願いましては、六時間で
それからおよそ四時間後。
三人の勇者は、第三階層のボス大広間の先にある回復の泉の広間で、ばったりと倒れていた。
彼女らが今そこにいるのは、この試練の洞窟の第二階層と第三階層をも攻略し、第三階層のボスである「アークエンジェル」を撃破した証であった。
「……つ、疲れた」
「もーヤダ! もう何があっても休むからね! 真名がなんて言ったってあたしは動かないからね!」
「そうだな……。私もしばらく休みたい。五分でいいから、休憩を」
「……大丈夫、もう休んでいい。……これ以上先は、もう、ないみたいだし」
そう言って真名が見るのは、回復の泉の広間の作りだった。
ぐるりと見回しても、自分たちが入ってきた入り口しかない。
つまりそれは、この第三階層が「試練の洞窟」の終点で、これ以上強いモンスターはもうこの洞窟にはいないということだ。
「……だったら、これ以上頑張っても、劇的な成長は、もうないはず。……それにどうせ、時間もあと十分ぐらいしかない。……ボクたちはもう、すごく頑張った。……もう、ゴールしてもいいよね……」
「真名がいいなら、私から言うことはない……」
「……あ、でも、最後、カードの確認」
もう立ち上がるのもめんどくさいといった様子の真名は、床の上で隣り合ってぐったりした勇希と神琴に四つん這いで這い寄り、二人の制服のポケットから変身用カードを取り出す。
そして自分のカードも取り出すと、三枚を床に並べた。
***
名前 勇希
職業 剣士
性別 女
年齢 14歳
レベル 63(+45)
HP 444/444(+296)
MP 108/108(+67)
攻撃力 207(+122)
防御力 83(+44)
魔力 47(+31)
魔防 57(+34)
素早さ 119(+78)
残りスキルポイント 40(+25)
スキル
ソードマスタリーⅡ(up)
HPアップⅡ(new)
攻撃力アップⅡ(up)
防御力アップⅡ(new)
魔防アップⅡ(new)
素早さアップⅡ(new)
スマッシュ
ブランディッシュ(new)
呪文
なし
装備
鉄の剣
鉄の胸当て
鉄の小手
所有ジェム 19
ブレイブチャージ 100%
***
名前 神琴
職業 神官
性別 女
年齢 14歳
レベル 63(+45)
HP 298/298(+206)
MP 269/269(+188)
攻撃力 168(+106)
防御力 61(+35)
魔力 156(+100)
魔防 70(+42)
素早さ 90(+60)
残りスキルポイント 27(+12)
スキル
フィストマスタリーⅡ(up)
HPアップⅡ(new)
MPアップⅡ(new)
攻撃力アップⅡ(new)
防御力アップⅡ(new)
魔力アップⅡ(new)
魔防アップⅡ(new)
素早さアップⅡ(new)
呪文
ヒール
アークヒール(new)
キュアポイズン
キュアパラライズ(new)
装備
神官のローブ
神官の聖印
所有ジェム 19
ブレイブチャージ 100%
***
名前 真名
職業 魔法使い
性別 女
年齢 14歳
レベル 63(+40)
HP 269/269(+172)
MP 298/298(+188)
攻撃力 51(+28)
防御力 50(+28)
魔力 240(+130)
魔防 69(+35)
素早さ 64(+46)
残りスキルポイント 30(+12)
スキル
モンスター識別
モンスター図鑑(new)
ステータス識別(new)
HPアップⅡ(new)
MPアップⅡ(new)
防御力アップⅡ(new)
魔力アップⅡ(new)
魔防アップⅡ(new)
素早さアップⅡ(new)
呪文
フレイムアロー
フリーズアロー
サンダーアロー
サンダーストーム(new)
スリープ
装備
魔法使いの杖
魔法使いのローブ
魔法使いの帽子
