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ビーストテイマー神琴にゃん

数日前にまたタイトル変えました。

もう変えないと思います。お騒がせしてすみません。

 三人と一匹は、草原を分けて伸びる街道を、のんびりと歩いていく。

 ぽかぽか陽気のお日様に照らされて、絶好のお散歩日和だ。


 しばらく進んだ頃、とある村の近くでは、麦わら帽子をかぶった農家の人が、畑を耕す手を止めて遠くから声をかけてきた。


「お嬢ちゃんたち、珍しい格好だね! どこに行くね?」


 これには三人は顔を見合わせ、勇希が代表して返事をする。

 遠くなので、声を張り上げて。


「ちょっと、魔王退治に! あたしたち、勇者なんだって!」


「おおっ、ホントかい? そりゃ助かるよ! 何しろ魔王にはみんな困ってるんだ! いろんな国の王様が魔王を退治しようと兵を送っているけど、てんでダメって話さ!」


 その話を聞いた真名が、勇希のもとに寄って、背伸びをして勇希に耳打ちをする。


 すると勇希は「あっ、真名の吐息が耳に……」などと言ってもじもじとするので、真っ赤になった真名がピコハンで勇希の頭を叩いた。ピコン。


 てへっと舌を出して気を取り直した勇希。

 再び農夫のおじさんに向けて声をあげる。


「みんな困ってるって、魔王はどんな悪いことをするの?」


「どんなって、そりゃあ悪いことならだいたい何でもさ! モンスターに村や街を襲わせて食べ物を奪ったり、人を殺したり、女をさらっていったり、とにかく自分勝手に何だってやるんだ!」


「うわっ、本当に悪い!」


「本当に悪いんだよ! だからお嬢ちゃんたち、勇者なら魔王を退治してくれ!」


「うん、わかった、頑張るね! おじさんもお仕事頑張って!」


 そう言って、お互いに手を振り合って別れる。

 農夫のおじさんの近くで草を食んでいた牛が、モーっと鳴いた。


 それから三人はまた、街道を歩き始める。


 ちなみに神琴はというと、にゃんにゃん言いながらずっと猫とじゃれていて、そろそろ猫のほうが疲れ始めている様子だった。


 その様子を見ながら、勇希が真名に声をかける。


「ねぇ真名」


「……ん、なに、勇希?」


「あたしたち、こんなにのどかな雰囲気でいいのかな?」


「……よく分かんないけど、いいんじゃない? ……全力ダッシュで旅をしたって、疲れるだけで、どうせ大差ないよ」


「ま、それもそうか」


「……それにしても、ずいぶんいろいろと、ふわっとしてるよね……」


 真名はそう言いながら、ふわぁっとあくびをする。

 そして眠たそうに眼をこする。


「眠たそうだね、真名」


「……誰のせいだと。……あんな風に、夜中ベッドに潜り込んでこられたら、ドキドキして寝られるわけない」


「あたしはぐっすりだったよ? 真名の抱き枕、気持ちよかったぁ」


「……勇希がここまでだとは、こっちに来るまで思ってなかったよ。……前々からボクのこと、そういう目で見ていたの?」


「ずっと可愛いなぁとは思ってたよ。食べちゃいたいなとも。──でも真名だって大差ないでしょ? 真名が本当に嫌がっていたら分かるつもりだし、そうだったらあたしは真名に、こんな程度のことだってしない」


 そう言って勇希は真名の横に立って、自分の左手と真名の右手を合わせ、指を絡み合わせた。

 真名はそれにびっくりして、真っ赤になってうつむいてしまう。


「……勇希は、ずるい。……いつもボクは、手玉に取られる」


「にへへ~。でもこれはあたしも、結構ドキドキしてる」


「……だから、そういうのが、ずるい」


 と、二人がそんなやり取りをしていると、飽きることなく猫とじゃれていた神琴がこんなことを言ってきた。


「真名にゃん、お願いがあるにゃん」


 真名は勇希と繋いでいた手をパッと離して、神琴のほうへと向き直る。


「……な、なに、神琴。……猫語が板についてるよ」


「そんなことはどうでもいいにゃん。それより真名にゃん、これを見てほしいにゃん」


 そう言って神琴が取り出したのは、神琴自身の変身用のカードだった。


 今の猫とじゃれている彼女からは想像しづらい凛々しい顔立ちの変身姿が描かれているが、もちろん神琴が見せたいのはそこではない。


 カードのスキルの項目が開かれ、そこにはとあるスキルとその効果、取得のために必要なスキルポイントなどが表示されていた。


「……スキル『ビーストテイマー』? ……そういえば、神琴のスキルリストにだけ、そんなのあったね。……それで、これがどうかしたの」


 それは動物を一定の制限化で制御・使役することができる効果を持つスキルだった。


 真名はそれを、必要スキルポイントや制限の内容なども含めて戦力的に大きなプラスにはならないと思ってスルーしていたのだが──


「真名にゃん、ここをよく見るにゃん」


「……ここ? ……えっと……『なお、このスキルを取得した者は、動物(動物系のモンスターを含む)との意思疎通が可能となる』……うん、これがどうかしたの? ……確かに、何かの機会に、役には立つかもしれないけど」


 真名がそう答えると、神琴がガバッと、小さな少女に襲い掛かった。


 否、襲い掛からんばかりの勢いで真名の両肩をつかみ、がくがくと揺さぶった。


「真名にゃん! 何を言っているにゃん! 動物と喋れるにゃん! 夢のスキルにゃん!」


「……え、あ、うん。……そっか。……で、これを取得したいの?」


 真名がそう聞くと、神琴は首がもげそうな勢いでぶんぶんとうなずく。


 真名は、スキルなどにまったく興味を持たなかった神琴が自力でそこにたどりついたことに、動物好きの恐ろしい執念を感じていた。


「……ま、まあ、いいけど。……消費スキルポイント4だから、結構重いけど、普通に役にも立ちそうだし、いいと思う」


 何より、ダメだと言ったときどうなるかが怖い、というのは真名の胸のうちにしまいこんだ。


 一方、真名の許可を得た神琴は、嬉々としてカードを操作し始める。


 そして、いつものスキル取得操作のときとは雲泥の差、圧倒的素早さでスキル取得の操作を完了してしまった。


 神琴は猫をいったん地面に降ろすと、次にはカードを掲げ、勇ましく呪文を唱える。


「ブレイブ・イグニッション!」


 神琴は光り輝き、変身した。


 それから彼女は、地べたに四つん這いになって猫と向き合い、にゃーんにゃーんと喋りはじめる。


 真名はその姿を微笑ましげに見ながらも、一つため息。


「……神琴、先に行くから、適当に追いついてね」


 そう言って、勇希とともにまた街道を歩き始める。

 だが──


「ちょっ、ちょっと待つにゃん! 真名にゃん、勇希にゃん、これは事件だにゃん!」


 神琴がガバッと立ち上がって、二人を呼び止める。


「この猫にゃんは、元々は人間だったけど、猫の中に魂を封じ込められたと言っているにゃん!」


「「ええぇ……」」


 真名と勇希の二人は「嘘だぁ」という顔で、神琴を見つめたのだった。


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