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ゲーマー魂

 その後、三人は「試練の洞窟」の探索をごりごりと進めていった。


 洞窟は思いのほか広く、ひょっとすると無限に広がっているのではないかと思ってしまうほどだった。


 しかも行く手では必ずなんらかのモンスターと出遭い、戦うことになった。


 洞窟に分岐路があっても、あっちに進めばオークが三体、こっちに進めばゴブリンが十体といった様子で、とにかくひっきりなしにモンスターと遭遇する。


 あまりの遭遇頻度に、勇希などは途中からげんなりしていたのだが、普段一番面倒くさがりの真名がモンスターと遭遇するたびにニコニコ笑顔になっていったのには、勇希も神琴もたいそう不気味がっていた。


 勇希が真名に、どうして、と聞くと、


「……だって、キャンペーン中なんだから、稼げるだけ稼ぎたいし。……それが、入れ食い状態。……くふっ、くふふふっ……これが面白くなくて、何だっていうの」


 などと不気味な含み笑いをしていて、勇希と神琴を怯えさせていた。


 ダンジョン探索の間じゅう、真名の口からは「効率」という言葉が連呼された。

 いかに回復の泉との往復回数を減らすか、それが大事だと彼女はとくとくと語った。


 一度倒したモンスターが再度同じ場所に出現ポップするようなことはないようだから、とにかく短時間に多くの経験値を稼ごうとすればそうする必要がある、というのが真名の主張だったが、例によって勇希や神琴にはちんぷんかんぷんだった。


 洞窟で遭遇するモンスターはいずれも、さほど強いものではなかった。


 オークやそれと同格のそこそこのモンスターが数体か、ゴブリンやそれと同格の雑魚モンスターが十体から二十体程度というのが、一度に遭遇するモンスターの強さと数の相場だ。


 真名たちは当初は潤沢に魔法やスキルを使って戦っていたのだが、レベルアップして強くなっていくにつれて、真名はよっぽどの強敵相手にしか魔法を使わなくなり、しまいには杖でモンスターを殴るようになった。


 さらに真名は、神琴が小さな怪我に【ヒール】を使うことや、勇希が雑魚相手に【スマッシュ】を使うことにも苦言を呈し、「そこまですることなくない?」と言った勇希に向かって、吠えるチワワのような剣幕で威嚇した。


 真名は今、このゲームに対して、真剣そのものだった。


 なお、回復の泉はHPやMPを回復するだけでなく、ブレイブチャージを瞬時に完全回復させる機能も持っていた。


 その事実を確認した真名は、「……だよね。……六時間の耐久レースなんだから、そうじゃないとおかしい」などと言ってしきりに納得し、満足げにしていた。


 ちなみに真名は、回復の泉の水を運べないかなども検討したが、その水は泉を離れると効力を失ってしまい、普通の水になってしまうようだった。


 手ですくって運んでみた真名は、すぐに輝きを失った水を見て自嘲気味に笑い、「……ふっ、分かってた。……ちょっとやってみたかっただけ」などとつぶやいていた。


 ──そのようにして、試練の洞窟の探索開始から、二時間弱が経過した頃。


 真名が、「……集中力が落ちると、思わぬ事故の原因になるから」と言って設けた休憩時間になって、三人の少女は回復の泉の広間で、みんなぐったりとしていた。


 いずれも変身を解いた制服姿。

 勇希が真名の小さな体に抱きつき、少女のほっぺたにすりすりと頬ずりをする。


「真名ぁ……疲れたよぅ……癒しておくれよぅ……」


「……ん、そんなことで回復になるなら、許す。……ボクも、勇希の体、温かいし。……ぬくぬく」


「……真名自身も、ずいぶん疲れているようだな。普段と言うことが違っているぞ……」


 少し離れた場所で大の字になっていた神琴が、言葉だけでツッコミを入れる。

 彼女もまた、疲れ切っている様子だった。


「なんなら神琴もこっち来なよ~。柔らかくて、温かいよ~」


「……いや、遠慮しておく。堕落しそうで怖い」


「え~っ、一緒に堕落しようよ~」


「……しようよ~」


「えぇい、堕落の国の使者どもめ。退散だ。悪霊退散」


「うーわー、とける~」


「……とける~」


 そんな頭の中がすでにとけているような会話を繰り広げつつ、しばしの休憩をする少女たち。


 そうしたわずかな休憩時間も終わりに近付いた頃、真名が勇希の腕の中からもそもそと抜け出して、立ち上がった。


「……それじゃ勇希、神琴、カード見せて」


「はーい、真名先生」


「ああ、真名。……これはどんな感じなんだ?」


「……どんな感じ……表現が難しい。……最初の頃と比べれば、すごく強くなってるのは、間違いないけど」


 真名の前に提示された勇希、神琴、真名のカード。

 そこに記されているデータは、このような具合になっていた。



 ***



名前  勇希

職業  剣士

性別  女

年齢  14歳

レベル 18(+13)