所有ジェム 19
ブレイブチャージ 100%
***
「あー、また真名がカード見てニヤニヤしてる」
勇希がそう言ってトカゲのように真名に這い寄り、うつぶせに寝転がってカードを眺めていた少女の上に乗っかっていく。
「ぐぇっ……重いよ、勇希……」
「ねぇ真名、それってそんなに見てて楽しい?」
「……楽しいっていうか、満足。……ボクたちも、強くなったなぁって、実感してる。……あと、どいて、重い」
「ふぅん、そんなので実感するんだ。あと真名可愛い。むぎゅううううっ」
「……うぅっ……ゆ、勇希……ほんとギブ、ギブアップ……」
真名が自分の上に乗っかっている勇希の腰を、手でパンパンとたたく。
勇希が「あ、ごめん。ほんと苦しかった?」などと言って真名の上から退くと、真名はぜぇぜぇと潰れた蛙のようになっていた。
それを近くで眺めていた神琴は、ふっと笑う。
「相変わらず仲が良いな、お前たちは。……しかし、強くなったと言われても、いまいち実感がわかないのはあるな。確かに変身時の身体能力は上がっている気がするが……」
「同感。敵もどんどん強いやつが出てきたもんね。第三階層にワラワラいた天使みたいなやつ、何あれ? 強くなったって思っても、敵も強くなるから、実感わかないよね」
「……第三階層にいた、ゴッド何とかだとか、何とかエンジェルだとかは多分、この試練の洞窟の外に出たら、いないと思うよ。……何しろ、【モンスター図鑑】のスキルを開いても、載ってなかった。……あれ多分、敵の方も、反則みたいなもの」
「よく分からんが、要約するとどういうことだ?」
「……この洞窟の外に出たら、第二階層にたくさんいたミノタウロスだとかワイバーンだとかグリフォンだとか、ああいうのが最強クラスの雑魚モンスターだろうってこと」
「ふぅん。やっぱり真名の言うことはよく分かんないや」
そう言って勇希がケラケラと笑う。
そのとき、勇希の体がキラキラとした光を発し始めた。
真名や神琴の体も同様だ。
「……あ、そろそろ時間みたいだね」
「そうか。ようやく終わりか。この六時間、ずいぶん長かった気がする」
「ホントだよ。散々汗もかいたし、早くお風呂入りたいよ」
「……あ、それ同感」
「気が合うな。私もだ」
三人はそんなやり取りをしながら、強い光に包まれる。
そして光がやむと、そこに三人の姿はなかった。
加えて、三人の勇者がいなくなった「試練の洞窟」は、やがて崩壊を始める。
そこにあった大地が砕け、砂となり、光の粒となって真っ白な虚空へと消え去っていく。
その誰もいなくなった崩壊しかけの時空に、「声」が響き渡る。
『敵わぬ敵にも勇ましく立ち向かわんとする、真に勇敢なる勇者たちよ。私があなたたちにしてあげられるのは、ここまでです。どうかあなたたちに、幸あらんことを』
そして「試練の洞窟」は消え去り、あとには真っ白な神の時空だけが残ったのだった。
***
三人が目を覚ましたのは、小さなほこらの中だった。
四畳半ほどの狭い石造りの建物に、女神像と祭壇だけが配置されている、試練のほこら。
その祭壇の上で、三人の少女はぎゅうぎゅう詰めで目を覚ました。
ほこらの入り口からは、一日の終わりを告げるような夕焼け色の外光が斜めに注ぎ込んでいる。
勇希、神琴、真名の三人は、祭壇から降りて立ち上がり、うんと伸びをする。
「やー、外の世界だね。狭苦しい洞窟は、もうしばらくいいや」
「同感だ。それに早く街へ帰ってひと風呂浴びたい」
「……わかる。……試練は、疲れた」
そんなやり取りをしながら、ほこらの外に出ていく三人。
だが、外に出た彼女らが、最初に目にしたものは──
「──よう、待ちくたびれたぜメスガキども。さあ、第二ラウンドといこうか」
全身を炎に包まれた牛頭の巨人──炎獣将軍モーガルバンが、試練のほこらの前で待ち構えていたのだった。