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プロローグ

 世の中には越えられない壁が存在する。

 壁にぶつかった時、人はどうするだろうか? 壁を乗り越えようとする者。諦める者。他の人々と協力して壁を乗り越える者。選択肢は幾らでも存在すると思う。


 しかし、身分という壁は、絶対に乗り越えることが出来ない。平民がどんなに努力しても貴族や王族にはなれないのだ。かつては、戦争というイベントが存在した。戦争で活躍することで、平民でも武将貴族の位が貰え貴族になる道はあった。


 だが、王国ランドグリーズが世界を統一してから一変した。今でも多少の反乱軍や王国に従わない部族は存在する。だが、世界を揺るがす戦争はもう二度と起きない......はずだ。


 「人よりも偉くなって権力を手に入れたい」


 雲ひとつない青空に向かって俺は呟く。小さい頃からの俺の夢だ。俺は、平民出身のごくごく一般家庭で生まれた。親はどちらとも農民だ。もし親が役人だったら多少は貴族と接点があったかもしれない。役人は仕事柄、貴族と交流するからだ。だが、農民には接点がない。年貢の取り立てに来る者は皆役人だった。おまけに辺境の地に貴族が視察に来ることはまず有り得ない。


 貴族に出会うことなく18年間俺は生きてきた。小さい頃に王都に行った時に、会ったかもしれないが、小さい頃の話だ。覚えていない。


 「リンドウー! リンドウー!! いるんでしょー?」


 遠くから母親の声が聞こえてきた。そろそろ行く時間か?


 農民の子に生まれ、農民としてどっかの村娘と結婚して一生を終える……という多くの農民が通る道を俺は歩まない。俺は努力した。平民でも偉くなりたい、権力を手に入れたい、貴族の娘と結婚して玉の輿に乗ってやることを夢見て懸命に勉強した。親には感謝している。決して裕福ではない家庭で俺のために高等学校まで通わしてくれたのだから。


 この時代、高等学校出身の農民は多くない。多くの農民は、小学校を卒業すると家の手伝いを始める。本格的に家業を継ぐためにだ。その先の中等学校に進んだ者でも高等学校に進学する者は皆無だ。理由は簡単。学歴は農民に必要ないないからだ。学歴よりも農業の経験。経験こそが知識よりも農民には大事な要素だからだ。そんな中、俺の親は高等学校まで通わせてくれた。そのおかげで、農民から脱出することが出来た。


 今年の冬に行われた役人選抜試験で、俺は見事、役人に合格した。領主様の補佐役で領地を管理するのが俺の役目だ。しかも派遣先の領主は女性で貴族出身らしい。


 後は、女領主と結婚して玉の輿に乗るだけだ!!


 女領主と結婚して権力を手に入れれば、俺の将来は安泰だろう。小さい頃の夢も叶えることが出来る。それに、派遣先が辺境の地というのは若干、不安要素だが問題はないだろう。


 「すぐ行くーー」


 俺は、こっちに向かってくる母親に返事をし、立ち上がる。そう、今日から俺の生活は一変するはずだ。

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