HP  148/148(+80)

MP  41/41(+20)

攻撃力 85(+33)

防御力 39(+11)

魔力  16(+7)

魔防  23(+8)

素早さ 41(+21)

残りスキルポイント 15(+13)

スキル

 ソードマスタリーⅠ

 攻撃力アップ

 スマッシュ

呪文

 なし

装備

 鉄の剣

 鉄の胸当て

 鉄の小手

所有ジェム 19

ブレイブチャージ 100%



***



名前  神琴

職業  神官

性別  女

年齢  14歳

レベル 18(+13)

HP  92/92(+48)

MP  81/81(+43)

攻撃力 62(+24)

防御力 26(+8)

魔力  56(+26)

魔防  28(+9)

素早さ 30(+14)

残りスキルポイント 15(+13)

スキル

 フィストマスタリーⅠ

呪文

 ヒール

 キュアポイズン

装備

 神官のローブ

 神官の聖印

所有ジェム 19

ブレイブチャージ 100%



***



名前  真名

職業  魔法使い

性別  女

年齢  14歳

レベル 18(+13)

HP  81/81(+43)

MP  91/91(+48)

攻撃力 19(+9)

防御力 19(+7)

魔力  85(+39)

魔防  30(+10)

素早さ 24(+12)

残りスキルポイント 15(+13)

スキル

 モンスター識別

呪文

 フレイムアロー

 フリーズアロー

装備

 魔法使いの杖

 魔法使いのローブ

 魔法使いの帽子

所有ジェム 19

ブレイブチャージ 100%



***



 勇希があらためてカードを見直して、率直な感想を口にする。


「なんかしばらく見ないうちに、たくさん数字が増えてる気がするよ。このHPとか攻撃力とかいうの、最初はもっと半分ぐらいの数字じゃなかったっけ? ──ねぇ真名、これがあたしたちが強くなった証なの?」


「……ん、その認識で合ってる。……でも……」


「何か問題があるのか、真名?」


 そう神琴に問われても、真名はどこか上の空だ。

 口元に当てた右手の親指の爪を噛みつつ、ぽつりぽつりとつぶやく。


「……うん。……問題っていうか……さすがにもうモンスターが雑魚すぎて、レベルアップがしにくくなってきてるっぽい。……これじゃ、いくら戦い続けてもたかが知れてる」


 そう真名が言うとおり、真名たちのレベルアップのペースは徐々に、かつ急激に鈍ってきていた。


 この試練の洞窟で戦い始めた当初は一度の遭遇で2レベルもアップしていたものが、今では五回遭遇してようやく1レベル上がるといった塩梅だ。


 真名たちはこの二時間弱でトータル三十回を超えるモンスターとの遭遇を経験したが、急速に成長していたのは最初の頃だけ。


 そして今後、レベルアップのペースはさらに鈍ってくるだろう。


「……いい加減、もっと強いモンスターと戦いたい。……でも、それにはきっと、あいつを倒さないといけない」


「あいつって? モーモーさん?」


「……違うよ。……魔王とその眷属は、この試練の洞窟には入れないって言ってたでしょ。……そうじゃなくて、洞窟を探索しているときに、ボスっぽいモンスターがいたじゃない」


「ん……? あー、あれか! あの大っきなタコだかイカみたいなやつ!」


 勇希がポンと手を打つと、真名がこくりとうなずく。


 真名たちがモンスターを狩って回っているとき、とある大広間にそれまでに遭遇したことのない巨大モンスターがいるのを、彼女らは発見していたのだ。


 その姿はタコやイカに似ていたが、三階建ての学校の校舎にも匹敵する大きさを持ち、陸上にあってその多数の肢をうじゅるうじゅると蠢かせていた。


 真名はその巨大モンスターの背後に、一つの立派な「扉」を見つけていた。


 この試練の洞窟では、「扉」はほかに見ていない。

 あの奥には必ず、重要な何かが存在するはずだと真名は見込んでいた。


「……あいつを倒せば、多分、『次の階層』に行けるんだ。……だったら」


 真名はいつになく、力強い意志を込めてつぶやく。


 彼女の瞳の奥には、熱い炎がメラメラと燃え上がっていた。


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