振りほどいて始末した。


 そして彼女らは、真名のもとへと歩み寄り、並び立つ。


「やれやれ。捕まえられたふりというのも、大変なものだな」


「いやぁ、あたしの名演技が効いたね。こいつらまるで気付いてなかったよ」


「……や、こいつらがバカすぎただけだし。……でもおかげで、面倒がなくて済む」


 全身から神々しいまでの燐光を放ち、美しくも勇ましい装備に身を包んだ三人の少女。


 その姿を前にして、鳥人空将ファルコニルは──

 しかし気圧されることなく、高らかに笑った。


「ふっ……くくくくくっ……ふははははははっ! そうか、分かったぞ! お前たちが魔王様の言っていた『勇者』とやらか! ──素晴らしい! 素晴らしいぞ! 私に蹂躙されるにふさわしい美しさ、そして強さだ!」


 ──バサッ、バサッ!


 鳥人空将ファルコニルは、その背の翼を羽ばたかせ、宙へと舞い上がる。


 大ホールを思わせる謁見の間の天井は高いが、ファルコニルはすぐにその天井近くまで高々と浮かび上がった。


「ハハハハッ! モーガルバンを倒して自信をつけたようだけど、この鳥人空将ファルコニルをあんな雑魚と一緒にしてもらっては困るな! 速さこそ強さ! スピードこそパワー! ──さあ美しい乙女たちよ、その全身をずたずたに切り裂かれたまえ!」


 ファルコニルが再びその背の翼を羽ばたくと、そこから無数の風の刃が生まれ、それらが一斉に少女たちへと襲い掛かった。


「「「くぅっ……!」」」


 一瞬で降り注いできた刃の雨に、回避は間に合わない。


 少女たちは両腕で顔をガードし、致命傷を避ける。

 だが二の腕や太もも、腹部や頬などを次々と切り裂かれる。


 新装備による高い魔法防御力のおかげで大ダメージにはならなかったが、少女たちはその身のあちこちに軽い裂傷を負っていた。


「痛ててっ。──くっそぉーっ! こらーっ、降りてこい、卑怯だぞ! 速さに自信があるなら正々堂々と地面で戦え!」


「と言って、大人しく降りてくるような相手でもなさそうだが」


「……ま、引きずり下ろすしかないよね」


 真名はそう言って、杖を掲げて魔力を高める。

 そして──


「──サンダーアロー」


 バヂッ、バヂッ、バヂヂッ!

 三条の稲妻の矢を放った。


 仰天したのは、その稲妻のターゲットであるファルコニルだ。


「──っ!?」


 とっさに回避運動をとろうとするも、稲妻のあまりの速さにそれも完全には追いつかない。

 自慢のスピードで二発はどうにか回避したが、一発の稲妻が片翼に命中した。


「ぐあっ……! ば、バカな……この私のスピードに、太刀打ちできるとでもいうのか。……それに、この威力……! サンダーアローの──下級呪文のうちの、たった一発だぞ……!?」


