捕らわれました?
勇者姿に変身した少女たちは、手分けをして村じゅうのガルーダ族を退治して回った。
そうして、しばらくした頃──
「クケーケッケッケ! まったく、手こずらせやがってよぉ」
「だがあの妙な力も、ようやく打ち止めのようだなぁ」
「さあ、どういたぶってくれようか。クケケケケッ!」
村外れの無人の小屋の前。
五体のガルーダ族が三人の少女を取り囲み、そのワシ顔にニヤニヤと下卑た笑いを浮かべていた。
小屋の前に追い詰められた真名、勇希、神琴の三人は、今やいずれも変身が解除され、無力な制服姿だ。
じりじりと近付いてくるガルーダ族。
少女たちは互いに抱き合って、近寄ってくるガルーダ族の男たちに怯えるような顔をしていた。
「……くっ。……どうして、こんなことに」
「こ、こんなに早く、変身が解けるなんてー」
「な、なんということだ。こうなっては、手も足も出ない」
「……二人とも、もうちょっと頑張って」
「う、うわぁん、怖いよぉ。真名、神琴、あたし怖いよぉ。だから今だけでもそのぬくもりをもっと感じさせて。ぎゅううううっ」
「ゆ、勇希! そういうのは真名の台本になかっただろう! ば、ばかっ! どこを触っている!」
「……だから二人とも、もうちょっと頑張ってってば」
少女たちは、ガルーダ族の男たちに怯えるような顔を、どうにかギリギリかろうじてしているように見えなくもなかった。
だがガルーダ族の男たちは、細かいことは気にしなかった。
目の前で抱き合う極上の美少女たちに舌なめずりをし、構うことなく彼女らを捕まえる。
「クケケケケッ。今すぐ食べちまいたいところだが、捕まえた獲物はまずファルコニル様に献上することになっているんでなぁ」
「だがファルコニル様は話の分かるお方だ。ご自分が味わった後は、俺たちの好きにさせてくれるんだぜぇ。この柔らかい肌、楽しみだぜ、クケケケケッ」
「……は、放せ、よっ」
「くっ……この、下衆どもめ……!」
「ああーっ! お前ら真名や神琴に変な触り方してみろ! ただじゃおかないからな!」
「……勇希、ちゃんとやらなかったら、三日間絶交。……口も聞かない」
「えっ」
捕えられた少女たちは、どうにか抵抗しようとしたり、自分を捕まえている者たちを嫌悪の表情とともに睨みつけたり、仲間に叱られたりしていた。
だがそんな少女たちも、やがて翼を羽ばたかせるガルーダ族に持ち上げられて、宙に浮かされることになる。
「あーれー、たーすーけーてー」
「……勇希に人並みの演技を期待したのが、そもそも間違いだったか」
「だがこれで、こいつらのアジトに連れていかれれば」
神琴の小さな声に、真名がこくんとうなずく。
そして少女たちは、ガルーダ族に捕まえられて大空を飛んでいくのだった。
***
それからしばらく後の、別の場所。
移動式空中要塞ガルーディア島は、真名たちがいた村から少し離れた上空を、ゆっくりと移動していた。
ガルーディア島は、ガルーダ族たちの本拠地だ。
その守りは鉄壁。
空中要塞であるゆえに、空を飛ぶ力を持たぬものは侵入さえかなわない。
しかも対地、および対空迎撃用の大砲まで備えていて、飛行能力を持った者すら撃墜する。
飛行魔術を扱う魔法使いや、飛行能力を持った魔獣を操る魔獣使いでも、数を揃えなければ攻め入ることは難しいのだ。
そんなガルーディア島に築かれた城の最上階、謁見の間。
赤い絨毯が敷かれた広間の奥にある玉座には、ガルーダ族の長が片ひじをつき、横柄な態度で座っていた。
鳥人空将ファルコニル、そのひとである。
その風貌は普通のガルーダ族と変わらぬオオワシと人間とを掛け合わせたような姿だが、ワシの毛並みは金色で、体格も普通のガルーダ族と比べるとはるかに大きい。
と、その謁見の間に、一体のガルーダ族が入ってくる。
そのガルーダ族はファルコニルの前まで来て片膝をつくと、頭を低くして族長に報告をした。
