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ミコゴロウさん

 しばらく後。


 真名、勇希、神琴、それに猫を加えた三人と一匹は、再びのどかな風景の中で歩みを進めていた。


 ちなみに、猫の中身が人間だという件は、わりとどうでもいいこととして横に置かれた。

 だからと言ってどうということもない、というノリだ。


 神琴は、猫から聞いたという話を二人の友人に伝える。


「どうも人間だったときは、かなりの腕の騎士だったらしい。それが魔王に敗れ、四天王の一人の手によって魂をこの猫の器に入れられたのだとか」


「……ふぅん。……それはなかなか、ファンタジック」


「でもそれが分かったからって、その猫ちゃんを人間に戻せるわけじゃないんだよね」


「ああ。ともかく私たちと一緒に来たがっているから、連れていこうと思う」


「……まあ、どっち道、来るもの拒まずの姿勢だったしね。……いいんじゃない?」


「あたしも賛成。──ところで神琴、にゃんにゃん言葉はもういいの?」


「あ、ああ。相手が人間だと思ったら、急に興ざめしてしまってな」


「……複雑な乙女心だね」


「にゃあっ」


 そんな会話をしながら、うららかな陽気の下を歩いていく三人と一匹。


 するとやがて、行く先の遠くの方から、何やら悲鳴や叫び声が聞こえてきた。

 同時に、戦いの音らしきものも。


 それを耳にした三人は、顔を見合わせ、うなずき合う。

 そしてカードを天へと掲げた。


「「「──ブレイブ・イグニッション!」」」


 変身の光に包まれた三人は、変身完了とともにすぐさま走り出した。


 人間離れした速度で街道を疾走していく少女たち。

 周囲の景色が猛烈なスピードで後ろに流れていく。

 猫が一所懸命に追いかけるが、追いつかない。


 三人がしばらく駆けると、やがて視界に見えてきたのは、街道で立ち往生する荷馬車と、それに襲い掛かろうとする一体の魔獣の姿だった。


 さらにその魔獣と懸命に戦う戦士たちと、それとは別に腰を抜かしている商人らしき太っちょの男もいる。


 戦士たちは、三人いるうちの一人がすでに地面に倒れていた。

 残る二人のうちの一人も、今まさに魔獣の鉤爪で切り裂かれて、悲鳴をあげる。


「助けよう!」


「……うん。……あの魔獣は、グリフォンだね。……今のボクたちが、苦戦するような相手じゃない」


 勇希と真名が声を掛け合い、馬車に向かって駆けていく。


 真名がグリフォンと呼んだ魔物は、ワシに似た頭部と翼と前足の鉤爪を持ち、胴体後部はライオンのような姿をしていた。


 一方、それを見た神琴が、ハッとした声をあげる。


「二人とも待ってくれ! あいつは私に相手をさせてほしい!」


 その声で、走っていた勇希と真名が慌ててブレーキをかけ、神琴のほうへと振り向く。


「へっ、何で? 別にいいけど」


「……ひょっとして、【ビーストテイマー】のスキルを使うの?」


 真名が聞くと、神琴はうなずく。

 そして彼女は、地面を蹴ってダッシュをかけると、二人の横をびゅんと通り過ぎていった。


「戦いはやめるんだ、そこのグリフォン!」


 神琴はあっという間に馬車の近くまでたどり着くと、グリフォンに向かってジャンプし、両腕を広げてダイブした。


 そのあまりの唐突さと速さに、グリフォンも、それと戦っていた戦士たちも、まるで対応ができない。


 純白の神官衣に身を包んだ黒髪ポニーテイルの少女は、グリフォンに飛び掛かって抱きつくと、その勢いのままもつれ合ってごろごろと地面を転がった。


 ちなみに、グリフォンはライオンと同等以上の巨体であるのだが、勇者姿に変身した神琴のパワーはそれをものともしない。


 唖然とする戦士たちと、商人らしき太っちょ。


 だがグリフォンに飛び掛かったのが年端も行かない少女だと気付くと、戦士たちは慌てて声をかける。


「き、キミ、危ないぞ! 何をやっているんだ!」


「そいつは俺たちが数人がかりで相手をしても危険なぐらいの魔獣だぞ! 今すぐ離れてここから逃げろ!」


 だがそんな戦士たちの言葉にも、神琴が構うことはない。


 少女はグリフォンとともに地面に転がり、その魔獣に抱きついたまま、魔獣の頭をよしよしとなでる。


「よーしよしよし、怖くないぞー。大丈夫、大丈夫だからね──あっ、こら、やめろって、あはははっ、じゃれるなよぅ」


 グリフォンはその鋭いくちばしや鉤爪で、神琴を攻撃する。

 本来であれば鉄の鎧をも穿ちかねない威力。


 だが彼女の身を包む純白の神官衣は、そこにバリアでもあるかのように少女を守り、くすぐったい程度の衝撃しか与えない。


 そして、何度か攻撃して、グリフォンは悟った。


 ──この人間は異常だ。

 力も強い。

 逃げなければ、殺されるのはこっちだ。


 そう恐怖したグリフォンは、慌てて少女の腕の中から逃げ出そうとするのだが──


「あははっ、どこへ行くんだ。逃がさないぞーっ」


 少女はグリフォンを逃がすどころか、さらにぎゅっと力強く抱きついてきた。

 グリフォンのたくましい胴体が、少女の華奢な腕によってぎゅうううっと締め付けられる。


「グッ、グゲッ……」


 グリフォンは絶望する。

 ダメだ、もう、殺される──


 そこでついに、グリフォンの心がぽっきりと折れた。

 魔獣は心の底から、自分に抱きついている少女に屈服する。


 それが、スキル【ビーストテイマー】の発動条件だった。


「おっ、大人しくなったな。そうだぞ、怖くないからな。よしよし」


 神琴はスキルの発動に気付くと、グリフォンをハグ状態から解放し、その頭をなでる。

 グリフォンは神琴に懐くようにすり寄っていた。


 それを見ていた真名と勇希は、半笑いだ。


「……あのスキル、まさに神琴のためにあるようなスキルだね。……奇跡的マッチング」


「うん。でもちょっとグリフォンに同情するよ。神琴のあれ、力の加減とか考えてないよね?」


「……天然だね。……あの調子で抱きしめられたら、変身してないときのボクとか、絶対死ぬ」


「変身してたら、こんなにぎゅーってしても大丈夫なのにね。ぎゅううううっ」


「……あぅ。……苦しくはないけど、心臓がばっくんばっくんいって死にそう」


「えへへー。それはあたしもだよ」


 そんなイチャつく二人が見つめる先では、神琴が輝くような笑顔でグリフォンとじゃれていたのだった。


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