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二時間で20レベル上がりました

 三人がクラーケンをタコ殴りにして消滅させると、広間の奥にあった「扉」が荘厳な音をたてて開いた。


 少女たちはうなずき合うと、その先へと進んでいく。


 扉の先にあったのは、下りの階段だった。

 三人はそれを下りていく。


 学校の階段なら三階分ぐらいを下ったという頃、階段が終わり、小さめの広間に出た。


 広間はこの試練の洞窟のスタート地点にあったのと同じぐらいの広さで、隅のほうには最初の間と同じように輝く水をたたえた泉がある。


 そして広間の奥には、先に続く通路が続いていた。


「……ここから先が、第二階層みたいだね。……ブレイブ・リリース」


 真名は変身を解除して、自身のカードのステータスを確認する。

 そこにはこのような数字が表示されていた。



 ***



名前  真名

職業  魔法使い

性別  女

年齢  14歳

レベル 23(+5)

HP  97/97(+16)

MP  89/110(+19)

攻撃力 23(+4)

防御力 22(+3)

魔力  110(+15)

魔防  34(+4)

素早さ 28(+4)

残りスキルポイント 18(+5)

スキル

 モンスター識別

呪文

 フレイムアロー

 フリーズアロー

 サンダーアロー

 スリープ

装備

 魔法使いの杖

 魔法使いのローブ

 魔法使いの帽子

所有ジェム 19

ブレイブチャージ 93%



 ***



「……おー、クラーケンとの一戦だけで、一気に5レベルアップ。……これはすごい。……や、でも、最初からこういうシステムか。……やっぱり、経験値倍増キャンペーンがしょぼいんじゃなくて、弱い敵とばっかり戦っていたからなんだ」


「ん、どしたの真名? 何か嬉しそうだね」


 真名がカードを真剣に見ていると、その後ろから勇希が抱きついてくる。


 さらに真名の頭をなでなでしてくるが、そろそろ真名のほうも慣れたもので、気持ちよさそうにそれを受けいれる。


「……うん、嬉しいよ。……ねぇ勇希、あの炎獣将軍モーガルバンのレベル、いくつだったか知ってる?」


「れべる……? ──ああー、あのあたしたちのカードにも書かれてるやつ。ああいう数字がモーモーさんにもあるの?」


「……うん、あるの。……ふふふっ、もうあいつにだって、そう簡単に負けるもんか」


「うわぁ、真名が悪い顔してる。でも悪い顔の真名も可愛いなぁ。なでなで」


「……にゅう。……しかも、それだけじゃないんだよ」


「ふんふん。真名の可愛さにはまだまだ限りがないと?」


「……そうじゃない。……ここまで来るのに、だいたい二時間。……ボクたちには、あと四時間も残ってる。……勇希、このことの意味、分かる?」


 そう言って真名は、自分に抱きついた勇希を見上げて、嬉しそうに微笑んだ。



 ***



 一方その頃。


 魔王城では、玉座に横柄に腰掛けた魔王アゼルヴァインを前に、炎獣将軍モーガルバンがひざまずいて申し立てをしていた。


 面白くもなさそうな顔で玉座から見下す魔族の少年を前に、モーガルバンは必死に言いわけをする。


「ま、魔王様! どうか俺さ……わたくしに、今一度のチャンスを! 次こそは必ず、あの勇者とかいう生意気な小娘どもの首を取ってまいります!」


 今回の件で、炎獣将軍モーガルバンに下された決定。

 それは彼を魔王軍四天王から下ろし、平のモンスターに降格するというものだった。


 モーガルバンはその決定を考え直してもらおうと、こうして魔王に謁見をしているのである。


 しかし、それを聞いた魔王アゼルヴァインは、はぁと大きくため息をつく。


「……だからさぁ。お前、脳ミソないの? いつ俺が勇者の首を取ってこいって言ったよ。むしろ俺が命じたのは逆だよな? 俺、お前になんて命じたよ」


「それは……! で、ですが!」


「『ですが』じゃねぇんだよ。俺は今、俺がお前に何を命じたかって聞いてんだよ」


 魔王は玉座から立ち上がり、ゆっくりと炎獣将軍モーガルバンの前まで歩み寄る。


 そして、眼下にひざまずいたモーガルバンを冷たい目で見下すと、その燃え盛る牛面の頭を靴の裏でぐりぐりと踏みつけにした。


「ほれ、言ってみろよ。俺はお前になんて命じた」


「そ、それは……『賢者ユアンを捕まえてこい。ただし勇者は殺すな』と……」


「おう、そうだよ。ちゃんと覚えてんじゃねぇか。……それがどうして、ああなるんだよ。お前、あの一番チビの勇者、殺そうとしてたよな?」


 少年魔王の可愛らしくすらある声が、それまで以上に冷たい響きを発する。

 その声に、炎獣将軍モーガルバンはびくりと震えた。


「そ、それは、その……勢いあまってと、申しますか……」


「勢いあまって、ねぇ。……舐めてんのかお前?」


 ──ゴォンッ!