「ファルコニル様。村へ略奪をしに行った者たちより、美しい人間の娘を三人、捕まえてきたとの報告がありました」
報告を受けた鳥人空将ファルコニルは、その誇り高きくちばしをピクリと震わせる。
「……ほぅ。たしか今日略奪に行った村には、もう若い娘はいないという話だったかと思うけど」
ファルコニルの口から出る声は、優男の美声だ。
その美しい声に恐れ入りながらも、部下のガルーダ族は答える。
「はっ。以前に村を襲ったとき村人どもはそのように言っていたのですが、このたび念のために探索しなおしたところ、その娘たちを発見したとの報告です」
「なるほど……。つまりその村人たちは、嘘をついていたということだね。やれやれ、嘘はいけないな。仕方がない、心は痛むが、その村の人間たちは八つ裂きにして皆殺しにしよう。嘘つきをのさばらせておいてはいけないからね」
「はっ、承知しました。──ところでファルコニル様。捕らえた娘たちはいかがいたしましょう? 村へ行った者たちから、少々気になる報告があったのですが」
「気になる報告? 何だい、言ってみたまえ」
「はっ。それが、その──その娘たちが最初は恐ろしい力を持っていて、我らが同胞を何人も打ち倒したのだと」
「……なんだって? うら若き人間の娘たちが、我らガルーダ族の猛者たちを上回る力を持っていたと、そう言うのかい?」
「ははっ、恐れながらそのとおりの報告でございました。しかしながらその娘たち、今やその力も底を尽き、無力な小娘も同然とのこと」
「そうか、それは面白いね。……くくくっ、実に面白い。つまりその小娘たちは、我らガルーダ族の同胞ひとりひとりよりも強いが、多数の同胞を相手にすれば力及ばない程度の実力──そういうことだね?」
「はっ。……あー、いえ、どうでしょう。そういう意味ではなかったような……」
だがこの部下の言葉を、ファルコニルはちゃんと理解しようとはしなかった。
高慢な彼には、自分の中で結論が出ると、他人の意見を聞かなくなる癖があった。
「くくくっ……いいね。私はそういう美しく強い小娘をなぶるのが大好きなんだ。よし、三人ともすぐにここに連れてきたまえ」
「はっ。で、ですが、大丈夫でしょうか?」
その部下の言葉に、ファルコニルはスッと目を細める。
「……大丈夫って、何がだい? その娘たちの力がすでに底をついていると言ったのはお前じゃないか。──だいたいね、私が、この鳥人空将ファルコニルが、そんな小娘たちを相手に後れを取る可能性があるとでも言うのかい? 私が穏やかに話しているうちに、さっさと娘たちを連れてきた方がいいんじゃないかな」
ファルコニルがその身に漆黒のオーラをまとわせると、部下のガルーダ族はびくりと震えた。
──圧倒的な力。
他のガルーダ族の同胞とは決定的に格の違う、驚異的なパワー。
「は、ははっ! で、出過ぎた真似をいたしました! ただちに連れてまいります!」
「そう、それでいいんだよ。なるべく早く頼むよ。私はもう、その娘たちを今すぐ踏みにじってやりたくて仕方がないんだ」
「ひ、ひぃっ! ししし、しばしだけお待ちを!」
部下のガルーダ族は、逃げるように謁見の間から出ていった。
──それから、しばらく後。
三体のガルーダ族に引っ立てられた美しい少女たちが、謁見の間に姿を現した。
一人はボーイッシュな顔立ちの、黒髪ショートカットの少女。
一人は凛とした姿の、黒髪ポニーテイルの少女。
一人はやる気のなさそうな表情の、とりわけ小柄で童顔な少女。
見慣れない衣服に身を包んだ少女たちは、一様にうつむいていたが──
それを見たファルコニルは、悦びに目を輝かせる。
「ほっ、ほほっ……! こ、これはこれは……! 極上の中の極上ではないか。素晴らしい、素晴らしいぞ……!」
そう言って、一歩、また一歩と、吸い寄せられるように少女たちへと歩み寄るファルコニル。
だが、このとき彼は気付いていなかった。
彼の獲物であるはずのうつむいた少女たちが、その口元に笑みを浮かべていることに──