 ファルコニルは空中でバランスを失いながらも、どうにか飛行姿勢を維持していた。

 一撃で重傷を負ったわけではないが、無視できるダメージでもないという様子。


 一方、その魔法を撃った側はというと。


「……むっ、二発よけられた。……さすがに魔王軍四天王の最弱じゃないやつ、少し手ごわい」


「モーモーさんよりちょっと強い? ていうか空飛んでるの卑怯!」


「そんなところのようだな。新装備のおかげで大したダメージは受けていないが、一応ヒールはかけておくか」


「……うん、そうだね、ちょっとだけ痛いし。……HP低めのボクからもらってもいい?」


「どーぞどーぞ。あ、神琴、あたしにヒールかけるときは口移しでお願いね」


「残念ながら、そんなヒールはない」


「……残念ながら?」


「そ、そういう意味ではない!」


「ふぅん、じゃあどういう意味なのかなぁ~?」


「──ひゃわあっ! ば、バカ、勇希、戦闘中だぞ! 蛇のように絡みついてくるな!」


 などと、相変わらず緊張感のない様子だった。


 それを見たファルコニルは、全身を殺気立たせ、怒りの形相を浮かべる。


「……おのれ小娘ども、私を侮るのか! ……よかろう、その身を一人ずつ串刺しにして、後悔させてやる! ──来い、剛空槍ごうくうそうウィンディル!」


 ファルコニルが右手を伸ばすと、その手の前にファルコニルの身の丈をも超える長さの、一振りの大槍が現れる。


 鳥人空将はその槍をしっかりとつかみ取ると、次にはその足で空を蹴った。


 右に、左に、前に、後ろに、下に、上に。

 ガルーダ族の長の巨体が、まるで空中に足場があるかのように、縦横無尽に宙を駆け巡る。


「はははははははっ! どうだ、我がスキル、蹴空瞬歩しゅうくうしゅんぽは! 目で動きを追うことも敵うまい! ──さあ、まずは先ほどから卑怯だの何だのと言っている、貴様から貫いてやろう!」


 ファルコニルは空を蹴り、少女たちを翻弄するように周囲を飛び回りながら、まずは一人の少女に狙いを定める。


 最初の狙いは、あの舐めた真似をしている剣士姿の少女だ。


 あの生意気な小娘が自らの剛槍で串刺しになった姿を想像し、ファルコニルは思わず舌なめずりをする。


 彼は風のように空中を跳び回って、最後には少女の背後から襲い掛かった。


 ファルコニルの目には、情景がスローモーションのように映っていた。

 一秒を十分の一ずつ刻んだような、そんな時間感覚。


 ファルコニルは右手の剛槍を構える。


 背中からひと突き──それで終わりだ。

 剛空槍ウィンディルの攻撃力は、風の刃のそれの比ではない。


「小娘ぇっ! お前の望み通りの接近戦だ──死ねぇっ!」


 何者よりも速く、その身は風のように。

 ファルコニルは空を駆け、槍を突き出し──


「──ありがと。待ってたよ」


 スッと、少女が横に動いた。

 剣士姿の少女の残像を貫くようにして、剛空槍ウィンディルが空を切る。


「は……?」


 ファルコニルの巨体が、少女──勇希の横を無防備に通り過ぎる。

 そこに──


 ──キィンッ!


 交叉タイミングに合わせて、勇希の剣が閃いた。


 彼女が手にした剣も、この世界で初めて変身したときに持っていたものとは違う、新調されたより攻撃力の高い武器だ。


 そのせいもあってか、ファルコニルの胴が大きく断ち切られる。

 真っ二つとまではいかないが、明らかな大ダメージ。


「ぐわあああああっ!」


 その予想外のダメージに戸惑い、ファルコニルは地面に墜落した。

 鳥人空将は無様に地べたを這う。


「ば、バカな……なぜ……反応できる……!?」


 その疑問に答えるのは、彼の前で彼を見下ろすように立った、眠たそうな目をした魔法使い姿の少女だ。


「……別に、普通。……鳥人空将ファルコニル。素早さ90。……モーガルバンが素早さ50だったから、確かに速いよね。……でも、勇希の素早さは121あるから、そういうこと。……一番遅いボクを狙ったら、当てることぐらいはできてたと思うよ。……じゃあね」


「バカな、バカな、バカな……! 魔王軍四天王最速のこの私が、この私が──ぐわあああああああっ!」


 鳥人空将ファルコニルは、その後の少女たちの総攻撃によって撃沈し、消え去ってジェムとなった。


 神琴がその宝石を拾い上げ、真名に渡しながら言う。


「ふむ……これでは弱い者いじめのようだが」


「……いいんだよ。……もう、最初のモーモーさんのときみたいな嫌な想い、したくないし。……ちょうどいいを求めたって、実際倒すのには変わりないし」


「ま、いいんじゃない? それよりさ、このお城の地下に捕まってるっていう村の人たち、早く助けに行こうよ」


「……そだね。……あ」


「どうした、真名?」


「……どうやって帰ろう。……対空砲撃めんどくさいから、捕まったふりして来たけど、帰りのこと考えてなかった」


「ちょっとーっ!? 真名参謀!」


 結局その後、あちこち探索して回った結果としてガルーディア島の制御装置を見つけた三人は、捕らえられていた村人たちともども、大地へと帰還したのだった。


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