 魔王の足が勢いよく踏み下ろされ、モーガルバンの顔が魔王城の謁見の間の石床にたたきつけられた。


「がっ……!」


「……なぁおい、お前……俺のこと舐めてんだろ?」


 少年魔王はさらに、モーガルバンの頭部の角を片手で引っつかんで持ち上げると、次にはその牛頭の巨人のあごを、サッカーボールのように下から蹴り上げる。


 炎獣将軍の巨体はたやすく宙を舞い、空中で一回転しながら放物線を描いて、ずしんと床に落下した。


 そこにまた、ゆっくりと歩み寄る魔王アゼルヴァイン。

 モーガルバンは血まみれでボロボロになりながらも、再びそこにひざまずき頭を下げる。


「ま、魔王様……どうか、お許しを……!」


「『お許しを』じゃねぇんだよ。何でもかんでもあとで謝りゃ許してもらえると思ってんじゃねぇのか? あぁ?」


「そ、そのようなことは、決して……!」


「そうか。じゃあそういうことにしておいてやるよ。──それから、お前が望んだ今一度のチャンスとやらもくれてやる。一応、ユアンを捕まえてくるって命令は果たしてるしな」


「は、ははっ! あ、ありがたき幸せ!」


 再び首をたれる炎獣将軍モーガルバン。

 魔王アゼルヴァインはそれをどこまでも冷たい目で見下しながら、次なる命令を下す。


「勇者たちが今いるのは、アルディールの街の北にある『試練のほこら』だ。そこから出てくる勇者たちを始末してこい。それができたら、今回の命令無視は不問にしてやるよ」


「ははっ、かしこまりまし……って、はっ……? で、ですが、それは……」


 モーガルバンは、少年魔王の顔をまじまじと見上げる。


 勇者たちを殺そうとしたことを咎められたのに、今度はそれを殺してこいと言う。

 魔王の意図が、モーガルバンには分からなかった。


 だが魔王アゼルヴァインは、そのモーガルバンの態度を見て、不愉快そうに眉をひそめる。


「あぁ? なんだその目は。俺の命令に、何か不服でもあるのか?」


「い、いえ、滅相もございません! この炎獣将軍モーガルバン、必ずや魔王様の命を果たしてまいります!」


「おう。俺の直属の部下にバカと無能はいらないからな。しっかりやれよ」


「ははっ! それでは、失礼いたします……!」


 モーガルバンはそう言って、魔王の気が変わらないうちにと、そそくさと謁見の間を出ていった。


 するとその後、謁見の間の陰から、一人のしわがれた声の老人が姿を現す。


「ふぉっふぉっふぉっ……良いのですかな、魔王様?」


「……マーロンのジジイか。──いいんだよ。あいつはバカ過ぎてダメだ」


 魔王は老人をちらと一瞥だけすると、それにも興味がなさそうにまた玉座に座り直す。


「ふぉっふぉっ。魔王様は、ずいぶんとあの勇者とかいう小娘どもを買っておるようで」


「別に。チャンスはくれてやった。これで潰れるようなら、どうせ大して面白くもねぇってだけだ。俺はそんなに気が長くない」


「ふぉっふぉっ。ではこの老骨めも、魔王様演出の劇場をともに楽しませてもらうとしましょう」


 そう言って老人は、再び陰の中へと消えていった。

 魔王はそれを見送ってから、ふと笑う。


「だが、もしあいつに勝つようなら──」


 少年魔王はそのときに得られる極上の味を想像し、舌なめずりをした。



 ***



 一方、謁見の間を出ていったモーガルバンは鼻息を荒くし、不愉快そうに魔王城の廊下をどすどすと歩いていた。


「クソッ! クソックソックソッ! 俺様が四天王から降ろされるなど、あってはならんことだというのに! それもこれも、全部あの勇者とかいうメスガキどものせいだ! あいつら全員、試練のほこらから出てきたところをギタギタになるまでぶん殴って、犯し尽くしてから体を引きちぎって殺してやるぞ!」


 暴力的な衝動に取りつかれた半獣人のモンスターは、やがて魔王城の屋上に出ると、そこから翼を羽ばたいて飛んでいく。


 向かう先は、アルディールの街の北、試練のほこら。

 再戦のときは、すぐそこまで近付いていた。


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