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棚ぼた

 神琴がグリフォンを完全に手懐け、真名と勇希の二人も合流した頃。


 呆然としていた荷馬車周辺の男たちが、ようやく我を取り戻した。


 戦士たちのうちの一人が、グリフォンに負わされた怪我をかばいながら、神琴に向かって声をあげる。


「助かったよお嬢ちゃん、ありがとう。……それにしてもキミたちは何者なんだ? その美しくも神々しい姿……天使、いや、女神なのか?」


「いえ、私たちは勇者というものらしいです。そんなことより怪我を治さないと。じっとしていてください──ヒール!」


 神琴が大怪我をしている戦士のもとに歩み寄り、その患部に手をあてて力ある言葉を唱える。

 少女の手から暖かな光が生まれ、それが戦士の傷をみるみるうちに癒した。


「おおっ、これほどの重傷を一瞬で……! 神殿の大司教の治癒魔法でも、たやすくは癒せないだろうに」


 傷を癒された戦士は感動の声をあげる。


 さらに神琴は、倒れている戦士の前へも行ってひざまずき、治癒魔法をかけた。


 こちらは意識を失っており、ただちに目を覚ますことはなかったが、それでも負っていた傷は完治された。

 命に別状はないようだ。


 その様子を見ていた戦士たちが、再び感動する。


 一方、それを横で見ていた勇希と真名はというと──


「あたしたち、まるで女神みたいだって」


「……しょうがないね。……ボクはともかく、神琴も勇希も、綺麗だし」


「どーしてそうやって自分だけ外そうとするかな真名は。鏡見たことないの? この絶世の美少女め」


「……それは、いくらなんでも、ひいき目」


「それはあるかもね。あたしは真名に恋してるから、真名のことがほかの誰よりも綺麗に見えるよ」


「……バカ。……どうしてそういうこと、さらっと言うかな」


「んあー、真名は最高にかぁいいなぁ。なでなで~」


 だいたいこの二人の会話が始まると、最後には真名が茹でダコのように真っ赤になって終わるのが最近の定番であった。


 そうやってひととおりの戦後処理が終わると、襲われていた男たちはあらためて神琴たちに感謝の言葉を述べる。


「本当にありがとう、可愛い勇者さんたち。何とお礼を言えばいいのか。俺たちは旅商人の旦那に雇われた護衛だったんだが、グリフォンなんて出られた日にはさすがにもうダメかと思ったよ。──ほら、旦那も大丈夫か」


 戦士が腰を抜かしていた商人らしき太っちょに手を貸すと、太っちょはその手を取ってようやく立ち上がる。


「あ痛たた……わしからも礼を言うぞ。ありがとう。──そうだ、これは命を救ってくれたことに対するほんのお礼だ。受け取ってくれ」


 そう言って太っちょ商人は、懐から巾着袋を一つ取り出し、三人に向かって差し出してくる。


 真名が受け取って中を見ると、そこには炎獣将軍モーガルバンを倒したときに落ちたような、あるいはそれ以上の大振りのジェムが、ごろごろとたくさん詰まっていた。


 真名は太っちょ商人を見上げて聞く。


「……これ、結構高額なんじゃ」


「なぁに、ほんの3万ジェムほどだ。命を救ってもらったにしては安すぎるぐらいだ。遠慮なく受け取ってくれ」


「……えっと、1ジェムが三千円とすると……うわぁ、目の回るような金額」


「はっはっは、わしはこのとおり太っ腹だからな。それに、そのジェムで強い装備を手に入れて魔王を倒してくれるなら、わしらだって助かるんだ」


 太っちょ商人は、そう言ってぽーんと自分の出っ張ったお腹を叩いて笑う。

 気持ちのいい太っちょだった。


「……じゃあ、遠慮なく。……なんだろう、このすごい棚ぼた感」


 そして太っちょ商人と護衛の戦士たちは、少女たちに再三のお礼を言うと、荷馬車とともに手を振って立ち去っていった。

 それに手を振って見送る真名たち。


「……ちょっと、武器の値段とか、見てみる」


 真名は一度変身を解くと、カードにジェムを入れて金額を確かめつつ、カードの操作を始める。


「……全部で3万1500ジェム……これだけあると、リスト内で一番強い武器とか防具も結構買えるね。……ボクの装備だと、精霊のローブ4500ジェムが、防御力・魔法防御ともに+30とか。……これ、結構ウハウハかも」


 そうやって真名がカードの操作に夢中になっていると、そこにグリフォンを従えた神琴がやってきた。


 真名はそれをちらと見上げ、またカードに視線を落とす。


「……今は、変身してないから、抱きついたりしないでね。……ボク、死んじゃう」


「何の話だ? 勇希でもあるまいに、私はそんなことはしないが。ところで真名、ここから目的地まではどのぐらいかかるんだ?」


「……ん、それもそうか。……転職の神殿までは、ここから歩いて、三日ぐらいのはず。……変身姿で走っていけば、もっと早く行けるかもだけど、疲れるよね」


「そうか。だったらこいつが乗せて飛んでいってくれるというのだが、どうだろう?」


「……え、それ本当?」


 真名が視線を上げる。

 その視線の先では、神琴がグリフォンをなでるように手を置いていた。


「ああ。私たちぐらいの体重なら、三人乗せても問題ないそうだ」


「……うわぁ、それは計算外。……嬉しい誤算」


「え、なになに、その子に乗って空飛んでいけるの? 何それ、すっごいテンション上がるんだけど!」


 勇希も話に混ざってくれば、鼻高々といった様子の神琴。


「ふふん、そうだろうそうだろう。やはりこの【ビーストテイマー】のスキルは取って正解だったな」


「……まぁ、スキルポイント4ポイントに見合うかは、まだアレだけど」


「もう、そうやってすぐ数字計算ばっかりする。真名にはロマンがないよロマンが」


「……ロマンねぇ」


「さ、そんなことより早く乗ってくれ。ほら早く。さあ早く」


「あ、でもその前にお昼にしない? あたしそろそろお腹すいた。宿屋のおばちゃんがくれたお弁当食べよ?」


「……賛成。……装備の購入も、先にやっておきたいし」


「む、そうか。そういうことなら、空の旅は昼食後までおあずけだな」


 そんな様子で、三人がその場でお昼を広げ始める。

 するとそこに──


「にゃ、にゃああっ……」


 へとへとになった猫が三人のもとにようやくたどり着き、その横でぱったりと倒れた。


「「「あ、忘れてた」」」


 猫が恨みがましそうな目で見上げると、三人はてへっと舌を出してごまかしたのだった。


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